激動の時代にビジネスパーソンとして生き残るためのカギは“自分軸とWHY”
科学技術の発展に伴い、産業の栄枯盛衰もますます激しくなっている。
新しい職業が次々と生まれる一方、かつて花形だった職業の志望者が激減しているケースも珍しくない。そんな激動の時代に生き残るためにはどうすれば良いのだろうか。
ここで山極さんに教えてもらったのは、天職を見つけるための3つのキーワード、そして自分の能力を第三者に伝えるための3つのキーワードだ。
山極さん「自分にとって正しい選択をするための基準となるのが、WANT(やりたい仕事)、CAN(できる仕事)、MUST(しなければならない仕事)。
MUSTは社会から必要とされる仕事であり、社会状況や技術革新など時代の流れに沿って変化していくものです。
ところが、WANTとCANだけは自分軸であり、自分自身にとっては不変の要素。
“人と接するのが好き”“調べものが好き”など自分にとってのWANTとCANを両方理解した上で、時代が要請するMUSTに対してどのように活用していけば良いのか考えるべきです。
そのようなプロセスでたどり着いた仕事は自分に合っているし楽しめるので、努力を努力と感じなくなるはず。これが、新しい時代に生き残れる天職の見つけ方です」
第三者から見てわかりやすい資格や学位がなくても、今持っているスキルをアピールして自分の市場価値を高めるにはどうすればいいのか悩んでいる人は、きっと多いだろう。
しかし山極さんによると、スキルアップや自己アピールよりも先にやらなければならない、もっと重要なことがあるそうだ。
山極さん「自分の能力を相手に伝える際に重要な要素は、3つあります。それは、WHAT(何を)、HOW(どのように)、WHY(なぜ)。
昔に比べたら、今は格段に自己アピールの手段は多いですよね。SNSや動画などを使えば、誰でもスキルの見える化は簡単になりました。
伝える手段=HOWには、もはや誰もが困らない時代です。
次に何を伝えるのか=WHATは、WANTとCANの自己分析ができていればOK。
自分が何者であるのかということがよく分かっていて、自分がこういう仕事をやってきたのだということが明確に伝えられれば、引く手あまたの人材になれるはず。
しかし一番難しいのは、WHY。転職で悩んでいる人の多くが、“なぜあなたはそれをやっているんですか?”という問いには答えられない。なぜなら、ほとんどの人が組織の中で流されて、受け身で仕事しているから。
スキルがないとか、アピールが下手とか悩む前に、まず自分がなぜその仕事をしているのかはっきりと答えられるようにすること。
WHAT・HOW・WHYの中で一番人の心を動かす要素が、WHY。人間はWHYに動かされる生き物なんです」
自分自身と徹底的に向き合い、考えることをサボらない人がAI時代に生き残る
なぜ、あなたは今の仕事をしているのか?
このシンプルでありながら難しい質問に、ほとんどの人は「エッ」と固まってしまうのではないだろうか。
山極さんによると、WHYこそがこれから本格的に到来するAIの時代において最も重要なことだそうだ。
アメリカのベンチャー企業OpenAIが2022年11月に公開したAIチャットボット『ChatGPT』は、まるで人間が入力しているかのような自然な文章が話題となっている。
文章やイラストなどのクリエイティブな領域にもAIの領域が広がってきている事実に、いよいよ人々の危機感が高まってきているようだ。
山極さんは、AIにどれだけ良質な命令を与えられるのかが次の時代のスキルになるはずだと予測する。
山極さん「生身の人間よりも遥かに学習能力が優れているAIに欠けているものが、WHY。
WHYを考えるのが、人間に最後に残された仕事なのではないでしょうか。
AI時代には、経営者が従業員に命令するように、労働者全員がAIに仕事を命令するようになる。
だから全員がWHYについて真剣に考えて管理職・経営者的なマインドを持たないと、これからの時代やっていけないはずです」
もちろん協調性はいつの時代も大事だ。しかし思考停止して企業に合わせるだけの働き方では、今後は行き詰まりを感じることになりそうだ。
山極さん「企業って、“御社に100%合わせます!”という人はあまり欲しくない。
自分がどういう価値提供ができるのか語らないかぎり、企業の採用担当者は動かせません。優秀な人材というのは、そのことを理解できている人。
私は最近、YouTubeチャンネル(『山極毅の人事戦略チャンネル』)で有名企業格付けチェックというテーマの動画シリーズを始めたのですが、それはもっと能動的に企業を選ぶという視点を持ってほしいと思ったから。
『人材版伊藤レポート2.0』でも、社内にいないタイプの人材や専門家を外部から積極的に獲得することが大事であると強調していましたが、この傾向は今後どんどん高まっていくはず。
だから、企業に過度に合わることなく、他の人とは違う独自性を大切に高めていって欲しいと思います」
関連情報
https://keieijinji.co.jp/
取材・文/吉野潤子