■連載/Londonトレンド通信
前哨戦の英アカデミー賞・主演男優賞は『エルヴィス』のオースティン・バトラーが獲得
いよいよ3月12日(現地時間、以下同)は米アカデミー賞発表/授賞式だ。一足早い2月19日に英アカデミー賞発表/授賞式があった。ノミネートがほぼ重なるため、米アカデミー賞の前哨戦とも呼ばれる。
今回は、参加した英アカデミー賞受賞者会見の雰囲気とともに、米アカデミー賞でも見どころとなるであろう主演男優賞作品をまとめてご紹介したい。
今回、5人の米と同じ候補者に、『Good Luck to You, Leo Grande』のダリル・マコーマックを加えた6人が並んだ英主演男優賞は、予想が難しかった。 結果は、『エルヴィス』(昨年7月から公開)のオースティン・バトラーだった。
発表された時、「オースティンか」とつぶやく声が聞こえた。発表/授賞式が開催されたロイヤルフェスティバルホール、 式が行われているメイン会場横に設えられた記者会見場で、お隣での式がライブ中継されていた。
壁の向こうの式には、ゲストとしてウィリアム皇太子とキャサリン妃もいた。
それぞれが予想と期待を交えつつ見る結果発表、「オースティンか」には意外の感がにじんでいた。英での結果は出たが、米はどうなるか。
それでは、ちょうどこの3、4、5月と公開が続く候補者たちの映画を紹介していこう。
『生きる LIVING』(3月31日公開予定)
感動の受賞を期待されるのが、『生きる LIVING』のビル・ナイだ。
様々な賞を受賞してきた大ベテランの名優だが、映画主演でのアカデミー賞は米英ともまだない。受賞すれば、70歳を超えて初の賞を手にすることになる。
映画は、オリヴァー・ハーマナス監督による、黒澤明(1910-1998)監督『生きる』(1952)のイギリス版リメイク。ノーベル文学賞受賞作家であるカズオ・イシグロが脚本を手掛け、1952年のロンドンを舞台にしている。
オリジナルでは志村喬がブランコで「ゴンドラの唄」を口ずさむ名場面があるが、イギリス版でもナイがブランコで歌う場面がしみる。
死期を悟った男が、夜のブランコで静かに歌う。名優に、その国で馴染まれた郷愁を誘う唄とくれば、よほどひどい演出でない限り、どこの国でやっても名場面ができそうだ。オリジナルの骨太な魅力が改めて印象付けられる。
『ザ・ホエール』(4月7日公開予定)
違う意味で感動の受賞が期待されるのが、『ザ・ホエール』のブレンダン・フレイザーだ。
ブレンダンと言えば『ハムナプトラ』シリーズ(1000-2008)の大スターだが、セクハラ被害からの鬱などもあり、勢いが失われていた。
それも影響しているのであろう体重増加も、二枚目俳優にとって大きな問題に違いないが、今回はプラスになった。主人公は、300キロ近い体重になってしまった文学教師なのだ。
盛りを過ぎた満身創痍のレスラーを主人公にした『レスラー』(2008)で、スキャンダルや整形の失敗で満身創痍ともいえたミッキー・ロークを復活させたダーレン・アロノフスキー監督が、今回はフレイザーを復活させた。
『aftersun/アフターサン』(5月26日公開予定)
『aftersun/アフターサン』は、ボール・メスカルが映画初主演にして主演男優賞ノミネートだ。イギリスでは演技力を認められている期待の俳優だけに、驚きの受賞もありえる。
映画は、父と娘のホリデーを追う。大人になった娘が時々登場し、11歳の夏休みを追想する形だ。どうということもないパッケージホリデーの様を描きながら、父が娘の人生から消えていく萌芽を感じさせる、せつない映画だ。
監督はこれがデビューとなるシャーロット・ウェルズ。予想が難しかった主演男優賞に対し、予想が簡単だったのが英国新人賞だ。ウェルズ監督の受賞を疑う人はいなかった。会見でも、誰もが予想し、その通りになった状態で、盛り上がった。新しい才能に出会うのは、うれしい。
英で受賞したオースティン・バトラーに、以上の3人、前々々回ご紹介した『イニシェリン島の精霊』(公開中)のコリン・ファレルの5人が米アカデミー賞主演男優賞ノミネート。さて、結果やいかに。
文/山口ゆかり ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。
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