2021年12月、ドン・キホーテのプライベートブランド「情熱価格」から発売された「チューナーレススマートTV」。2022年8月には、4K対応モデルが新たにラインナップに加わった。「チューナーレススマートTV」は、地デジやBS、CSといった放送を観るチューナーを省き、ネット動画を視聴することに特化したテレビだ。ユーザーの望む機能だけを搭載し価格を抑えたことで、大きな話題を呼んでいる。
今回、ドン・キホーテを運営している株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスPB企画担当の柄澤喜行さんと開発担当の鷲津啓介さんに、「チューナーレスのスマートTV」の開発に至った経緯や、そこにあった試行錯誤についてお話を伺った。
株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスPB企画担当の柄澤喜行さん
株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスPB開発担当の鷲津啓介さん
*本稿はインタビューから一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。
「テレビのようでテレビじゃない!」、チューナーがないTVとは?
「チューナーレススマートTV」は、チューナーは搭載していないものの、Android TV機能を搭載している。本体にYouTubeやNetflixといったアプリをインストールすることで、ネット動画の視聴が可能だ。チューナーレススマートTVの特徴について、開発担当の鷲津さんは次のように話す。
「2021年12月に、Android TVの機能を搭載した商品を発売しました。その時は、フルハイビジョンモデルの2機種だったんですが、2022年の8月に4K解像度のモデルとフルハイビジョンのモデルを追加し、ラインナップを4機種に増やしたんです。4K解像度のパネルを搭載しているものは、4K対応のネット動画配信サービスもお楽しみいただけます。PCの外部モニターとしてもご使用いただけますし、切り替えをすることでネット動画の視聴が可能です。HDMI端子が3つとUSB端子も付いているため、キーボードをつけて操作をすることもできます」(鷲津さん)。
公式サイトより
同社では過去にも、さまざまなテレビを自社開発してきた。その歴史の中で、なぜ「チューナー外す」というアイデアに至ったのだろうか。柄澤さんは、次のように振り返る。
「元々ドン・キホーテでは、10年以上前からチューナーが入っているオリジナルテレビの開発をしており、テレビ開発にかける情熱を強く持っています。チューナーレススマートTVを作ることになったきっかけは、私のライフスタイルにありました。私はテレビドラマを観るのが大好きで、毎クールほとんどのドラマを観るドラマオタクなんです。ただ、どうしても仕事をしているとリアルタイムの視聴が難しく、家に帰ってからAmazonの『Fire TV Stick』を付けた液晶テレビで、目当てのドラマを観る生活を繰り返していたんです。その時、『リアルタイムでテレビを観ていないこと』に気が付いたんです。私と同じような生活をしている人は意外と多いのでは、と思ったのがきっかけです。テレビチューナーを省けば、その分コストを安くできる。それならばチャレンジしてもいいんじゃないかと、2019年3月に起案しました」(柄澤さん)。
自身のライフスタイルから着想を得た柄澤さんは、早速そのアイデアを社内に共有する。企画の時点で、想像を超える多くの反響があったという。
「チューナーがないものを『テレビ』と呼んでいる時点で、『相当ぶっ飛んだ発想だな』と、社内ではかなりの反響がありましたね。いつもは会議であまり発言しない方からも後になって『あの企画めちゃくちゃ面白かったね』と言ってもらえました。『刺さる人には刺さるんだな』という手応えをそこで感じましたね」(柄澤さん)。
チューナーを外せばいい…だけじゃない、知られざる苦労も
社内からの反響は良かったものの、開発においては表には見えない数々の苦労があったと、柄澤さんは次のように振り返る。
「元々、2019年に商品提案をしたときからAndroid OSを積むことは想定に入れていました。ただ当時、チューナーを外してAndroid OSだけを積むことが技術的に、そしてAndroidのライセンス的になかなか難しかったんです。大手メーカーでも、そういうものを作っていないということもあり、我々のようなサードパーティーで作ることが簡単にはいきませんでした」(柄澤さん)。
Android OS搭載の壁に直面した柄澤さんたちは、まずAndroid機能なしのチューナーレステレビに着手する。しかし、それは失敗に終わったという。
「Fire TV StickやGoogle Chromecastなど他社の機材と合わせて使うチューナーレスTVを先に出すことにしました。使いやすくするために、テレビのオンオフや音量の上げ下げできるリモコンを付けたんです。普通の液晶モニターとは違った利便性があるだろうと考えたのですが、お客様にそうした使い方がなかなか伝わらず、売れ行きは不振でした。販促の仕方や売り場の提案の仕方なども要因だと思うんですが、とても苦戦しましたね。ただそこで、『Android OSさえ搭載すれば必ずチャンスはある』と思い、諦めずにずっと開発は続けていたんです」(柄澤さん)
そこからライセンスや技術的な面をクリアしながら、2年9か月ほどの時間を掛け、2021年12月にAndroid OSを搭載した初代チューナーレススマートTVの発売を開始。発売に至るまでの苦労ついて、鷲津さんは次のように振り返る。
「正式な認証を取得するためには、このテレビのためのGoogleの開発サポートが必要だったんです。Google TVやAndroid TVからスタートすると、本当に桁が違う台数を見込めないと、Googleとしてもメリットを感じてもらえない。その規模を我々のPB商品で販売していく規模感、そこのハードルをクリアするところが非常に高かったですね。ただ、チューナー付きのモデルと比べると、少しサポートを受けるハードルが低くなったところはあるかもしれません。もしかしたら提案した後に、先方でも少し変化があったのかもしれないですね」(鷲津さん)。
Android OSの認証だけでなく、各種動画配信サービスの認証にも苦労があったと、鷲津さんは次のように話す。
「我々としては『Android TV』は伝わりやすい言葉だと思っているんですが、それ以上に動画サービスのアプリ名称の認証を受けた上で、露出をしたいと考えていたんです。ただ、時間的制約もあり、TVerさんなどの大手動画配信サービスに正式に認証を受けています、というところまで持っていけませんでした。最終的には『4Kタイプのものであればロゴを出してもいいですよ』と認証をいただいたんですが、なかなかそこが思ったようなスケジュール感でできなかったことも、苦労した点の一つですね」(鷲津さん)。