小学館IDをお持ちの方はこちらから
ログイン
初めてご利用の方
小学館IDにご登録いただくと限定イベントへの参加や読者プレゼントにお申し込み頂くことができます。また、定期にメールマガジンでお気に入りジャンルの最新情報をお届け致します。
新規登録
人気のタグ
おすすめのサイト
企業ニュース

岩谷技研が挑む安心・安全・低価格の宇宙遊覧体験「気球で日帰り宇宙旅行」の気になる中身

2023.03.01

■連載/阿部純子のトレンド探検隊

往復、滞在含めて4時間の日帰り宇宙旅行体験

岩谷技研」は気球を使って宇宙旅行を目指す宇宙開発企業。2016年の設立以来、「風船宇宙プロジェクト」「風船宇宙 生物プロジェクト」など、気球を使った宇宙開発に挑戦。2020年の夏からは気球による宇宙遊覧を新たな目標に定め、資金調達を実施。以来、同社の所在地・札幌を拠点に高高度気球と気密キャビンの設計・開発、各種の実証実験を重ねている。早ければ2023年度中にも、気球による宇宙遊覧の商業運行開始を開始する計画だ。

「私たちはだれもが宇宙に行ける『宇宙の民主化』を目指しています。人類が初めて宇宙を飛んでから 60 年あまり。これまで宇宙は常に限られた、選ばれた人が行く場所でした。ここ数年、宇宙へ行く新しい手段がいくつも登場して、民間人も宇宙旅行できる時代になりましたが、依然として一人60億、100億といった破格の価格や、過酷なトレーニングによる身体的負荷など、越えられない壁が立ち塞がっているのが現状です。

私たちは、ロケットのように燃料を使うのではなく、空気よりも軽いガスの浮力で人や物を宇宙遊覧が可能な高度まで運ぶ安全で低コストな手法を開発しました。特別な訓練も必要なく、低価格帯で提供することを目指しています。2023年予定の宇宙遊覧体験は約2400万円ですが、将来的には10年ほどで100万円台ぐらいまで目指していきたいと考えています」(代表取締役CEO 岩谷圭介氏)

岩谷技研の気球は、真っ暗な宇宙空間と青い地球が見渡せる高度2万5000mまで上がることができる。滑走路などは不要で、大規模は打ち上げ施設を建設する必要もないため、さまざまな場所から上げることが可能で、地方活性化への寄与も期待されている。

気象状況に左右されるため日程のピンポイント指定は不可なので、宿泊施設を利用して1週間ほど滞在、ベストな飛行日を選んで出発する。およそ2時間かけて高度2万5000mまで上昇、この高度で1時間滞在し、1時間かけて地球に戻り海に着水。往復、滞在含め計4時間の日帰りの旅だ。

「だれでも、家族揃ってでも安心して行けるのが旅なので、安全性とコストは非常に重要です。空を飛ぶものを十数年作ってきましたが、安全を担保しないと絶対に受け入れられないので、安全性は最も譲れない部分です。そのため私たちは過去300回以上の打ち上げを実施し、実証実験を重ねてきました。高度4万mほどまで無人で飛行し、有人飛行も20回以上の実績があります。現在は無人の物も含めると年間60回ほど飛ばしており、有人は2か月で3回ほどのペースで、実際に私も搭乗して実験を行っています。

空を飛ぶ乗り物における事故の9割は離陸時、着陸時に発生しますが、気球も同様なので低い高度で、上がるとき、下りるときの試験を繰り返して行っています。(※下記画像は低高度での飛行実証実験用に使われている一人乗りキャビン)

これらの飛行実績で得たデータを基にプロジェクトを進めており、まだ有人での2万5000mは実施していませんが、2023年以内に高度2万5000mまでの人を送り込む実証実験を行う計画で、1年以内のスパンで宇宙旅行を実現できるところまで来ています」(岩谷代表)

気球と他の乗り物の安全性を比較すると、100 回運航して、一度も事故を起こさない確率は、ロケットで4.8%、自動車は99.999%、気球は99.9992%で、100回利用時の重篤事故率は0.008%と、自動車や飛行機と同じぐらいの安全性がある。

宇宙遊覧気球はさらに安全性を高めるために、下降時もガスの放出を抑える構造で一定の浮力を保ち続け、万が一の場合気球がパラシュートに変形し、キャビンにもパラシュートを搭載、緊急脱出用に乗員用のパラシュート装備と、4 重の安全装置を実装している。

和歌山大学の宇宙教育研究所に勤務し、「はやぶさ」や月周回観測衛星「かぐや」のプロジェクトメンバーを歴任した、和歌山大学教授の秋山演亮氏は岩谷技研の気球についてこう話す。

「ロケットや気球の研究開発に携わる人たちは、自分の実績を自慢したがるものですが、岩谷さんは『なぜ自分が上げる気球は安全なのか』だけをずっと話している方です。

高校生の子どもがバイクは安全だから乗りたいと言いだしたとき、親御さんは安心して乗っていいとは言えないと思いますが、宇宙旅行も同様で、本人も周りの人も安心して送り出せるのかが最も重要。岩谷技研さんは繰り返し実証実験を行うことで安心・安全面を徹底して追求しており、実証実験の回数は世界一レベルと言えます。

岩谷技研の気球技術のすごいところは、パラシュートやパラグライダーを使わず、気球の浮力を使って下りてくるということと、気球を上げるのに使うヘリウムガスの95%を回収して再利用しているということ。技術面でも繰り返しチャレンジすることで新たな発見をしているところに感嘆しています」(秋山氏)

発表会では、パイロットと乗客の2人乗りキャビン「T-10 Earther」が披露された。透明な気球と、キャビンのほとんどの部分がプラスチックでできており、キャビンや計器類を含め、自社で研究開発したものを自社で製造し運用する。

宇宙遊覧で到達する高度2万5000m は真空、低温、無酸素で、人間にとっては宇宙とほぼ同じ環境であり、宇宙遊覧には宇宙船と同様の機能が求められる。

T-10 Eartherは、骨格設計や機密構造に数々の特許技術が使用されており、機内の気圧変化は旅客機より小さく、飛行時の振動や揺れは新幹線より小さなもので、大きな温度変化もないことから特殊な服を着用する必要もないという。

直径150cm の宇宙船としては極めて大きなドーム窓を備え、壮大な宇宙の姿を眺めることができる。将来的にはより大きな装置を作り、多くの人が宇宙遊覧できる装置を開発していきたいと岩谷代表は話す。

「私自身、有人実験で何度も体験していますが、非常に静かでゆったりと上がっていく乗り物で、上昇するときに使うヘリウムガスを抜くタイミングは、高度を維持する最頂点と、下りる際に高度を下げるための計2回だけなので、下りる際も落下速度は非常にゆったりです。乗っている感覚は船やブランコに近いかもしれません。動力がなく空気に対して速く動く乗り物ではないので、乱気流に遭遇した飛行機のような揺れは存在しません。飛行機や自動車など従来の乗り物とは違う、一風変わった乗り物が気球なのです」(岩谷代表)

岩谷技研では、だれもが宇宙を体験できる「宇宙の民主化」を実現する共創プロジェクト「OPEN UNIVERSE PROJECT」の始動を発表。

宇宙空間を快適にする服や食事・飲料、アメニティや、宇宙港、発射場、宇宙リゾートなど、日本の様々な企業と共創していくことで、宇宙体験を日本から世界に広げていくことを目指している。最初の共創パートナーとしてJTBが名乗りを上げた。

同プロジェクトでは搭乗者とパイロットも募集している。2023年~2024年にかけて計画している気球による宇宙遊覧の商業運行開始に向け5名の搭乗者を選出し、宇宙遊覧フライトを含む宇宙遊覧体験を販売する。(詳細はこちら)。 

パイロット候補生は岩谷技研の正社員として採用し、パイロットの訓練を受けながら、開発を主体としたその他の業務にも携わる。

【AJの読み】実現間近!安心・安全・低価格の宇宙遊覧

最近なにかと話題となっている気球だが、憶測や勘違いが多く、宇宙遊覧気球も誤解を受ける可能性があるため、岩谷代表は自社サイトにて偵察気球について分析、言及している。

36歳の岩谷代表が、宇宙に対する興味を持ったのは幼稚園のころに読んだ宇宙ステーションの絵本がきっかけだったという。北海道大学で航空宇宙を学ぶ中で、ロケットは規模が大きく難しいものだと実感し、だれでも簡単に宇宙に行ける可能性のある気球の研究に2011年からシフト、2012年にはアクションカムを使い日本上空30kmで撮影した「風船宇宙撮影」に成功した。そこからわずか10年余年で有人宇宙遊覧の実用化寸前まで至っている。

「森の精霊のよう」(宇宙タレント・黒田有彩氏談)な温和な印象の岩谷氏だが、徹底した実証実験を積み重ね、着実に夢の実現に邁進している。

「少ない調査では3~4割、多い調査では5~6割と、宇宙に行きたいと考えている人は多いです。私たち以外でも計画をしているところはありますが、私たちが一番乗りになれる自信はあります。とはいえ、世界中の宇宙旅行希望者をカバーできるのは1社では無理なので、技術供与を含めて協力していくことはあり得ますし、世界中でたくさんの人が宇宙への旅を開いていくことが必要だと考えています」(岩谷代表)

文/阿部純子

@DIMEのSNSアカウントをフォローしよう!

DIME最新号

最新号
2024年3月15日(金) 発売

DIME最新号はデザイン一新!大特集は「東京ディズニーリゾート&USJテーマパークの裏側」

人気のタグ

おすすめのサイト

ページトップへ

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第6091713号)です。詳しくは[ABJマーク]または[電子出版制作・流通協議会]で検索してください。