慢性の痛みに対する抗うつ薬の効果のほどは?
長期間続く痛み(慢性疼痛)に対してしばしば抗うつ薬が処方されるが、その有効性に関するエビデンスは十分とは言えないのではないかとする報告が、「The BMJ」に2023年2月1日掲載された。
シドニー大学(オーストラリア)のGiovanni Ferreira氏らが、これまでのシステマティックレビューをオーバービューした結果であり、同氏は「慢性疼痛に対する抗うつ薬の有効性のエビデンスは決定的ではなく、特に三環系抗うつ薬の使用を支持する根拠が乏しいことが明らかになった」と述べている。
Ferreira氏らは、PubMed、Embaseなどの文献データベースに2022年6月20日までに公開された、成人慢性疼痛患者に対する抗うつ薬の有効性をプラセボ対照で検討した研究のシステマティックレビュー論文を検索し26報を抽出。
それらのシステマティックレビューが検討対象とした研究は156件であり、研究参加者は合計で2万5,000人以上、22の疼痛症状に対して8タイプの抗うつ薬の有効性が42の条件設定で比較検討されていた。
全体の約4分の1(11の条件設定)で、何らかの慢性疼痛に対する抗うつ薬の有効性が確認されていた。一方でほかの約4分の3(31の条件設定)では、抗うつ薬は効果がない、または効果ありとする根拠が決定的ではなかった。
なお、効果ありと結論付けていた研究も、その確実性は低~中程度の範囲だった。
抗うつ薬が有効と判断されていた疼痛症状は、背部痛、手術後の痛み、線維筋痛症、神経因性疼痛、乳がん治療に関連する痛み、うつ病に伴い悪化した痛み、膝関節炎、過敏性腸症候群、および慢性的な緊張型頭痛という9種類だった。
Ferreira氏は、「これらの疼痛症状に対する有効性のエビデンスの大半は、セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI)のエビデンスだった」と述べている。
前記9種類の疼痛症状のうち、背部痛、手術後の痛み、線維筋痛症、神経因性疼痛に対しては、SNRIの中程度の確実性が示されていた。
一方、慢性疼痛に対して広く使用されている三環系抗うつ薬の有効性は限られたものだった。Ferreira氏は、「三環系抗うつ薬の有効性が示されていたのは、神経因性疼痛、過敏性腸症候群、緊張型頭痛の3種類だけであり、かつ、その確実性は低かった」と、驚きとともに語っている。
なお、既報論文では、慢性疼痛に対する抗うつ薬処方の4分の3は三環系抗うつ薬が占めていると報告されている。「慢性疼痛に対して最も広く使われている三環系抗うつ薬のエビデンスが決定的とは言えないという事実は、懸念すべき発見と言える」と同氏は語っている。
米国では疼痛に対するオピオイドの使い過ぎが問題となり、医師はオピオイド以外の鎮痛作用のある薬に注目するようになってきている。
米ジョンズ・ホプキンス大学のGlenn Treisman氏は、「抗うつ薬には、慢性疼痛患者の症状改善につながるさまざまな作用機序がある。痛みを脳に伝える経路を抑制したり、痛みの知覚を弱めたり、痛みに対して過敏になりやすくする不安や抑うつなどの感情を緩和したりする」と解説。抗うつ薬による疼痛緩和作用がプラセボ効果ではないとしている。
Ferreira氏も、「ある症状に有効性が示された抗うつ薬が、別の患者の同じ症状には無効ということもある。その理由は十分明らかになっているとは言えないが、だからといって抗うつ薬の疼痛緩和がプラセボ効果によるものだとは言えない」と話す。痛みに対するプラセボ効果というものは、実際にはそれほど強力なものではないとのことだ。
また、Treisman氏は、痛みという症状に対する抗うつ薬の効果について、多くの研究結果を統合して一つの結論を導くことの困難さを語っている。
「慢性疼痛患者の痛みの部位、痛みを発現する閾値、痛みに対する対処法、性格などは人それぞれで、軽度の痛みでも『痛い』と訴える人もいれば、激しい痛みでも『大丈夫』と我慢する人もいる。有効性が確認されなかったからといって、薬剤が患者に何ももたらさなかったという意味ではなく、何かが変化したがそれを捉えることができなかったとの解釈も可能だ」という。
Ferreira氏は、「慢性疼痛患者は医師とともに、抗うつ薬の使用を慎重に検討する必要がある。われわれのレビューの結果によって、臨床医と患者の双方が痛みに対する抗うつ薬のメリットとデメリットを理解し、十分な情報に基づいて使用の判断を下せるようになることを願っている」と話している。(HealthDay News 2023年2月2日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.bmj.com/content/380/bmj-2022-072415
構成/DIME編集部