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小さな企業2社が賃上げするために行なった大胆施策の中身

2023.03.23

■連載/あるあるビジネス処方箋

前回、賃上げをテーマに私の考えを述べた。賃上げは日本経済を活性化させる起爆剤にはなりうる。海外から人材を獲得するうえでも、国際標準レベルの額にはするべきなのだろう。だが、それを可能にする経済環境や社内の状況が整わないと、本来はできないものなのだ。

賃上げができなくなった1990年代後半以降、日本の経済環境は現在に至るまでほとんど変わらない。少子化はむしろ、深刻化している。この約10年、安倍政権の時から政府は経済界に賃上げを要請し続けた。それを表向きは受け止めつつも、応じなかった企業が多かった。

だが、最近は労働力不足や人材難が一段と深刻化している。大企業、中堅企業、中小企業、ベンチャー企業それぞれのレべルでついに賃上げに踏み込まざるを得なくなった。おそらく、経営基盤が大企業に比べると脆弱な中小企業、ベンチャー企業はさぞかし勇気が必要だったろう。

今回は中小企業、ベンチャー企業でありながら、賃上げを確実に行っている2社を紹介したい。賃上げを可能にするポイントは、高収益の事業とそれをビジネスとして実現できる優秀な人材の採用、育成があると私はみる。取材は2年前にしたが、特に印象に残っている事例であるので、あらためて取り上げたい。

高収益の事業は得てして、他社と様々な点で差別化を図っているものだ。この2社も例外ではない。特に古き慣習や不合理な構造をただすミッションや責任感を持ってビジネスモデルを構築するところに1つの特徴がある。このミッションや責任感が、従来の商品、製品、サービスに満足できない人たちから支持される。2社の商品、製品、サービスは競合優位な立場であるから、賃上げも可能なのだ。

エッジの効いたビジネスモデル…オンライン英会話「ビズメイツ」

オンライン英会話のビズメイツは正社員78人(2023年3月現在)を対象に業績や成果に応じて毎年給与改定を実施する。過去の給与改定による昇給率は3%程度だが、評価の高い社員は10%を超える。例えば年収480万円で評価が高い社員は530万円前後になる。賞与は決算賞与が年1回。さらには将来の幹部候補育成と組織活性のために「抜擢」を重視している。今年度は、入社2年の中途若手社員を管理職に昇格、15%超の賃上げを行った。

着実な賃上げを可能にしている大きな理由に、エッジの効いたビジネスモデルがもたらす好業績がある。売上は5年間の平均で、前期比125%程度の成長率だ。

数多くのオンライン英会話の企業の中でフィリピンにいち早く拠点を設け、12年にスタートした。日本よりはコストが低いことやフィリピン人のトレーナー(講師)としての質の高さ、日本人との親和性に着眼した。顧客の多くは日本の大企業や中堅、ベンチャー企業の社員。経営者や自営業者もいる。トレーナーの拠点をフィリピンに構え、顧客を日本のビジネスパーソンに絞るのは同社がパイオニア的な存在と言える。

鈴木伸明社長は「特化させることでトレーナーやレッスンのレベルが上がり、質の高いサービスになる」と語る。

トレーナーは高い英語力はもちろん、ビジネスの経験が豊富な人を厳選する。毎月平均1回の採用試験の採用率はエントリー者のうち、1%以下。会社の役員や管理職経験者、MBAホルダーや会計士、医師や弁護士などでその数は現在、約2,000人だ。採用後、教育訓練を受講し、講師デビューする。受講生(顧客)から指名が多数入る講師が人気講師となり、より高い報酬を受ける。鈴木社長はこう話す。「オンライン英会話の中ではレッスンの値段は高い部類だが、質は最も高いと自負している。それだけの採用、トレーナーや教育訓練態勢、トレーナーへの報酬、教材をそろえてある」。

一方、日本の本社では管理部門や営業、新規事業に関わる社員を雇う。20年まではあえて新卒(主に大卒、大学院)採用をしなかった。オンライン英会話の事業がゆるぎないものになった18年から採用活動をスタートした。22年4月入社の採用試験には2千人ほどのエントリーがあり、新卒採用を始めて3年目では相当に多い。内定者は6人。海外留学経験が豊富な学生が多い。23年4月入社予定の内定者も6人。海外留学経験者に加えて、外国籍の人材も含まれる。

し烈な競争が続く業界で、賃上げが毎年できる背景にはエッジのきいた高収益の事業とそれを可能にする人材の存在がある。

売上が伸び悩む構造を打破…横浜市の町工場「スリーハイ」

工場などで使うヒーターの製造販売をする町工場、スリーハイ(横浜市、正社員14人、パート24人)は昨年、正社員全員の賃上げをした。個々の成果・実績に基づき評価し、それに伴い、実施するが、過去10年では約5年に1度行い、今回が2回目。今回は月額平均で3~4%アップで、月額30万円の場合は5千~9千円。賞与は3年前までは年1回で、昨年からは2回。1回につき、基本給1カ月分だ。

男澤誠社長は「町工場の製品を購入する顧客に届く流れや構造=サプライチェーンを大胆に変えない限り、賃上げは不可能」と言いきる。同社の場合、自社製品を顧客であるメーカーや工場に届けるまでに商社が介在し、マージンを取るケースが多い。商社がコーディネートするのが慣例なのだという。顧客がその商社を決める。顧客が代価として払う額の3~4割は商社が得て、残りが同社の売り上げとなる。男澤社長は「この構造があるために慢性的に売り上げが伸び悩む」と話す。

2020年春、コロナウイルス感染拡大を機にある挑戦をした。ヒーターの製造販売をする企業が合同で開催するオンライン展示会に出展し、その数日後にベテランの社員が展示会で説明できなかった内容で、特に顧客が知りたいであろう情報を自社運営のブログに詳細に書き込んだ。それを見たメーカーから問い合わせがあると、デモ製品を郵送する。到着後に双方がZoomを使い、オンラインで向かい合う。

この流れで契約が増え、昨年は月平均売り上げの3割がオンライン営業による。年売り上げは前年比10%増の3,5億円程になった。一方で交通費や出張費が大幅に減り、600万円以上削減となる。

「ブログとオンライン営業で顧客との直接取引が可能になり、売り上げが増え賃上げができた。サプライチェーンを壊し、直接取引で質の高い製品を安く、早く届けることができれば町工場は賃上げができうる」(男澤社長)

2社は、人事の施策に熱心に取り組む。例えば新卒・中途採用、定着、育成、労働時間の管理や削減などだ。こういう試みができる経営風土だからこそ、賃上げを可能にするエッジのきいた事業を作り出すことができるのだと思う。小さな会社の賃上げを考える際はここにこそ、目を向けるべきではないだろうか。

文/吉田典史

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