コピーライターとして、テレビやラジオのCMをつくったり、企業のブランディングを手掛けてきたコピーライターの川上徹也さんはうまく伝わらないのは、あなたの考えが間違っているからではなく、伝え方次第で、生じることのなかった誤解やすれ違いをなくすことができる、人はもっとわかり合うことができると言います。川上さんがハーバードやスタンフォードなど世界中の研究から、日常に取り入れやすいものを選んでまとめた伝え方の法則を、著書「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」から一部抜粋・再構成してお届けします。
「あなた効果」を使う
多くのビジネスパーソンは、日々、大量の情報にさらされています。あなたがメールを送る相手にも、普段から膨大な量のメールが送られているとしたら、たとえ悪意はなくても気づかれない(もしくはすぐに忘れられてしまう)ことはありえます。
そんな事態を防ぐには、何より相手に「これは自分に関係がある情報だ」と気づいてもらう必要があります。これは単にメールだけではなく、ビジネス文書を書くときにも共通する重要な問題です。情報があふれる現在の社会においては、「自分と関係ない」と思われた文章は、またたく間にスルーされます。
では、どうすれば相手に「自分に関係がある情報だ」と思ってもらえるでしょうか。それは、「この文章はあなたに向けて書いている」ということを明確にすることです。たとえばこんな感じで、メールの件名に相手の「名前」を入れてみてはどうでしょう?
「(川上さんへ)11月刊行の本についてのご相談」
「名前」というのは、一番「自分に関係がある」と思ってもらいやすいワードなので「あなたにメールをしています」ということが、より伝わりやすくなるはずです。
その他、広告文やセールスレターも、三人称より二人称である「あなた」というワードを使って呼びかけたほうが、「自分に関係がある」と思ってもらいやすくなります。
カナダ・ウォータールー大学のシャオ・ダイリー博士らは、小学生を対象に、算数の問題で人称を変化させることによる正答率の変化を実験しました。
① あなたは3つのボールを持っています。あなたはボブより2つ多くボールを持っています。さて、ボブはいくつボールを持っているでしょう?
② トムは3つのボールを持っています。トムはボブより2つ多くボールを持っています。さて、ボブはいくつボールを持っているでしょう?
結果は、①の問題のほうが正答率が高くなりました。「あなた」という言葉から始まったことで、子どもたちは問題を自分に置き換えることができ、これによって正答率が高くなったのだと考えられます。
広告文やセールスレターなど不特定多数に向けて書くときも、可能であれば「特定の誰か」に呼びかける気持ちで書くと、より「自分と関係がある」と思ってもらいやすくなるでしょう。
【まとめ】
大事なメールは、「あなたへ」と相手に呼びかける気持ちで書こう
☆ ☆ ☆
「最新の知見」や「新しい視点」のヒントが詰まった「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」。やみくもに大きな声で叫んでも、伝わらない。相手に伝わるからこそ対話は成り立ちますし、そうでなければただのひとりごとになってしまいます。どうにかして、この気づきをわかりやすく役に立つ形で伝えられないかというところからこの本の制作は始まったそうです。伝え方を工夫することで、相手とのコミュニケーションがうまくいく可能性があるなら、手に取って学んでみる価値は十分あるのではと思います。
「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」
著者/川上徹也
発行/株式会社アスコム
川上徹也
湘南ストーリーブランディング研究所 代表/コピーライター
大学時代、霊長類学や社会心理学の研究に没頭。世界中の論文との出会いを求めて図書館に通いつめ、狭いアパートの部屋を学術論文のコピーでいっぱいにして暮らす。「人の心を動かす」仕事に興味を持って、広告代理店に入社。大阪支社で暗黒の営業局時代を経て、29 歳で転局しCMプランナーに。しかしそこでも芽が出ず、会社を辞め何のあてもなく上京。フリーランスという名のフリーターをしながら通った広告学校の講師から、コピーライターとしての才能を見いだされ、TCC 新人賞を受賞。その後、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞などを多数受賞する。現在は、ブランドの魅力を物語にして伝える「ストーリーブランディング」という手法を確立し、企業や団体のマーケティング・アドバイザーとして活動。ジャンルの垣根を越えて、様々なものの魅力を伝え続けている。『物を売るバカ』『1行バカ売れ』( 角川新書)、『ザ・殺し文句』(新潮新書)など著書多数。海外へも広く翻訳されている。