コピーライターとして、テレビやラジオのCMをつくったり、企業のブランディングを手掛けてきたコピーライターの川上徹也さんはうまく伝わらないのは、あなたの考えが間違っているからではなく、伝え方次第で、生じることのなかった誤解やすれ違いをなくすことができる、人はもっとわかり合うことができると言います。川上さんがハーバードやスタンフォードなど世界中の研究から、日常に取り入れやすいものを選んでまとめた伝え方の法則を、著書「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」から一部抜粋・再構成してお届けします。
行動を可視化して気持ちも伝える
ここ最近、日本では「バイトテロ」という言葉が生まれました。従業員が商品をふざけて扱い、その様子をSNSに投稿してしまうというものです。
もちろんこれはよくない行動ですが、そもそも、職場で従業員にきちんと規則を守ってもらうことは意外と難しいものです。
これは、海外でも同様です。ご紹介するのは、アメリカ・ニューヨーク州のノースショア大学病院で行われた研究です。
アメリーノ博士らによるこの研究は、ICU(集中治療室)が対象でした。ICUには部屋ごとに洗面台があり、消毒液が置かれていました。近くに「手洗いを忘れないで」という注意書きも貼られています。
ですが、それを守ってくれる人は驚くほど少ない状態でした。
実験ではまず、洗面台の近くに計21台の監視カメラを設置しました。これを、20人の監視員が24時間で監視します。これは隠しカメラではなく、医師や看護師などのスタッフもその存在を知っていました。
それにもかかわらず、結果は散々。約4カ月にわたる調査で、手洗い率は10%未満にとどまる結果になったのです。
そこで、アメリーノ博士らは別の方法を考えました。スタッフの行動に対して、すぐにフィードバックがあるようにしたのです。
具体的には、部屋ごとにモニターを設置し、「現在の手洗い達成率」の数値を表示するようにしました。スタッフが手洗いをするたび、その数値は上がっていきます。さらに、手洗いをすると「よくできました!」などの好意的なコメントが表示されるようにしました。
すると、劇的な変化が表れます。なんと、約4カ月後、手洗い率は一気に81.6%になり、約1年半後の調査でも、87・9%に維持されていたのです。
このように、各自の正しい行動がその場で「可視化」され、その場で肯定されると、人は繰り返しその行動をしてくれるようになります。
これは、職場だけでなく、子どもや学生などに規則を守らせたいときも応用ができます。ぜひ、実践してみてはいかがでしょうか。
【まとめ】
つまらないルールでも、ほめてもらえるなら守ってもいいかなと思える
☆ ☆ ☆
「最新の知見」や「新しい視点」のヒントが詰まった「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」。やみくもに大きな声で叫んでも、伝わらない。相手に伝わるからこそ対話は成り立ちますし、そうでなければただのひとりごとになってしまいます。どうにかして、この気づきをわかりやすく役に立つ形で伝えられないかというところからこの本の制作は始まったそうです。伝え方を工夫することで、相手とのコミュニケーションがうまくいく可能性があるなら、手に取って学んでみる価値は十分あるのではと思います。
「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」
著者/川上徹也
発行/株式会社アスコム
川上徹也
湘南ストーリーブランディング研究所 代表/コピーライター
大学時代、霊長類学や社会心理学の研究に没頭。世界中の論文との出会いを求めて図書館に通いつめ、狭いアパートの部屋を学術論文のコピーでいっぱいにして暮らす。「人の心を動かす」仕事に興味を持って、広告代理店に入社。大阪支社で暗黒の営業局時代を経て、29 歳で転局しCMプランナーに。しかしそこでも芽が出ず、会社を辞め何のあてもなく上京。フリーランスという名のフリーターをしながら通った広告学校の講師から、コピーライターとしての才能を見いだされ、TCC 新人賞を受賞。その後、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞などを多数受賞する。現在は、ブランドの魅力を物語にして伝える「ストーリーブランディング」という手法を確立し、企業や団体のマーケティング・アドバイザーとして活動。ジャンルの垣根を越えて、様々なものの魅力を伝え続けている。『物を売るバカ』『1行バカ売れ』( 角川新書)、『ザ・殺し文句』(新潮新書)など著書多数。海外へも広く翻訳されている。