芸風から笑いの分析へ。笑いに対する視聴者の視線は変化し、スター芸人を発掘する動きが活発化している。今注目すべきお笑い芸人のトレンドについて評論家に話を聞いた。
国民的賞レースの影響でお笑いのニーズが多様化
2019年頃から〝お笑い第7世代〟と呼ばれる芸人が一気に台頭した。これにより、テレビのお笑い番組が増加。今なお芸人にスポットが当たる機会は増えている。だが現在、その中心にいるのは、非お笑い第7世代の芸人たちだ。
インディーズライブを中心に活動する〝地下芸人〟、2010年代後半~2020年代初頭に松竹芸能から移籍した芸人〝脱竹〟など、近年は様々なキーワードが飛び交っている。一方で、お笑い業界の新陳代謝が加速していると感じる読者は少ないはずだ。一番の理由は『M-1グランプリ』『キングオブコント』といった、全国放送される賞レースが風物詩化したことだろう。ニホンモニターがテレビ番組出演者データをもとに集計した近年の「ブレイクタレント」を見ると、ランキング上位に名を連ねるのは、モグライダー、錦鯉、お見送り芸人しんいちといった、賞レースで爪痕を残した芸人たちだ。
全国放送される賞レースが国民的番組になったことで、お笑いは語れる文化へと昇華。市民権を得たことで、個性的な笑いを求める土壌も生まれつつある。
2022年にブレークした主な芸人
モグライダー
錦鯉
お見送り芸人しんいち
2022年にテレビ番組出演数を最も伸ばした芸人は『M-1グランプリ2021』ファイナリストのモグライダーで、次点は錦鯉。お見送り芸人しんいちは〝脱竹〟芸人のひとり。ピン芸人日本一決定戦『R-1グランプリ2022』で、爽やかなバラードに乗せた毒のある歌ネタ芸を披露し、3000人の中から日本一のピン芸人に輝いた。
テレビ番組、劇場などシーン別にシン・勢力を分析
お笑い評論家
ラリー遠田さん
1979年生まれ。東京大学文学部卒。テレビ番組制作会社を経てフリーライターに。在野のお笑い評論家として取材、執筆、イベント主催などで活躍。『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など多数の著作がある。
ライブシーンから30代のシン・勢力が猛攻!
人気芸人の座をめぐる主戦場として注目したいのがテレビ番組と劇場だ。中でも『有吉の壁』、吉本興業の常設劇場「神保町よしもと漫才劇場」芸人がアツいとラリー遠田さんは話す。
「前者は、先輩の有吉弘行さんを笑わせたい一心で競い合うようにネタを磨きます。後者は同世代の若手芸人が励まし合いながら舞台に立つ。関係性は異なりますが、どちらも実力を引き出しやすい環境であることが共通点です」
派閥や仲間単位で新たな人気者が生まれるケースもある。ラリーさんが期待を寄せるのは、バイク川崎バイク率いるBKB軍団だ。
「意外に思う方はいるでしょうが、バイク川崎バイクさんはすでに売れっ子。さらば青春の光の森田さんやニューヨークの屋敷さんは昨今の活躍でようやく彼の人気に追いついたという印象です。プライベートトークや息の合ったやりとりなど、舞台だけでなく、平場で使える武器があることも大きなアドバンテージだといえるでしょう」
大学お笑い出身の芸人たちも頭角を現わしている。
「お笑いが語れる文化になるにつれ、大学のお笑いサークル文化が盛り上がりました。プレーヤーだけでなく、彼らを対象にした賞レースも増え、全体のレベルが一気に上がりました。ストレッチーズなど30代前半の大学お笑い出身者が常連組のK-PRO主催ライブは要注目です。いわゆるK-PRO芸人は表舞台に最も近い存在です」
注目度が急上昇!お笑い業界の新勢力「神保町よしもと漫才劇場」所属芸人
国民的賞レースの影響でお笑いのニーズが多様化 2019年頃から〝お笑い第7世代〟と呼ばれる芸人が一気に台頭した。これにより、テレビのお笑い番組が増加。今なお芸...
取材・文/編集部