■石川真禧照のK-CAR徹底解剖
日産の電気自動車の歴史も長く、多くのEVを制作し、発表・発売している。第1号は1947年の「たま電気自動車」。この電気乗用車は3年間で1100台、販売され、タクシーなどに使用された。2000年の「ハイパーミニ」は2人乗りのコミューターだった。これも市販された。
一般にその存在が知られるようになったのは2010年に発売された「リーフ」。三菱の「i-MiEV」に登場は遅れたが、量販EVとして、モデルチェンジを続けながら、販売されている。さらに2020年にはクロスオーバーEVの「アリア」を発売した。
軽EVの「サクラ」は、日産としては「リーフ」から続く、EVシリーズの末っ子としてのポジショニングで開発された。日産の軽自動車の一車種ではなく、EVシリーズの新型車という位置付けなので、デザインもフロントマスクは上級2車種と共通のデザインを採用。サイドからリアにかけてのボディも、兄弟車の三菱「ekクロスEV」とは異なる造形になっている。
車両本体価格も、標準装備も「ekクロスEV」とはわずかに異なる。グレードはS/X/Gの3グレードだが、Sはビジネスグレードという企業や営業車向けモデル。一般のカタログには掲載されていないグレードが存在している。実質一般ユーザーが購入できるのはX(239万9100円~)と、G(294万0300円~)の2グレードだ。
試乗したのは上級グレードの「G」。リチウムイオン電池の総電力量は20kwhと少ない。ちなみに「リーフ」は62kwh/40kwh、「アリア」は66kwh/91kwhの電池を搭載している。「サクラ」のカタログ上の航続距離は180kmと発表されている。日産のEVシリーズの中ではタウンユース用のクルマという位置付けが明確だ。軽自動車というサイズもタウンユース向きだ。
今回、試乗した「サクラG」は最初は充電レベルが98%で可能走行距離は160kmを表示していた。駆動は前輪、モーターもフロント部に収まっている。「サクラ」独自のシフトレバーとシフトパターンでDレンジを選択する。ドライビングモードは「スポーツ」「エコ」「スタンダード」という名称を採用している。スタンダードを選択する。
タウンユースを意識した室内は広く、明るい居住空間を実現している。フロントシートは座面横のレバーで手動で上下に高さを調節できる。座面を高くしても、天井が高いので圧迫感はない。アームレスト付のシートはセミセパレートのベンチシート。左右別々に前後にスライドできる。
リアシートも居住空間は広い。ベンチシートはレバーでスライドするが、その幅は約180mm。最前方までスライドさせても、フロントシートがある程度前方にあるなら、レッグスペースも確保できる。最後方までスライドさせれば、大人が足を組んでもフロントシートにぶつからないぐらいに広い。床面もフラットなので、定員は2名だが、大人3名が座れそうなぐらいに余裕がある。リアシートのスライドは一体式だが、背もたれは2分割式。それぞれにリクライニングさせることができる。リアのラゲージスペースも前後方向は360mm/540mmと調節できる。サブトランクは深さも約200mmあり、充電用ケーブルを無造作に収納できるのは便利だ。
スタンダードモードでの走りは、加速も0→80km/hを10秒台と、速い。さらにスポーツモードを選択すれば、もっと速い。一方で、e-Pedalのスイッチを押し、作動させると、スポーツモードではアクセルオフで、即座に減速し、停止寸前まで行く。アクセルオフでも完全に車体が停止するまでの減速は行ないプログラミングだ。
街中ではエコモードで電費をかせぎながら走るのもよいし、スポーツモードでキビキビと走り、強力な回生を行なうのも楽しい。EVならではの街中の走り方のパターンだ。実際の電費だが、東京都内から横浜みなとみらいまで首都高速を使って、走行すると約20%程度充電量は減少する。充電は、家庭用200Vなら8時間で、警告灯点灯から80%まで充電できる。急速充電なら30分で70%近くまで充電できる。
苦手なのは高速道路を時速80km以上で移動することや長距離ドライブ。試しに東京からアクアラインを使い、木更津方向、房総半島まで出掛けたが、常に充電量を40%以上に保とうとすると、帰路までに3~4回の急速充電を行なった。1回の急速充電が30分なので、充電だけで1.5~2時間を使ったことになる。しかも、急速充電をすぐに使えたときのことで、誰かが使っていたら、待ち時間はさらに長くなってしまう。急速充電機を同時に2台以上使える複数設置が課題だ。
■関連情報
https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/sakura.html
文/石川真禧照(自動車生活探険家) 撮影/萩原文博