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ハイブリッドモデルに試乗してわかった新型「プリウス」が示すバッテリーEVへの冷静なる道筋

2023.03.04

1997年に世界初の量産型ハイブリッド車としてデビューしたトヨタの「プリウス」。それから20年あまり、現在では「もはやエコカーではない」という人までいる。そしてBEV(バッテリーのみで走行する電気自動車)の後塵を拝する“時代遅れ”のような扱いさえ受けることもある。だがここのデビューしてきた5世代目プリウスは、近未来のモータリゼーションに夢や希望を与える存在として、相変わらず輝いていたのである。

旧型との比較で全長や全幅では、わずかに大きくなったが、全高だけは40mmあまり低くなり、ロー&ワイドの印象が強くなったスタイル。

エコカーとして十分なる魅力をいまも発散する

3月11日に8月15日、そして9月11日や12月8日(ジョンレノンの命日)など、1年に何日かは、思いを馳せる日付がある。なぜか悲劇的な日が多く並んでしまうが、インド独立の父とも言われる「マハトマ・ガンジー」が、狂信的なヒンズー教徒の強靱に倒れた1月30日もそんな日である。ちなみに「マハトマ」とは「偉大なる魂」という意味で、インドの詩聖、タゴールから贈られた尊称。ここからはガンジーとさせて頂く。

あまり宗教的なことやイデオロギーについては書くつもりはないが、それでもガンジーが目指した非暴力・不服従によるイギリスからの独立運動と、インドの人々を一つの民族としてまとめようとした功績は、尊敬に値すると思った。結果的には、少数派であるムスリムと多数派のヒンドゥーは離反し、インド(ヒンズー)とパキスタン(ムスリム)という2つの国家となって分離独立し、現在に至るまで両国家の対立関係は続いている。

当然、この結果はガンジーの本意ではなかったはずだ。独立前、「インドにはヒンズーとムスリムというふたつの優れた目がある。どちらが優れているわけでも劣っているわけでもなく、インドにはどちらの目も必要だ」と言ったような言葉を、どこかで読んだ覚えがあり、いまもその思いは、心に残っている。

そして現在、地球環境を考える上で「エンジンVS電気自動車(BEV)」といった論争を耳にする度に、ガンジーの思いに共通する感情が浮かんでくるのである。

敢えてここでは分かりやすく「エンジン派」と「BEV派」とに分けさせて貰うが(そうした分類自体意味がないとは思うのだが)、本質はどちらも「いかにしてCO2を減らすか」という思いでは共通しているはず。だがBEV派にとって走行中にCO2を排出しないことは、すべてに優先する正義であり、エンジンはその点において、悪だと考える。当然、そこではハイブリッド(HEV)やプラグインハイブリッド(PHEV)であっても認めないという意見すらある。

一方のエンジン派にとってみれば、あまりに性急なるEVシフトは世の中に混乱をもたらすだろうし、発電も含めた充電のためのインフラ整備において、BEVは必ずしも正義ではない、と考える。別にBEVを否定するわけではなく、エンジンにはまだ燃焼効率の向上の道も残されている。さらに水素を使用した新たなパワーソースの進化を考えたり、他にも色々とやるべきことをこなしながら、カーボンニュートラルのためのEVシフトを考えればいいとなる。白状すれば個人的にはこちらの意見であり、トヨタが進めるカーボンニュートラルのためのマルチ戦略を支持している。

当然のことながら、1リットルで30kmあまり走行出来るクルマはそれほど多くはなく、プリウスは十分に存在価値を発揮している。他のトヨタの配意ブリッドモデルをはじめ日産やホンダのハイブリッドが達成している好燃費は十分に評価されていいのである。

あくまでも敵は「CO2」である事を教えてくれる存在

そのプリウスは今年の1月、新型の5代目モデルの販売が始まるとオーダーが集中し、あっと言う間に納期が1年以上、中には2年以上もあるほどの状況になった。部品調達の問題などが解決すればウエイティングは解消されていくだろうが、しばらくはこの混乱は続きそうである。

ではそれほどの人気を博しているプリウスの魅力とはなんなのであろうか? その答えは「エモーショナルな理由」で選ばれるクルマになったことにある。まずは現車を見ると素直にカッコいいと思えるデザインがこちらを刺激してくる。なによりも取材に対応してくれたデザイナーが、色々なエクスキューズをして来ることなく「とりあえず見て下さい」と自信たっぷりに言ってきて、多くを語らないのである。

確かに、なだらかなルーフラインの美しさとリアスタイルのまとまりの良さは、写真よりも実物のほうがより明確にカッコ良さやスタイリッシュさを感じ取ることができる。作り手の解説はここでは不要であり、いいなと直感できる形に仕上がっていたのである。

つぎなるエモーショナルは走りの刺激であった。今回の5代目の開発にあたり、後身に社長の座を譲り、自らは会長職に就くと発表したばかりの豊田章男社長が「プリウスは残すが、コモディティ化して、タクシー専用車とすれば環境対策はさらに進むのでは」との考えを社内で示したという。市街地での走行を得意とするハイブリッドのプリウスがタクシーとして全国の市街地で活躍することは、そのままカーボンニュートラルに寄与するから、その開発に対する考え方は間違ってはいない。

だがプリウスの担当エンジニア達は「あくまでもエモーショナルな理由で選ばれるクルマにしたい」と譲らなかった。これまで以上に高い環境性能を目指しながらも、「上質でスポーティな走りが自慢と言えるプリウスでありたい」と主張したという。そしてその思いを実現し、5代目は生まれた。

実際に走ってみればゆったりとしたファミリーセダンというより、どこかスポーツカー的という2.0Lエンジンを搭載したHEVモデルの走りや仕上がりは、エンジニアたちの思いが忠実に形になったからこそだと、理解できたのである。

この他にPHEVにも試乗したのだが、こちらの走りはサーキットのみの走行ではあったが、よりHEVよりもしっとりとした乗り味で、こちらも好印象。さらに感心したのは旧型に装備されていた急速充電のソケットが廃止され、普通充電のみとなったこと。そこには「急速充電はBEVの生命線。ガソリンで走れるハイブリッドがそのインフラで迷惑を掛けるわけにはいかない」という理由から廃止されたのである。急速充電の現場ではPHEVが急速充電を使用することで、かなり殺伐とした状況となっていたのだが、少し解消されるだろう。

そんな各タイプの試乗を済ませた結果、もっとも気に入ったのが1.8LエンジンのHEVモデル「Uグレード」である。タイヤも「195/60R17タイヤ&17×6.5Jアルミホイール」という仕様で乗り心地はとてもソフトで快適。WLTCモードのカタログ燃費は2.0Lが28.6km/Lに対し、1.8LのUは32.6km/L。トヨタの「KINTO」というサブスクでのみ購入できるモデルだが、こちらは1.5ヶ月で購入可能と完全なる特別枠で、価格も299万 円で300万円切りを実現している。なんとも魅力的なのである。こうして良く出来た新型プリウスを見ていると「まだまだ存分に活躍して欲しい」と言いたくなる。

数年後にはインドは総人口において中国を抜き、世界一になる。だがそのインドの電力事情を見れば、十分に整備されているとは限らない。他のアフリカ諸国などを見ればさらにBEVの普及には難しい状況がある。そうした新興国でのクルマ事情を考えればトヨタをはじめとした国産HEVの多くには、まだ存続すべき意義があるはずである。こんなことを言うとまた「反BEV派の妄想」などと言われるかもしれない。だが、敢えて言わせて貰えば「反BEVでも、反エンジンでもなく、反CO2なのだ」とだけは言っておきたい。

タイヤは前後ともに扁平率50の19インチタイヤを装着。その割に幅は195と狭めだが、路面からのショックはそれなりに伝わりってくる。

トヨタのBEV、bZ4Xに共通する新しいデザインのメーターモニター周辺。7インチのディスプレイパネルが前方にあり、視線移動も少ない。

フィット感もよく、スポーティな走りに対しても、ゆったりとした走りにも疲労感の少ない座り心地

全高が低くなったが頭上のスペースには思ったほど窮屈感はない。足元のスペースはクラスとして平均的な広さで、ストレスは感じない。

シフトレバーの操作性はトヨタのHEVや旧型とも共通する。センターコンソールのレイアウトはスッキリとしていて使いやすい。

リアシートの背もたれを前方に倒すとフラットな床面のラゲージルームが出現する。床面を下げれば使いやすい高さも確保できる。

アウトドアシーンや災害時にも重宝アクセサリーコンセント(AC100V・1500W)を装備。

エンジンとモーターとの繫がりもスムーズ。2.0Lのハイブリッドモデルはシステム出力においてFFモデルが196馬力、4WDモデルが199馬力と、どちらも旧型より70馬力以上、出力向上。

PHEVは基本的なデザインで2.0LのHEVモデルと基本は同じで、安っぽさもない。

旧型のPHEVにあった急速充電ソケットを排し、普通充電のソケットのみとして、BEVへの配慮も見せた。

【トヨタ・プリウス】
価格:370万円(Z・FF/税込み)
全長×全幅×全高=4,600×1,780×1,430mm
最小回転半径:5.4m
最低地上高:150mm
車重:1,420kg
トランスミッション:電気式無段変速機
駆動方式:FF
エンジン:直列4気筒 1,986cc
最高出力:112kW(152PS)/6,000rpm
最大トルク:188Nm(19.2kgf・m)/4,400~5,200rpm
フロントモーター:交流同期電動機
最高出力:83kW(113PS)
最大トルク:206Nm(21.0kgf・m)
燃費:28.6km/L(WLTPモード)

【プロフィール】
佐藤篤司(さとう・あつし)/AQ編集部 自動車ライター。男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書『クルマ界歴史の証人』(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

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