こんにちは。弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい解説を目指しています。
裁判例をザックリ解説します。
「残業を禁止します!」
会社が命令を出しました。しかし社員たちは命令に従わず残業を続けるという事態に…。その後、みんなで残業代を求めて訴訟を提起。
〜 結果 〜
残業代の請求はムリでした(神代学園ミューズ音楽院事件:東京高裁 H17.3.30)。さすがに残業禁止が徹底されていればムリですね。
でも「残業ダメだよ〜♪」程度のお飾りであれば残業代を請求できる可能性もあります。そのあたりも書きました。
以下、くわしく解説します。
登場人物
会社は音楽家を養成する音楽院。理事長が個人経営をしていました。原告は以下のとおり社員8人です。
ABCDE 役職なしの社員
F 課長
G 教務部長
H 事業部長
音楽院はその後、法人を設立しました。そして原告8人を法人に移籍させました。
残業代をめぐるトラブル
▼ 給与体系の変更
これが火種となりました。体制の変更に伴い【給与体系が変更】されたからです。この措置に教務部長Gが怒ったんです。変更した部分を一部抜粋すると以下のとおり。
・時間外手当は月20時間まで(1000円/時間)
・役職手当
部長 10万円
課長 6万円
主任 3万円
「給料が下がるやん!」ってことでしょう。教務部長Gは理事長に強く異論を出たんですが、理事長は息子と相談した上で給与体体系の変更を実行。
▼ 労働組合の結成
エイエイオー!原告らは労働組合を結成します。36協定締結に向けて交渉を始めるためです。
Q.36協定って何ですか?
A.従業員を残業させるために必要な協定なんです(労働基準法36条)。この法人はそれを締結していなかったんです。あなたの会社が締結しているか確認してみましょう。36協定を締結していないのに残業させられていたら労働基準監督署へGOです。
36協定を結ぶのは基本のキなんです。九九でいえば一の段です。いんいちがいちです。それさえしていない会社は99%ブラックです。漆黒です。
▼ 残業すんなよ!
会社は残業禁止命令を出しました。労働基準監督署が来られたら困ると考えたからでしょうか。
「仕事が残っていた場合は役職者に引き継ぐよう」業務命令を出しました。約2ヶ月くらいしつこく言い続けていたようです。
しかし、ABCDEさんなどはその命令を無視して残業し続けていました。
Q.なぜ残業をし続けたんですか?
A.労働組合と理事長とのイザコザがあったようでそれへの反発(※ポクの想像)と、あとは残業代がもらえないと生活が圧迫されるという理由もあったようです。
裁判所の判断
裁判所は「残業禁止命令が出て禁止が徹底されてたから、残業代の請求は無理だわ」と判断。理由は以下のとおり。
▼ 残業代を請求できるケース
働いている時間が以下の場合、労働時間にあたるので残業代を請求できます。
○ 会社の指揮監督下にある時間
または
○ 会社の明示または黙示の指示により業務に従事する時間
▼…しかし本件は
「残業するな!」と命令されてたので、会社の指揮監督下にある労働時間ではないと判断されました。よって残業代を請求できずという結果となりました
★ マメ知識
残業禁止命令がない場合です。
Q.会社から「残業しろ」と言われていなくて自分の判断で残業してたら…残業代はもらえないですよね?
A.いや。請求できる可能性が高いです。上記の【黙示の指示】が認定される可能性があるからです。会社から残業の指示がなくても【従業員の残業を認識していれば】黙示の指示と認められる可能性があります。残業した証拠を残しておきましょう(いつ・どこで・何をしたか・メールを送っておく・妻にLINEしておく・残業時間計算アプリみたいなのもあるようです)。
ほんで、なんぼ?
マジで低いですね。残業禁止命令が出たあとは残業代が認められないので…。役職者には残業禁止命令が適用されなかったので、それなりの残業代が認められています。
A 約3万6000円
B 約8000円
C 約5000円
D 約2万1000円
E 約1万8000円
役職者F 約113万円
役職者G 約70万9000円
役職者H 約119万円
お仕置き(=付加金)
裁判所はお仕置きも命じています。「残業代不払いが悪質だなぁ〜」と判断すれば裁判所はお仕置きを命じます(付加金・労働基準法114条)
でも今回はシッペ1発くらいのお仕置きですね。
A 7000円
B 6000円
C 1000円
D 5000円
E 4000円
F 約22万6000円
G 約14万3000円
H 約25万6000円
裁判官が「この不払いはクソだ!」とブチギレれば最大で倍返し(半沢直樹)のお仕置きを命じることがあります。たとえば残業代が100万円としたら付加金を100万円もプラスして、合計200万円の支払いを命じます。裁判官は怒らせたら怖いのです。
さいごに
さすがに残業禁止が徹底されてたら残業代請求はムリです。
でもコレを逆手にとって悪知恵を働かせている会社もあります。あなたが残業せざるを得ないことを認識していながら「残業はダメだよ〜〜♪」とお飾りの鼻歌だけ歌っているような会社です。仕事時間の記録を残しておきましょう。
労働局でも残業代請求ができます(相談無料・解決依頼も無料)。証拠が命です。
労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。ではまた次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。
webメディアで皆様に知恵をお届け中。「
https://hayashi-jurist.jp(←
https://twitter.com/