■連載/ヒット商品開発秘話
RTD(Ready To Drink:チューハイやサワーなど開栓したらすぐ飲める低アルコール飲料)で一番人気のフレーバーといえばレモン。その次に人気なのがグレープフルーツである。
グレープフルーツサワーはこれまで、レモンサワーのように専門ブランドが誕生しなかったが、サッポロビールは2022年5月に、グレープフルーツサワーの専門ブランド『サッポロ 三ツ星グレープフルーツサワー』(以下、三ツ星グレフルサワー)を発売。以来、好調に売れており、これまでの出荷数量はシリーズ累計87万9000箱(1箱250ml×24本)を超える。
『三ツ星グレフルサワー』はグレープフルーツ本来の美味しさを追求。魅力を徹底的に引き出す独自の「三ツ星レシピ」を開発した。爽やかな甘酸っぱさと特有のほのかな苦味の贅沢な味わいが特徴の〈贅沢ホワイト〉と芳醇で酸味控えめの上品な甘さが特徴の〈芳醇ピンク〉の2種をラインアップ。それぞれ350ml缶と500ml缶を用意している。
グレープフルーツをほおばったような味わいを目指す
企画されたのは発売の1年半ほど前。マーケティング本部ビール&RTD事業部RTDグループの黒柳真莉子さんは企画の背景についてこう話す。
「RTD市場ではこれまで、レモンサワーに強くフォーカスしてきた傾向があったと思われます。グレープフルーツサワーはレモンサワーに次ぐ人気があっても注目されず、これまで専門ブランドが存在しませんでした」
このような現状に着目した同社は、グレープフルーツサワー専門のブランドの立ち上げを構想する。
フルーツフレーバーのサワー類は果汁感を訴求したものが主流。『三ツ星グレフルサワー』も最初は、汎用的な果汁原料を使い開発に取り組んだが、原料を見直すことなった。理想の味ができなかったためである。
「グレープフルーツジュースのような味わいではなく、グレープフルーツをそのまま食べたような味わいを目指したのですが、汎用的な果汁だとどうしても、理想の味ができませんでした」
このように振り返る黒柳さん。専門ブランドならではのこだわりや美味しさを実現できそうな素材を探しては試作を繰り返した末に、ろ過していないにごり果汁(=混濁果汁)と、果皮を含んだグレープフルーツペーストを使うことにした。グレープフルーツペーストは、レモンフレーバー商品で使用しているレモンペーストからヒントを得たもの。果実を食べたときに感じられる複雑味を出す。
果汁量は3%と多くない。それでも果実感が出せたのは、原材料もさることながら配合の工夫もあった。黒柳さんは次のように話す。
「果実感のある味わいといっても、にごり果汁やグレープフルーツペーストを多く使えばいいというわけではありません。多く使うとえぐ味や雑味が感じられるようになります。満足感が得られるジューシーさとさわやかな後味のバランスが取れるよう、原材料の配合を工夫しました」
サッポロビール
マーケティング本部ビール&RTD事業部
RTDグループ
黒柳真莉子さん
缶の裏面に載せたメッセージ
味づくり以外では、パッケージデザインにも時間を要した。専門ブランドであることをどのようにして伝えるかで試行錯誤した。
最終的に採用したのは、半分にカットしたグレープフルーツをちょっとつぶし果汁が下に落ちるシズル表現を生かし看板仕立てにしたもの。専門ブランドとしてこだわってつくったことや商品に込めた想いなどを知ってもらうために、裏面に「三ツ星レシピ」でつくったことを伝えるメッセージを載せた。
缶の裏に載せた「三ツ星レシピ」でつくったことを伝えるメッセージ
また〈贅沢ホワイト〉に関しては、缶色をブルーとグリーンで迷ったという。グレープフルーツサワーからイメージされる色はグリーンだが、棚に並べたときのインパクトがあり目立つことと、グレープフルーツが映えるといった理由からブルーを採用した。しかし、社内では当初、意見が割れたそうだ。
グレ沢さんを軸に展開される販促
グレープフルーツはレモンに次ぐ人気があるので、現状の売れ行きについては想定通りという見方をしている。コロナ禍で家飲み需要が高まったことも追い風になった。「専門」と謳ったことから、こだわってつくったものというイメージを持ってもらいやすく、家では普段よりいいものやこだわってつくったものを飲みたいと思っている人たちの琴線に触れた。
販促面では、グレ沢さんというオリジナルキャラクターを立てて展開することにした。
「グレ沢さんはコミュニケーション上のキーです。グレープフルーツサワーが大好きでこだわって『三ツ星グレフルサワー』をつくったという設定にしています。テレビCMをはじめウェブやSNS、店頭と、あらゆる顧客接点でグレ沢さんをフックにしたコミュニケーションを展開しています」
グレ沢さんを軸にした販促についてこのように明かす黒柳さん。コミュニケーション施策の検討を開始した早期の段階から構想された。専門ブランドならではのこだわりを伝えるときに、架空の人物を使って伝えた方が伝わりやすというのが主な理由である。
グレ沢さんはプロフィールが細かく設定されている。モデルがいるのでは?と思えるほど細かいが、黒柳さんによればモデルはいないとのこと。どんな人が『三ツ星グレフルサワー』をつくりそうか?という観点からグレ沢さんのプロフィールを設定した。
グレ沢さん。プロフィールは以下の通り
1981年2月26日生まれ。グレフルサワーを試作し続け、3年の年月をかけて、ようやく三ツ星レシピにたどり着く。口数は多くないが、情熱はジューシー。こだわりを語りだすと熱い想いがじゅわっとほとばしる。(『三ツ星グレフルサワー』ブランドサイトより)
当初ターゲットより若い世代が購入
売れ行きは両者拮抗しているが、トライアルで買われるのは〈芳醇ピンク〉、リピートされるのは〈贅沢ホワイト〉という傾向が見られるという。購入者は当初、30〜40歳代をターゲットにしていたが、実際多く買っているのは20〜30歳代。〈芳醇ピンク〉に関してはさらに若い20歳代の購入が多くなっている。
2022年11月に『サッポロ 三ツ星グレフルサワー 香るピール』を数量限定で発売。果実感が感じられるジューシーな味わいはそのままに、グレープフルーツの爽やかな香りと苦味を引き立たせた。
グレープフルーツでしかつくれない味わいを意識して開発したが、着目したのがグレープフルーツの苦味と香り。ピール(果皮)由来のビターさを強調することにした。香りがダイレクトに伝わりやすいよう、飲み口の広いボトル缶を採用している。
また、2023年2月製造分からリニューアルしたパッケージが採用される。新パッケージは半分に切ったグレープフルーツをスプーンですくって食べるようなシズル表現に変更。果実感ある味わいであることをより強く訴求することにした。
取材からわかった『三ツ星グレフルサワー』のヒット要因3
1.専門ブランドならではの強いこだわり
人気が高いもののレモンサワーのような専門ブランドがなかった点に着目。専門ブランドを立ち上げ、中身からパッケージデザインに至るまで、こだわってつくり抜いた点が伝わり評価された。
2.果実感がある味わい
フルーツフレーバーのサワーは果汁感を訴求したものが多いが、フルーツを丸ごと食べているかのような果実感のある中身を設計。この味わいが支持された。
3.選択肢の提示
店頭では多くのレモンサワーが販売されているが、ありすぎて何を選んでいいかわからなくなることがある。そのような人にとっては別のフレーバーが有力な選択肢になり得るが、レモンサワーの次に人気のあるグレープフルーツサワーの専門ブランドなので、選んでもらいやすかった。
グレープフルーツサワー専門ブランドの認知はまだ十分ではないことから、同社では今後も大きな成長が見込めると見ている。味に関しては今までに例がないほどネガティブな声が少ないとのこと。高く評価されている味わいはそのままにパッケージやコミュニケーションを進化させつつ、限定品を適宜投入するなどして、グレープフルーツサワー専門ブランドとしての地位を盤石なものにしたい考えだ。
文/大沢裕司