DIME MAGAZINE
コピーライターとして、テレビやラジオのＣＭをつくったり、企業のブランディングを手掛けてきたコピーライターの川上徹也さんはうまく伝わらないのは、あなたの考えが間違っているからではなく、伝え方次第で、生じることのなかった誤解やすれ違いをなくすことができる、人はもっとわかり合うことができると言います。川上さんがハーバードやスタンフォードなど世界中の研究から、日常に取り入れやすいものを選んでまとめた伝え方の法則を、著書「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は？人を動かす伝え方50の法則」から一部抜粋・再構成してお届けします。
お願いする前に感謝を伝えてしまう
アンケートへの記入など、協力してほしいことがあるときは、相手の「自己イメージ」をいい方向に誘導すると、協力してもらいやすくなる可能性があります。
カリフォルニア州立大学ロングビーチ校コミュニケーション研究科のサン・ボルカンと、サンディエゴ州立大学コミュニケーション学部のピーター・アンデルセンの実験は、最初に「自己イメージを誘導する質問」をすることで、人の行動が大きく変わることを立証しました。ボルカンとアンデルセンは、ショッピングモールやスーパーマーケットで、道行く人にアンケートへの協力を依頼しました。その際、最初の呼びかけを次の2通りで行いました。
A「少しお時間よろしいでしょうか？」と呼びかけてからアンケートへの協力を依頼。
B「あなたは他人に協力的ですか？」と問いかけてからアンケートへの協力を依頼。
さて2つの違う呼びかけで、アンケートの回答率はどのように変わったでしょう？ あなたも考えてみてくださいね。答えは……。
A29％ B77％
なぜこんなに大きな差が生まれたのでしょう？
Bの「あなたは他人に協力的ですか？」という質問には、ほとんどの人が少し考えて「はい」と答えました。こうして自己イメージを誘導されたことで、Bの呼びかけをされた人はそのイメージどおりの行動（＝他人に協力的）をとらざるを得なくなったのだと考えられます。この研究は話し言葉についてですが、文章でも同じです。
たとえばLINEやメッセンジャーなどの短文でやりとりするなら、お願いを書く前にメッセージの頭で、まず「〇〇さんは、協力的な方ですか？」という質問を送ってみましょう。あるいは個別のやりとりでない場合なら、次のように、あらかじめ読み手のイメージを誘導しておくといいと思います。
「いつも快く協力していただける皆さまへ。アンケート協力の依頼です」
依頼の最初に、相手の自己イメージをいい方向に向かわせる一文を加えることで、普通にお願いするより協力してくれる確率は上がるはずです。ぜひ試してみてください。
【まとめ】
「あなたはいい人だ」と言われると、その期待に応えたくなる
☆ ☆ ☆
「最新の知見」や「新しい視点」のヒントが詰まった「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は？人を動かす伝え方50の法則」。やみくもに大きな声で叫んでも、伝わらない。相手に伝わるからこそ対話は成り立ちますし、そうでなければただのひとりごとになってしまいます。どうにかして、この気づきをわかりやすく役に立つ形で伝えられないかというところからこの本の制作は始まったそうです。伝え方を工夫することで、相手とのコミュニケーションがうまくいく可能性があるなら、手に取って学んでみる価値は十分あるのではと思います。
「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は？人を動かす伝え方50の法則」
著者／川上徹也
発行／株式会社アスコム
川上徹也
湘南ストーリーブランディング研究所 代表／コピーライター
大学時代、霊長類学や社会心理学の研究に没頭。世界中の論文との出会いを求めて図書館に通いつめ、狭いアパートの部屋を学術論文のコピーでいっぱいにして暮らす。「人の心を動かす」仕事に興味を持って、広告代理店に入社。大阪支社で暗黒の営業局時代を経て、29 歳で転局しCMプランナーに。しかしそこでも芽が出ず、会社を辞め何のあてもなく上京。フリーランスという名のフリーターをしながら通った広告学校の講師から、コピーライターとしての才能を見いだされ、TCC 新人賞を受賞。その後、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞などを多数受賞する。現在は、ブランドの魅力を物語にして伝える「ストーリーブランディング」という手法を確立し、企業や団体のマーケティング・アドバイザーとして活動。ジャンルの垣根を越えて、様々なものの魅力を伝え続けている。『物を売るバカ』『１行バカ売れ』（ 角川新書）、『ザ・殺し文句』（新潮新書）など著書多数。海外へも広く翻訳されている。
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