2020年1月16日に日本国内で初の感染者が確認された新型コロナウイルス「COVID-19」。流行、ピークアウトの波はあり、予断を許さない状況ですが、2023年に突入した現在は落ち着いてきています。
そこで本記事では、日本商工会議所 新型コロナウイルス感染症対策室長の山内清行氏、池袋さくらクリニック 院長の倉田大輔氏(経営学修士・健康経営エキスパートアドバイザー)に、新型コロナによる経済への影響や、これまでの新型コロナ対策について話しをうかがいました。
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新型コロナの流行から垣間見えた様々な問題
編集部:新型コロナの発見から、現在に至るまでの経緯や対策について振り返っていただけますか?
山内氏:新型コロナの国内感染者が発見されてから、3年が経過しました。当初は新型コロナが〝未知のウイルス〟ということもあり、どう対応するのか試行錯誤しながら対策を進めてきました。状況がわからないなか、とりあえず行動を止めよう、自粛しようという対応でしたね。適切な対応だったと思います。
感染確認から1年後には新型コロナワクチンも開発され、ある程度、どういうシーンで感染するのかが見えてきたので、業種や場所を絞りながら対応できるようになってきました。3年目に入ると、「withコロナ」のフェーズ、つまり新型コロナの感染防止対策と、経済活動を両立していく段階に入りました。5月8日には、新型コロナの感染症法上の分類が5類へ、3月13日にはマスク着用基準が見直されます。歓迎していますが、日常生活やビジネス現場で混乱が生じない形で円滑に進めていくことが重要です。新たな変異株の発生など、非常時に対応できる地域医療提供体制の整備はぜひともお願いしたいところです。
新型コロナ対策について、感染症対策という観点で見ると、日本は世界的に見て死亡者数も少なく、うまく対応してきたと思います。しかし、withコロナ、社会経済活動との両立という観点では、諸外国が規制をかなり緩和してきているのに対して、日本は水際対策も含めて遅れました。日常生活への回復が遅れた分、地域経済や中小企業などへのダメージが大きかったです。もう少し早く緩和をしていくこともできたのではないかと、個人的には思っています。コロナ禍で婚姻件数が減り、2022年の出生数が80万人割れの見通しとなっています。子供の成育を考えるとマスクの影響も気になるところです。
新型コロナが流行し始めた当初は、目の前にあった需要が蒸発し、売り上げが消えてしまう業種もありましたが、今はだんだん経済が動くようになってきました。これから先は、コロナを乗り越えていく「ビヨンドコロナ」への生活や事業の再建支援へとシフトしていくことになります。今後、費用対効果の高い形で、ワイズスペンディングでやっていくことが重要だと思います。
コロナ禍で、日本社会のデジタル化が進んでいないことも浮き彫りになりました。保健所の感染者報告などの管理も紙ベースで行っていましたよね。真に困窮する人に対して、ピンポイントで給付も行えず、結果として一律給付になりました。早急にデジタルガバメントの構築、マイナンバーカードの普及などを進めてほしいと思います。
我々としても、政府の要請に応え、総理やコロナ担当大臣との会議は計32回開催しました。テレワークも要請を受け、事業者に呼びかけました。コロナ禍前はおよそ3割程度の企業が導入しているのみだったのが、緊急事態宣言を受けて7割程度まで増えました。しかし、現在は再び3割程度まで戻っています。多くの中小企業がデジタル化の効用を確認して、便利さを感じた半面、リアルの良さも実感しています。なかなか難しいですが、今後、オンライン会議やハイブリッドワークは効果的に活用されていくと思います。出張も行くべきものと、オンラインでよいものと、よりビジネスに即した線引きがはっきりしていくでしょう。
【参照】東京商工会議所/中小企業のテレワーク実施状況に関する調査
倉田氏:そうですね。世界で新型コロナが初観測されたのが2019年10月ごろで、日本国内で感染患者さんが確認されたのが2020年1月。当初は医療従事者側も「なにがなんだかわからない」といった状態で、単なる風邪だとか、子供には感染しないといった情報もありました。徐々にそうでないことがわかってきたり、地域による感染差のようなものもありましたが、医療の観点から見た時に、外出をしないことを含めて、医療機関に行かない方が良いといった動きも見られました。例えば、高齢者や継続治療が必要な方が、高血圧の薬や糖尿病の薬を入手できず、結果として治療の中断につながってしてしまうというケースも問題でした。
もう1つは、医療機関は診察までの待ち時間が生まれてしまうことがあります。待ち時間中に感染してしまうかもしれないというリスクを回避するための受診抑制もあり、特に小児科などが顕著だったようです。本来であれば、慢性的な疾患を持つ方たち、治療が必要な方たちは、元々の病気を治すことと感染症対策に臨む両方に目を向ける必要があったものの、〝新型コロナが怖い〟という考えが先行してしまった様に感じています。途中からは、治療を中断させないという意味でも役立つ遠隔診療、オンライン診療が導入されてきました。
それから、新型コロナは肺など呼吸器系に異常を起こしやすい病気で、胸部の状態を診る検査が重要です。病気の動向も不明な感染拡大当初、患者さんは小規模医療機関に多く設置されている単純レントゲン撮影検査より、CT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影)など、より詳しい検査ができる総合病院や大学病院への受診を希望する傾向がありました。患者さん側の不安を考えればやむを得ないこととは言え、結果として、新型コロナ以外の病気やケガ治療・救急医療などにも対応する必要がある、病院や勤務する医療従事者の負担が大きくなることにつながってしまいました。
一方、手洗いやアルコール消毒といった「手指衛生の重要性」が社会に広く浸透しました。医療現場では「標準予防策」と言い、手指衛生を含む「既知未知を問わず感染元となる病原体から、医療従事者自身と患者さんの両方を守る」対策が新型コロナ流行以前から行われてきました。
「食事の前や外出後には手を洗うなど清潔を心がける」といった、誰もができる感染対策の基本を今後もしっかり行っていくことは非常に重要だと思います。
山内氏:経済界では、これまでの知見やデータに基づいて経済を動かしていくことが大切だと考えています。基礎的な感染対策も必要最小限で何を残していくかなども重要です。ワクチンや治療薬の供給にも期待しています。
まず、新型コロナの流行から今日に至るまで、医療従事者の方々には心から感謝しています。もともと日本はフリーアクセスで、これは素晴らしいことですが、平時から非常時へ移行した時、だれが責任を持つのか、国なのか自治体なのかという問題が顕在化しました。従事者の方たちも分散していました。東京でも、新型コロナ患者を受け入れる大規模な施設を作る話もありましたが、結果として実現しませんでした。調整が難しかった状況を踏まえて、今後は危機管理庁などもできますので、国家戦略的に平時から非常時への移行がスムーズに行えるような環境を整えていかないといけないでしょうね。
仮に今後、未知のウイルスなどが流行した際には、いかに正しい情報を収集して、だれがリーダーシップを発揮するのか、財源はどうするのかといった基盤を、議論をして固めていただきたいと思っています。それによって経済へのダメージを減らせるし、結果として人の命を守ることにつながると思います。
倉田氏:確かに、今後も未知のウィルスなどが流行することも念頭に備える必要がありますね。私自身も、立川にある災害医療センターという、阪神淡路大震災(都市型災害)の教訓を基にして、外傷治療対応を主眼に考えられていた病院に勤務していたことがあります。ただ、東日本大震災では、外傷治療よりも慢性疾患の悪化対応など、想定されていないことも多く発生し、救えない生命もありました。医療は、「事態が発生してからでないと対応しにくい」ことも多く、非常に悩ましいと感じました。
山内氏:怪我や病気を治すことの専門家である医療従事者の方々の現場の声をうまく聴いて、しかるべき支援を行っていくことが必要です。
医療提供体制は社会経済活動の基礎的なインフラであり、ここが止まるとすべての経済が止まるといっても過言ではないなと、新型コロナの流行で強く感じました。商工会議所も創立以来、初となるワクチン職域接種を実施しました。ワクチンが不足し大変混乱もしましたが、医療関係では、活動制約で困窮する飲食などの地域中小企業などの従業員への職域接種を実施し(90 商工会議所、約 60 万回)、大変喜ばれ、感染防止対策に貢献できたと思います。
撮影/湯浅立志(Y2) 構成/中馬幹弘 文/佐藤文彦