こんにちは。弁護士の林 孝匡です。
裁判例を解説します。
ドーナツ店で起きた死亡事件です。原因は長時間労働。死亡前の6ヶ月平均で月112時間の残業をしていました(月80時間を超えると過労死のおそれありです)。
妻と子供が訴訟を提起し、勝訴しました(竹屋ほか事件:津地裁 H29.1.30)。【GPSでの記録】が労働時間の認定に大きく寄与しました。残業時間の証拠を残す重要性もお伝えします。
事件の当事者
▼ 会社
飲食店の経営など。中部地方でドーナツ店を経営。
▼ お亡くなりになった従業員
・当時50歳
・ドーナツ店で勤務
(会社がフランチャイジーとして運営)
・スーパー2店の店長も兼務していた
▼ 原告
妻と子供2人
どんな事件か
▼ 激務
Xさんは激務が続いていました。
労基署が推計した時間外労働は以下のとおり。
発症前1か月は47時間55分
2か月前は114時間58分
3か月前は126時間16分
▼ GPSで労働時間を管理
会社は一部の社員についてはGPSを使って労働時間を管理していました。XさんはGPSで労働時間を管理されており、このGPSは30分ごとに自動的にデータ送信される仕様でした。
▼ 死亡
Xさんは、午前5時30分ころ、自宅から車を運転して勤務先に向かいましたが、午前7時ころ,K 歩道の縁石に乗り上げた状態で心肺停止となっているところを発見され、病院に搬送後、【致死性不整脈】により死亡が確認されました。
▼ 訴訟を提起
妻と子供が訴訟を提起。会社が長時間労働をさせたことが原因で亡くなったとして損害賠償請求をしました。
裁判所の判断
裁判所は会社に損害賠償を命じました。以下、詳しく解説します。
▼ 死因は激務にある
裁判所は概要「Xさんの死因【致死性不整脈】は激務にある」と認定。
■ 判断基準
判断基準は以下のとおり。「発症前2か月間ないし 6か月間にわたって、1か月当たり概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる」(脳・心臓疾患の労災認定)
■ 本件
裁判所は、基本的にはGPSの記録に基づいて労働時間を計算し、6ヶ月平均で月112時間の残業をしていたと認定。
会社は以下のとおり反論しました(一部抜粋)。
・GPSの記録は信用できない
退社の場所がパチンコ店や競艇場と思われる場所だから
・Xさんは漫然と店に残っており実質的な労働をしていなかった
私的にドーナツを作っていた
横領行為を隠蔽するためだった
しかし裁判所は会社の反論を認めませんでした。
■ Xさんの基礎疾患
裁判所は概要「Xさんに基礎疾患などがあるが【致死性不整脈】を発症させるほどのものとはいえない。やはり発症の原因は業務過多にある」と判断。
結果、裁判所は「業務と死亡との間に因果関係が認められる」と認定しました。
▼ 会社の安全配慮義務違反
裁判所は概要「会社がXさんに配慮してたとはいえず安全配慮義務違反にあたる」と判断。
Q.安全配慮義務違反って何ですか?
A.ザックリいえば「会社は従業員の心や体にキチンと配慮しなさいよ」ということです。過去、電通事件で最高裁がお達しを出しているんです。具体的には以下のとおり → 「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積 して労働者の心身を損なうことがないよう注意する義務を負うと(電通事件:最高裁 H12.3.24)」
■ 本件
本件で裁判所は以下の事実を指摘。
・上司はXさんの長時間労働を認識していたのに改善策を講じなかった
・退勤時間が遅い理由について特段の聴取をしなかった
・会社では従業員個人に負担をかける業務体制となっていた
▼ Xさんは管理監督者?
会社は「Xさんは管理監督者だったので会社は安全配慮義務を負わない」と主張しました。しかし裁判所は「Xさんは管理監督者じゃない」と認定。
管理監督者にあたるには以下の3要件を満たす必要があります。本件では全て満たさずでした。
× 実質的に経営者と一体的な立場といえるような権限があるか
あくまで店舗の労務管理をしていたにすぎない
× 自分の裁量で労働時間を管理できるか
× 管理監督者にふさわしい収入か
役割手当はたった6万円(なのに月100時間を超える残業時間)
Q.「オマエは管理職だから残業代でないよ」って言われるんですが…
A.上の3つ要件が○であれば残業代をもらえないのですが、そういったケースは少ないです。もらえる可能性があります。管理職でも残業代をもらえる可能性についてはコチラの記事をご覧ください。
▼代表取締役3名にも責任あり
裁判所は、会社だけでなく代表取締役個人にも支払いを命じました(会社法429①)。理由は概要「会社の規模(正社員78名)などに照らせば、会社の安全配慮義務は代表取締役個人の業務執行を通じて実現されるべき」「なのにあなたたちはそれを果たしていない」というもの。
認められた金額
妻 約1512万円,
子供2名 各 約1554万円
〈説明〉損害項目は、Xさんの逸失利益、Xさんの慰謝料、妻子どもの慰謝料、葬祭関係費など。
▼過失相殺
裁判所は「Xさんには過失があるので3割減額」と認定。過失があると認定した理由は以下のとおり。
・Xさんが複数の冠危険因子を有していたこと
・喫煙をやめるよう言われたのに守らなかったこと
・運動するよう指摘されたが守らず肥満を解消しなかったこと
・食事制限をせずに日常的に脂っこい食事や飲料を摂取していたこと
そして遺族補償年金を受け取っていたので差し引きなどして上の金額を認定しました。
さいごに
【GPSでの記録】が労働時間の認定に強く寄与しました。現在は残業証明アプリのようなものもあるようなので、残業代の請求をしたい方は活用してみてください。
今回の会社のようにGPSで記録していても「ほかの仕事をしてたでしょ」と言ってくることがあります。なので場所の記録 + 【何をしていたか】も具体的に記録しておきましょう。証拠は合わせ技で強くなります。証拠がなければほぼ勝てないので何とか記録を残しましょう。
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取材・文/林 孝匡(弁護士)
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