こんにちは。弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい解説を目指しています。
裁判例をザックリ解説します。以下、判決文を会話風に変換。
会社
「この営業手当9万円は30時間分に相当する残業代なんです」
裁判所
「いや、残業代の実質を備えていないね」
「30時間を超えても追加の残業代を払ってないじゃん」
「9万円を基礎賃金に組み込んで計算します!」
会社
「たかっ!」
以下、くわしく解説します(アクティリンク事件:東京地裁 H24.8.28)
登場人物
▼ 会社
不動産販売、賃貸などを行っている会社
▼ Xさん
投資用マンションの販売。仕事はテレアポや顧客面談。顧客に対し投資用マンションの購入を勧誘していました(原告は2名いますが1名に凝縮して解説します)
両者のバトル
Xさんは残業代を求めて訴訟を提起。両者のバトルは時給換算でいくらか?です。時給換算で1000円の差があります。チリツモで増えるので時給換算がいくらか?は死活問題。以下が両者の主張です(一時期のみ抜粋)
▼ 会社の主張
基礎賃金は月額30万3500円だ。
この金額を時給換算して1.25倍されるにすぎない。
〈内訳〉
基本給 22万3500円
役職手当5万円
班長手当3万円
時間単価 1754円/時間
▼ Xさんの主張
ちがう。基礎賃金は月額43万3500円だ。太文字の営業手当・住宅手当も含まれるんだ。この金額を時給換算して1.25倍されるべきだ。
〈内訳〉
基本給 22万3500円
役職手当 5万円
班長手当 3万円
営業手当 9万円
住宅手当 4万円
単価 2789円/時間
裁判所の判断
裁判所はXさんの主張をほぼ認めました。再度しめすと【基礎戦闘力】は以下のとおり。
基礎戦闘力 = 月額43万3500円
〈内訳〉
基本給22万3500円
役職手当 5万円
班長手当 3万円
営業手当 9万円
住宅手当 4万円
営業手当について
▼ 会社の主張
「営業手当の9万円は月30時間分に相当する残業代なんです」
「なので基礎戦闘力には組み込まれません」
▼ 裁判所の判断
裁判所は「シャラップ!」と一蹴。具体的には以下のとおり判断しました。
■ 定額残業代が許されるための条件
・営業手当が実質的に見て残業代として支払われていること
・30時間を超えた場合はキチンと別途残業代が支払われていること
■ 本件
・営業手当は実質的に見て残業代として支払われていない。
〈理由〉
・営業手当は顧客面談の際の諸経費をまかなう意味合いを持っていた
・他の部の従業員も残業していたのに営業手当は支払われていない
・とすれば、この営業手当は一種のインセンティブ
・残業代として支払われていたとはいえない
・30時間を超えた場合に別途残業代が支払われていない
〈理由〉
Xさんは月に平均して36時間ほどの残業をしていたがプラスの残業代が支払われた形跡がない
結果、裁判所は「この営業手当を基礎戦闘力に組み込みます!と判断。
住宅手当について
Q.住宅手当は基礎戦闘力に入らないんじゃ?労基法施工規則21条に書いてますが。
A.よく知ってますね!一般的には基礎戦闘力には入らないんですが入る場合もあります。今回はそのケースです。裁判所は「この会社では住宅を所有していようがいまいが、借りていようがいまいが一律に住宅手当が支給されていた」ことなどを重視して「これは住宅手当じゃないね。基礎戦闘力に組み込みます!」と判断しました。名前に惑わされず実態を判断する手法です。
ほんで、なんぼ?
▼ 基礎時給
基礎時給は2494円となりました。
〈計算式〉
基礎戦闘力43万3500円/月 ÷ 月の所定労働時間173.81時間
詳細は割愛しますが【所定労働時間は何時間やねん?】ってところでも、会社と従業員がバチバチ議論を戦わせてます。
▼ 残業代
約278万円
▼倍返しのお仕置き(付加金)
裁判所はお仕置きも命じています。今回のお仕置きは275万円。ほぼ倍返しです。裁判所は「この会社悪質やな」と感じたのでしょう。合計553万円の支払いを命じたことになります。
さいごに
▼ この手当は…残業代なのか?
会社が「その手当は残業代のことだから」と言ってきたとしてもその手当を基礎戦闘力に組み込める可能性があります。基礎戦闘力が上がると残業代がチリツモで跳ね上がります。
「その手当は残業代のことだから」と言ってくる会社は【定額働かせ放題】を強いている可能性が高いので、労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。ではまた次の記事でお会いしましょう。
取材・文/林 孝匡(弁護士)
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