コピーライターとして、テレビやラジオのCMをつくったり、企業のブランディングを手掛けてきたコピーライターの川上徹也さんはうまく伝わらないのは、あなたの考えが間違っているからではなく、伝え方次第で、生じることのなかった誤解やすれ違いをなくすことができる、人はもっとわかり合うことができると言います。川上さんがハーバードやスタンフォードなど世界中の研究から、日常に取り入れやすいものを選んでまとめた伝え方の法則を、著書「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」から一部抜粋・再構成してお届けします。
「少し先のポジティブな未来」を見せる
人間は、今すぐ自分が損をしたり、痛みがあることが明らかな変化については、大きな抵抗を示します。これは、今すぐ起こることに関してはまず何が得かが頭に思い浮かび、損に対しては抵抗を示すからです。
しかし、同じ内容でも、少し未来の変化については、人は比較的寛容です。ある程度、先の未来に起こる変化というのは「倫理」「信条」といった軸をもとに、本来的にそれが正しいかどうかで判断できるようになるからです。
ハーバード大学ケネディスクールのトッド・ロジャースと、同大学ビジネススクールのマックス・H・バザーマン教授は、このような現象を「未来ロックイン(Future lock-in)」と名づけ、実験でその効果を立証しました。この実験でロジャースらは被験者にいくつかの政策を提案するとともに、それが実行されたときのネガティブな側面とポジティブな側面を知らせました。それはたとえば次のようなものです。
【海洋漁業の漁獲量を削減する】
ネガティブ……魚の価格が上がり買い控えが起こる。漁業者が打撃を受ける
ポジティブ……魚資源の保護につながり、将来的な漁業存続に貢献できる
【ガソリン消費量を減らすために値上げを行う】
ネガティブ……旅行などではコスト増。ビジネスにも悪影響が及ぶ
ポジティブ……地球温暖化防止にプラスの影響。海外資源依存を減らせる
そしてそれぞれの政策に対して、「翌月実施する」場合と「4年後に実施する」場合に分けて、「支持する」「支持しない」を(+4)から(-4)まで8段階で評価してもらいました。
結果は、どちらの政策に関しても、翌月実施される場合の支持は非常に低かったのに対し、4年後の実施の場合は大幅なプラスとなりました。
ちなみにこれは「給料天引き貯蓄プラン」や「定期的エクササイズ」など、個人的な計画について実験しても結果は同様でした。今すぐ始めるのは抵抗があるけれど、貯蓄プランは2年後、エクササイズは半年後からであれば、「やりたい」と答える人がたくさんいたのです。
したがって、もしも痛みが伴う提案に同意を得たいと思うなら、実施時期を少し先にして提案するのがおすすめです。短期的には損することは認めつつ、でも長期的には得するというポジティブな面を訴求しながら、相手に提案してみてはいかがでしょうか。
【まとめ】
「未来ロックイン効果」を使えば、痛みのある提案も受け入れられる
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「最新の知見」や「新しい視点」のヒントが詰まった「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」。やみくもに大きな声で叫んでも、伝わらない。相手に伝わるからこそ対話は成り立ちますし、そうでなければただのひとりごとになってしまいます。どうにかして、この気づきをわかりやすく役に立つ形で伝えられないかというところからこの本の制作は始まったそうです。伝え方を工夫することで、相手とのコミュニケーションがうまくいく可能性があるなら、手に取って学んでみる価値は十分あるのではと思います。
「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」
著者/川上徹也
発行/株式会社アスコム
川上徹也
湘南ストーリーブランディング研究所 代表/コピーライター
大学時代、霊長類学や社会心理学の研究に没頭。世界中の論文との出会いを求めて図書館に通いつめ、狭いアパートの部屋を学術論文のコピーでいっぱいにして暮らす。「人の心を動かす」仕事に興味を持って、広告代理店に入社。大阪支社で暗黒の営業局時代を経て、29 歳で転局しCMプランナーに。しかしそこでも芽が出ず、会社を辞め何のあてもなく上京。フリーランスという名のフリーターをしながら通った広告学校の講師から、コピーライターとしての才能を見いだされ、TCC 新人賞を受賞。その後、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞などを多数受賞する。現在は、ブランドの魅力を物語にして伝える「ストーリーブランディング」という手法を確立し、企業や団体のマーケティング・アドバイザーとして活動。ジャンルの垣根を越えて、様々なものの魅力を伝え続けている。『物を売るバカ』『1行バカ売れ』( 角川新書)、『ザ・殺し文句』(新潮新書)など著書多数。海外へも広く翻訳されている。