スマート食用魚養殖システム
一方、ヨーロッパから遥か遠く離れたインドネシアでは『eFishery』という食料生産システムが大注目されている。
インドネシアの農村部では、食用魚の養殖ビジネスが盛んに行われている。特に淡水魚養殖は、山奥の農村でも比較的簡単に実施できる副業でもある。
が、養殖には「過給餌」という問題がついて回る。経験の浅い養殖業者が必要以上の餌を堀に投入してしまい、それが川の汚染につながるのだ。
この問題に取り組んだのは、ギブラン・フザイファというバンドゥン工科大学出身の若者だった。
ギブランはドーナツ店や家庭教師のアルバイトで資金を捻出しつつ、友人の家のガレージを借りてスマート給餌器の発明に取りかかった。これはWi-Fi接続ができ、スマホアプリから養殖堀の状態のモニタリング、餌の量の調整などを手元で実行できる機器だ。
このスマート給餌器を契約養殖業者に買ってもらうわけだが、インドネシアの農家は可処分所得に恵まれている人々ではない。
貧しいからこそ、農村の若者はみんなジャカルタやスラバヤに出稼ぎに行ってしまう。そのような事情があるため、ギブランの立ち上げた食用魚養殖システム『eFishery』は金融事業も行っている。
養殖業者が機器を購入するための支払いは、基本的には後払い。さらにはインドネシア国内の大手銀行と提携した融資プランも用意され、そこで開業資金を捻出できる仕組みだ。
2022年1月にシリーズC投資ラウンドで9,000万ドル(約12億円)の資金を調達した『eFishery』だが、実はこの記事を書いている最中に新たな投資ラウンドで巨額の資金を手にしたという情報も入っている。
これは公式発表ではないので何とも言えないが、2020年12月の時点で『eFishery』はインドネシア全国65都市の業者と契約し、大きな実績を挙げている。
「飽食の時代」の終焉
このように、世界には目に見えて斬新なアグリテックビジネスが存在する。
これらのシステムが世界の食料事情を大きく変革する可能性は、決して少なくない。特に『Floating Farm』が目指す「自然災害に強い食料生産拠点」は、日本人にとっても無視できない部分ではないだろうか。
人は誰しも、食べなくては生きていけない。飽食の時代は終りを迎え、我々一人一人が「今日を生きるための食事はどこから生まれているのか?」を本気で考えなければならない時代が確実に到来している。
【参考】
Floating Farm
eFishery
取材・文/澤田真一