「なんちゃってDX」に陥っている要因と解決策
同社のCTOであり、コンサルティング部門の責任者として日々顧客の困りごとに向き合っている宮地敬史氏に尋ねたところ、「なんちゃってDX」に陥っている現状は、次のような要因があるという。
・顧客データ、経理データ、業務日誌、電子メールなど個人情報や会社の活動の機微な情報をデータの分析で使うことが増えている。
・個人情報や会社の機微なデータを分析で使うことが増えてきている中で、各部門の分析の専門ではない一般社員もデータ分析をする時代になっている。
・データを使いこなせる人が、社内から頻繁に問い合わせがあり大変。データをどうやって活用するかというポータル機能がない。
・どこにどんなデータがあるのかの管理と共に、膨大なデータのうち、守るべきデータがどのくらいあるのかの把握が社内でできていない。
・データを保護するためのインシデント管理、コンプライアンス管理、リスク管理、監査管理の体制が十分ではない。
株式会社インサイトテクノロジー CTO 宮地敬史氏
同社の代表取締役社長 CEO 森田俊哉氏は、データ活用の課題は、次の3つにまとめられると述べる。
●データ保護の法令強化
●データの分散化
●データの増大
株式会社インサイトテクノロジー 代表取締役社長 CEO 森田俊哉氏
●解決するには?「DXインフラ整備」
これらの要因を踏まえると、解決策は自ずと見えてくる。同社は「企業に眠っている大量のデータを誰もが安全に価値を生み出すことができるDXインフラ整備が必要。社内に散財しているあらゆるデータベースからファイルに至るまで、登録するとみんなが検索して簡単に引き出してくれる仕組み。検索結果に出てくるデータは、自分が閲覧してもいいものだけが表示されることがデータ保護の観点から重要」と述べ、例として、自社の新製品「Insight Governor(インサイトガバナー)」を紹介した。
インサイトガバナーは乱立したデータの可視化や引き出しが可能で、初めからセキュリティを各データに組み込んでおくことが可能だという。導入すると、一般社員がセルフサービスで自らデータを探すことができ、これまでの2倍のデータを活用できるという。一方、データ管理者は、「この部署はここしか見れない、この部署はここまでやっていい」などポリシーを定めて、あとはインサイトガバナーを自動運用にすると、手作業が激減し、新たなプロジェクト推進などに着手できるという。
まさに今、このようなデータの民主化を前提としたDXインフラ整備が求められているフェーズに来ていることがわかる。
専門家の意見「なんちゃってDX」の実態と解決策
ところで、同イベントでは専門家も登壇した。一般社団法人日本データマネージメント・コンソーシアム(JDMC)の発起人であり、データマネジメントを牽引する株式会社NTTデータバリュー・エンジニア代表取締役社長 大西 浩史氏だ。
大西氏は、「なんちゃってDX」に陥っている実態について、「そもそもDXとはなにか? データ活用を何に対してやっていきたいかなどがまだ曖昧になっている。DXという言葉だけが先走ってしまってるところが課題」と述べた。
「データは集めてきたけれど、そのデータが一体どんなデータなのかわからない。せっかくいいツールがあっても集めてくるだけ集めて誰も使わないなど最悪なケースに陥っていることもある。この辺りが根本的なDXを阻む課題になっているのではないか」
「分析基盤を作ること自体が目的となってしまい、『作ったはいいが、どうやって使ってもらったらいいのか』と、できた後に相談されることがよくある。結構な投資をしたので使ってもらわないといけない。しかしうまく活用できてない。それが一番もったいないし、そもそも活用したいと思ってデータを生み出していない」
●解決策は「戦略・体制・ルール作り」と「継続的な取り組み」
解決策について、大西氏が重要ポイントと指摘するのが「戦略・実行体制・ルール作り」と「継続的な取り組み」だ。
「『情報(データ)は、ヒト、モノ、カネと並ぶ第4の経営資源』といわれて久しく、最近では『データは次のオイル』といわれる存在になったが、データを真のオイルに変えるためには、それを練成するための戦略や実行体制、ルールなどが不可欠であり、データ活用が企業文化として根差すところまで活動を継続することが最重要である」
情報活用基盤などのシステムを前提に、「実行体制」と「運用ルール・定着活動」の両軸でデータ活用を推進。一過性の“プロジェクト”ではなく“プログラム=営み”と捉え、継続的な取り組みが必要だと説く。
「常に新しいデータと向き合っていかないといけない。インフラ部分の機能は常に必要となる。インサイトガバナーのような製品を入れても、これで終わりではなくて常に改善していくことに期待する」
一般社員がデータ活用に着手している今、社内でまさに「なんちゃってDX」やデータ活用の「あるある」が生じているというなら、まずはDXインフラ整備から社内に提案し、組織全体が取り組む体制づくりへと変革していくための働きかけを始めてみるのもいいかもしれない。
【取材協力】
株式会社インサイトテクノロジー
Insight Governorブランドサイト
株式会社NTTデータ バリュー・エンジニア
取材・文/石原亜香利