コピーライターとして、テレビやラジオのCMをつくったり、企業のブランディングを手掛けてきたコピーライターの川上徹也さんはうまく伝わらないのは、あなたの考えが間違っているからではなく、伝え方次第で、生じることのなかった誤解やすれ違いをなくすことができる、人はもっとわかり合うことができると言います。川上さんがハーバードやスタンフォードなど世界中の研究から、日常に取り入れやすいものを選んでまとめた伝え方の法則を、著書「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」から一部抜粋・再構成してお届けします。
両方の視点から質問する
アンケートや世論調査などでは、質問の文章によって答えが大きく変わる可能性があります。
カナダのウォータールー大学の研究者チームは、実験の参加者をA、Bの2つのグループに分け、以下のアンケートに答えてもらいました。
A「現在の生活に満足していますか?」
①満足している ②不満がある
B「現在の生活に不満はありますか?」
①不満がある ②満足している
さて、結果はどうだったでしょう?
実はAに比べBの質問では、4倍近く「不満」を選ぶ人が増えたのです。これは「満足していますか?」と質問されると、「満足している部分」に焦点が当たり、「不満はありますか?」と質問されると「不満な部分」に焦点が当たるからだと考えられます。
この結果を応用すると、たとえば上司が自分への満足度を部下にはかるとき、「A」のスタイルで質問すれば、自分の欲しい答えに誘導できるかもしれません。
偏りのない答えを得る必要があるとき、これは正しいやり方ではありません。
たとえば世論調査などでこのような方法を利用して、わざと偏りのある結果を導き出すことは、倫理的に許されないことでしょう。ではどうすれば、偏りのない公平な答えが得られる質問が作れるでしょうか?
それは、両方の視点から質問をすることです。たとえば次のように。
・あなたは当社のサービスに満足しましたか? それとも不満を感じましたか?
・あなたは今の政府の外交政策に満足していますか? それとも不満ですか?
もちろん、このような聞き方でも、どちらを先に質問するかで、バイアスがかかる可能性は否定できません。でも、片方だけの質問より、バイアスは少ないと考えられます。
ことほどさように、アンケートでは、質問の仕方ひとつで結果が大きく変わります。ぜひアンケートをとる際の参考にしてみてください。
【まとめ】
「両面質問法」を使って、公平さを保とう
☆ ☆ ☆
「最新の知見」や「新しい視点」のヒントが詰まった「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」。やみくもに大きな声で叫んでも、伝わらない。相手に伝わるからこそ対話は成り立ちますし、そうでなければただのひとりごとになってしまいます。どうにかして、この気づきをわかりやすく役に立つ形で伝えられないかというところからこの本の制作は始まったそうです。伝え方を工夫することで、相手とのコミュニケーションがうまくいく可能性があるなら、手に取って学んでみる価値は十分あるのではと思います。
「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」
著者/川上徹也
発行/株式会社アスコム
川上徹也
湘南ストーリーブランディング研究所 代表/コピーライター
大学時代、霊長類学や社会心理学の研究に没頭。世界中の論文との出会いを求めて図書館に通いつめ、狭いアパートの部屋を学術論文のコピーでいっぱいにして暮らす。「人の心を動かす」仕事に興味を持って、広告代理店に入社。大阪支社で暗黒の営業局時代を経て、29 歳で転局しCMプランナーに。しかしそこでも芽が出ず、会社を辞め何のあてもなく上京。フリーランスという名のフリーターをしながら通った広告学校の講師から、コピーライターとしての才能を見いだされ、TCC 新人賞を受賞。その後、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞などを多数受賞する。現在は、ブランドの魅力を物語にして伝える「ストーリーブランディング」という手法を確立し、企業や団体のマーケティング・アドバイザーとして活動。ジャンルの垣根を越えて、様々なものの魅力を伝え続けている。『物を売るバカ』『1行バカ売れ』( 角川新書)、『ザ・殺し文句』(新潮新書)など著書多数。海外へも広く翻訳されている。