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作る、食べる、片付けるが1台で完結するエレコムの調理家電「HOT DISH」誕生秘話

2023.02.14

2022年6月、コンピュータ周辺機器メーカーであるエレコム株式会社から、画期的な調理家電「HOT DISH」が一般発売された。同製品は焼く・煮る・蒸す調理に対応したIHホットプレートで、調理をした後、そのままお皿として使うことができる優れもの。片付けの手間も省けることから、一人暮らし層を中心に絶大な支持を得ているヒット商品だ。

今回、「HOT DISH」の開発に携わったエレコム株式会社 商品開発部デザイン課 スーパーバイザー 佐伯綾子さんに、同製品の誕生秘話や開発での試行錯誤についてお話を伺った。

*本稿はインタビューから一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。

エレコム株式会社商品開発部デザイン課スーパーバイザー佐伯綾子さん

片付けの手間を省き、調理のハードルを下げる

「HOT DISH」は、「つくる・食べる・片づける」が一つで完結するIHホットプレート。洗練された美しいデザインを採用したことにより、キッチンにそのまま置いておけるのも同製品の魅力だ。「HOT DISH」の特徴について、佐伯さんは次のように話す。

「『HOT DISH』は、一言で言うと調理ができるお皿で、1人分の料理を作って・食べて・片付けるところまでが、一つで完結するIHホットプレートです。調理器がお皿を兼ねることで洗い物も減り時短にもなります。さらに、保温ができるため最後の一口まで温かく食べることができる点も特徴です。私もそうなんですが、『作ること、片づけることが面倒で料理をしたくない』という方は少なくないと思います。『HOT DISH』は片付けもとても楽なので、『作ろう』というハードルが下がるため、面倒くさがり屋さんにも重宝する製品だと思いますね」(佐伯さん)。

生活の中で自分たちが本当に欲しいものを作りたい

元々、デザイナーとしてエレコムに入社した佐伯さん。新しく発足したデザインチームで、エレコム初となる調理家電を作ることになったのは、「自分たちのアイデアをかたちにしたい」という思いがあったという。

「最初は調理家電に限らず、何か生活の中で自分たちが本当に欲しいものを作りたいということと、会社のスローガンである『LIFESTYILE INNOVATION』を体現するような製品を作りたいという話を、ラフにメンバーと話していたんです。その中で、食生活や家にある調理家電などに対して、実は不満を持っていることに気付いて、そこから調理家電にフォーカスしていきました」(佐伯さん)。

「前例がない」という大きな壁

そうして調理家電の開発をスタートさせた佐伯さんたちに、「社内で前例がない」という壁が立ち塞がる。

「開発はすんなりとはスタートしなかったですね。やはり新規事業は本当に難しいと改めて思うんですが、『こういうのがいいね』とアイデアを出したり絵を描くところまではできても、具体的に形を作って実際に製品化していく段階で、最初の大きな壁にぶつかりました。エレコムは、パソコン周辺機器やスマートフォンのアクセサリーを作っているメーカーなので、調理家電を作ったことがある人が社内にいなかったんです。『開発は誰がやるんですか?』というところが一番の壁でしたね」(佐伯さん)。

調理家電を作りたいという思いをかたちにするために、まず社内外で協力者を見つけることに佐伯さんのチームは奔走する。

「もともとエレコムは、作りたいものによって協力してもらえる工場を探すスタイルを取っていました。『家電をやりたい』といろんなところに話をしていたので、その流れで『ここだったらできるんじゃない?』と工場を紹介してもらったんです。ただ、技術的な判断が私にはわからないので、社内の品質管理部門の方に『お付き合いいただけないですか?』とお願いをして、まずはその方と工場に行き『いろいろ試作まで作りませんか?』とお話をしました」(佐伯さん)。

アイデアをかたちにしたものを見せることができれば、社内での反応も変わるはずと考えた佐伯さんらは、2年の時間を掛け最初の試作をなんとか完成させる。

「着想から最初の試作ができるまで、2年ほどかかりました。試作ができたことで製品化できる見込みがたちました。だから作らせて下さいと、その段階でやっと会社から開発担当を1人付けてもらえたんです。調理家電はやったことがない人でしたが、技術的な幅広い知見を持っていたので、そこでやっと『なんとか製品化できるかもしれない』というスタートラインについた感じですね」(佐伯さん)。

最後まで苦労したのは、メンバーや協力者との「目線合わせ」

そうして開発が進んだHOT DISHだが、開発においてはメンバーや協力者との目線合わせに苦労したと佐伯さん振り返る。

「私を含め、最初のアイデアを発案したメンバー全員がデザイナーでした。『こうありたいね』という理想像はあるんですが、それを実現できるかが全然判断できなくて。そこが一番困ったところではあります。同じデザイナーとはいえ、やはりそれぞれ少しずつ『こうしたい』という思いが違っていたんです。品質管理の方や協力していただく工場の方、社内の開発メンバー、どんどん関係者が増えていく中で、コンセプトを一から説明して『こういうものが必要なんだ』とか『こうすべきなんだ』という目線合わせが一番苦労しましたね。最初から最後まで、そこはとても苦労したポイントでした」(佐伯さん)。

佐伯さんは、「HOT DISH」の特徴の一つであるデザイン面でも、社内での苦労があったと話す。

「『発売できます』というタイミングで、品質管理の方やカスタマーサポートの方に製品判断してもらう会があったんです。私たちは、『お皿のようなホットプレート』というコンセプトだったので、見た目を限りなくお皿に近づけていたんですね。ただ、カスタマーサポートの人からすると、『これ、お皿みたいだから使う方は熱いと思わないですよね』という指摘があって。『いや、ホットプレートだから熱いとわかるんじゃないかな』と思ったのですが、『でもお皿みたいでしょ』と(笑)。『だからここにはやけど注意など、触らないための注意を促すような文言を入れてください』という指摘を受けたんです」(佐伯さん)。

白い美しいお皿のデザインを維持するために交渉を重ねた佐伯さんだが、ユーザー目線の意見を取り入れる大切さをそこで実感したという。

「せっかく美しい白いお皿に仕立てたのに、そこに『火傷注意!』と書いたらもう気分も萎えるというか(笑)。『(お皿が)危ないような感じになるので嫌なので、シールにしてもいいですか?』といろいろやり取りを重ねて、結局は『火傷注意!』をできるだけ優しいひらがなのフォントで刻印することになりました。そこは自分たちでは気付けなかった点ですし、事故が起きてからでは遅いので、そういった意見も必要だったなと思います」(佐伯さん)。

何気ないところに隠れた苦労があった

デザイン面に加え技術面でも、IHヒーター丸型にする点に隠れた苦労があったと、佐伯さんは次のように話す。

「今回の製品は、土台がIHクッキングヒーターになっています。専用のプレートを外せば、そこにIH用のお鍋なども使えるようになっているんです。私たちが作りたかったのは丸いお皿だったので、その下にできるだけ見えないように小さく小型化した丸いIHクッキングヒーターを付けました。でも、皆さんがご存知のIHクッキングヒーターは、一般的には四角い形をしていますよね。四角いと四隅に空間ができ、そこで排熱ができるのですが、丸いと空気(を逃がせるような)部分が一切なくなってしまい加熱がしにくく、内部温度が上がってしまうんです。小さく丸くする過程が意外と技術的に難しく、苦労しましたね」(佐伯さん)。

クラウドファンディングで目標の1500%を達成!

さまざまな苦労を経て、かたちになった「HOT DISH」。佐伯さんらはまず、クラウドファウンディングで認知を広げることを考えた。

「エレコムが調理家電を作っていることを誰も知らない状態なので、まずは知ってもらわないといけないと考えました。クラウドファンディングは、新しいものに対して感度の高い人たちが集まっているため、まずはそこで知ってもらうのがいいのではないかと考えたんです。2022年の1月にクラウドファンディングをスタートし、結果的には目標の1500%を達成しました。想定通りにお一人暮らしの方もいれば、お子さんが大きくなられて独立されたご夫婦など、『二人だけだからそんなにたくさん作らなくてもいい』という理由でご購入される方もいらっしゃって。そういう使い方も確かにあるなと発見がありました」(佐伯さん)。

クラウドファンディングでの成功を受け、「HOT DISH」は2022年6月に一般発売される。そこに至るまで佐伯さんは、販売先へ商品とコンセプトの説明を自ら説明してまわったという。

「家電量販店さんとは今までやりとりがありましたが、調理家電となるとフロアも違えば、バイヤーも違います。私もほとんどの商談に同行させていただいて、商品の説明をしました。『エレコムさん、今度はここですか!』とびっくりしながらも、どこか楽しんでいただけているような印象でしたね。やはりコンセプトがはっきりしている商品だからだと思いますが、製品自体に興味を持って見ていただけました」(佐伯さん)。

今回、HOT DISHの開発を経て、一から製品を作る難しさと楽しさを感じたと佐伯さんは振り返る。

「今回、全く新しい製品をゼロから作っていく難しさというのを、骨身にしみて感じましたし、それと同時にこのような製品を世に出すことの面白さや醍醐味も感じています。世に出せたという達成感はあるのですが、それと同時にたくさん課題も見えてきました。次はもっとこうしたいと考えているところです。あとは、やはり1人の力では何もできないということ。『HOT DISH』は開発や品質管理、調達、工場、営業、プロモーションなど、本当にたくさんの部門や立場の方がたくさん力を尽くしてくれてやっと実現できた製品です。本当にたくさんの人が協力していかないとできないと実感しましたし、それを通して自分自身もたくさん成長できたと感じています」(佐伯さん)。

今後も暮らしがより豊かになるような商品を

最後に、佐伯さんは今後の展望について次のように語った。

「『HOT DISH』は『LiFERE(リフィーレ)』というブランドで展開しており、このブランドを今後も成長させていきたいと思っています。今は『HOT DISH』だけですが、2023年春頃には新しい仲間が出てくる予定です。LiFEREのブランドコンセプトは『あなたらしい暮らしをつくる おいしい秘訣』。『これを使ってこういう生活をしてください』というよりは、『これを使ってあなたらしい暮らしを、より豊かに充実させることができたらいいな』という願いを込めています。目下の目標としては、『LiFERE』というブランドを、ちゃんと皆さんの心の中にあるブランドとして認知をしていただいて、育てていきたいですね」(佐伯さん)。

HOT DISH公式サイト

取材・文/久我裕紀

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