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仕入れ、卸し、販路、27歳で独自の流通ネットワークを作った渋谷の八百屋がめざす新しい農業

2023.03.07

昨年、『渋谷の八百屋発 食農ビジネス革命』(扶桑社)という本を出版した三浦大輝さん。弱冠27歳である。彼が代表を務めるリビングルーツは農作物の卸しと小売りを主な業務する。

生産者から消費者に渡る過程のすべてに関わりを持ち、従来の流通経路にこだわらず、安全でおいしい作物を消費者に届ける新しいビジネスモデルを展開中である。「フードロスを減らし、食品自給率を上げる食農ビジネス革命の一助になれば」と、思いを抱いている。

「江戸川直送・門倉農園の生でも美味しい小松菜・なぜこんなにおいしいの?こだわりぬいた土づくり」等々、生産者のコメントやうま味や特長が記された野菜が並ぶ「菜根たん」。渋谷東急本店地下食品売り場の店は建物の改装ため、1月に閉店したが現在、新店舗を検討中だ。東京の根津店と埼玉の大宮店は不定期に営業中。リアル店舗の他に、保育園の給食への有機野菜の卸し、SNSを活用した販売等で、年間1億円近く農作物を売り上げている。

前編はこちら

日本の農業を何とかしたい

世話になった農家が2016年の熊本大震災で被災。支援のため都内にマルシェをオープン、熊本産の農作物の販売がきっかけとなり三浦は起業を決意。東京農大を中退し、2017年に会社を興すが、スケールアップができずに解散。

その間、彼は47都道府県の生産農家とのネットワーク作りに力を入れた。将来への投資という思いからだ。土づくり等、工夫する農家は直販を手掛ける人は多い。三浦はそんな生産農家をネットで検索し訪ね歩いた。

――農家とのリアルなお付き合いで、日本の農業が垣間見られたと思います。

「まず、農業を担う人の高齢化です。お伺いすると、これでもかってぐらい御馳走してくれる農家が何軒もあって、“頑張れよ”と。“キミみたいな若い人がいなかったら、農業は終わっちゃうよ”“三浦クンみたいな若い人が農業に入ってくれたら、未来は明るいよ”とか。農家の人たちに励まされまして。日本の農業を何とかしたいという生産者の思いが、ひしひしと伝わってきました。

農家の人たちのために頑張りたい、食べるものを作っている人たちが、ちゃんと生活できる未来を作っていかなくてはと、全国の農家を回って、モチベーションが上がりました」

さらに運送会社、卸売市場の仲買業者、百貨店等を定期的に訪問し取引先を開拓した。

店舗、給食への卸し、eコマース

今度は失敗するわけにはいかない。仲間作りは彼の特技だ。数多い知り合いの中から、東大生の友人に新会社の事業計画の作成を相談。「アナログ産業の農業に先端技術を導入するきっかけになれば」と、友人は事業計画書の作成に協力してくれた。

――新会社の事業内容は?

「リアルな店舗作り、卸しについては量がさばける給食をターゲットにする。ネットを活用して販売するeコマースの充実、この3つを柱にしました」

農業は旧態依然とした体質が色濃く残るが、ビジネスチャンスが期待できる分野だ。緻密なデータの詰まった事業計画書を基に出資を募った。個人投資家や金融公庫から集まった2500万円を資本金にして2019年の末、今の会社のリビングルーツを設立。

「お客さんのリアルな声を聞ける場として、リアル店舗は大事です。閉店する文京区根津の八百屋の店舗を居抜きで借りて」

根津に八百屋「菜根たん」をオープンしたのは2020年2月。20年10月には東急本店地下食品売り場にも出店。

量がさばける給食は、私立の保育園に食材を納める卸売業者に営業を仕掛けた。食へのこだわりが強い私立の保育園は、生産者が見える有機農産物を受け入れやすい。現在、一都三県700か所以上の保育園に食材を納めている。生産者の想いのこもったこだわりの農作物を出荷できるルートを開発したわけだ。

フードロスの回避は三浦の大テーマである。リアル店舗は必ずロスが出る。そこで廃棄する前に、飲食店に卸す仕組みを飲食関係の会社の経営者とともに築いている。

これからはオンラインが進化する

新型コロナウイルスの蔓延は、会社設立して間がない2020年前半だった。当時、恵比寿三越の売り場に野菜販売ブースを設置していたが、4月9日に百貨店の臨時休業が決まる。

「ブースに並べた野菜は全部廃棄処分になる、それはマズイ。この野菜をネットで売れないか、いや、売らないといけない。そう思いました」“#拡散希望”“#大量フードロス”“#緊急事態宣言”のハッシュタグを付け、SNSに投稿するとこれがバズった。数万のリツイートが寄せられ、フォロワーも急増し、廃棄寸前だった食品は消費者の手に渡った。

「コロナ禍で世の中が一気に変わる、オンラインが進化するぞと実感しましたね。ネット販売を強化しようと決めた。農業業界でインターネットに強い人はあまりいません。

ネットも含め、個人では僕が日本一、農業関係のネットワークを築いているという自負があります」

2020年4月に緊急事態宣言が発令され、学校給食や飲食店への納品がストップ。築いたネットワークや口コミ、SNS等を通して、在庫を抱えた生産農家から三浦のもとに、販路の協力要請が舞い込む。千葉の農家が抱えた2トンの在庫、北海道の生産者の10トンの在庫、いずれも「三浦大輝/菜根たん代表」の“#大量フードロス“の発信が成果を上げ、多くの量の農作物が消費者の手に渡った。

eコマースを含め、コロナ禍では年間6000万円ほど売上げたのである。

農業の課題解決のために次のステップは

「例えば先日は沖縄の名護市勝山のシークワーサー畑を訪ねて、それをブログにアップしたり。旬の野菜や果物の情報をきめ細かく発信するとか、新しい情報を提供する。僕のSNSに興味を持って見る人が増えれば、買ってくれる人も増えるでしょう」

埼玉県大宮市の店では物産展の開催等、行政や町と組む形での運営を行っている。最近では新潟県十日町市と組んで物産展を展開した。今ではセールスをしなくても日々、全国から問い合わせが舞い込んで来る。

生産者から消費者に渡るまでのすべてに関わり、従来の流通経路にこだわらないビジネスモデル、それが三浦の強みだが、

「全国の生産農家や卸売業者を回っていると、課題も見えてきます」

彼は今、近未来の農業支援の在り方をイメージしている。

「例えば補助金制度や助成金の問題。農業経営を支援する補助金制度のシステムがわかりずらかったり、ときにその遣われ方が不適切で、農作物の品質にこだわらなくても助成金に頼ることで、収益の増加も可能だったり。農家への支援として、税金の配分をもっとわかりやすく最適化したい。そんな考えを抱きはじめると……」 

三浦大輝、弱冠27歳、どうやら政治の世界も視野に入れているようなのである。

取材・文/根岸康雄

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