ペットは、飼い主にとっての癒しや明日を頑張る活力の源となり、時として生きる希望を与えることさえある。もちろん高齢者にとっても、それは同じことだ。
では、ペットを飼育する高齢者には、具体的にどんな好影響が見られるのだろうか?
東京都健康長寿医療センターはこのほど、社会参加と地域保健研究チームの「ペット飼育と社会保障費との関連性」に関する研究論文を、米国科学誌「PLOSONE(プロスワン)」に1月27日に発表したことを報告した。ペット飼育と社会保障費抑制の関連性を明らかにした発表は我が国では初めてとなるという。
研究目的
社会参加と地域保健研究チームの先行研究により、ペットを飼育する高齢者ではフレイルや自立喪失(※1)が発生するリスク(※2)が大幅に低いことを報告しているが、ペット飼育者の中にも医療や介護を必要とする高齢者がいる。
本研究では、既往歴や要介護認定者数には差のない(1)ペット飼育者と(2)ペット非飼育者との間で、2017年6月の調査時から直近の17カ月間(2016年1月まで)の月額の医療費(※3)及び介護保険サービス利用費の差異を調べた。
研究の意義
本研究から、ペット飼育者と非飼育者との間で医療費に差は生じていなかった一方で、ペット非飼育者に比べて飼育者では介護費が約半額に抑制されていることが示された。
これは、ペット飼育者では、利用する介護サービスの利用頻度が低いことや、軽度の介護サービスの利用に繋がっていることが考えられる。高齢化の進展に伴う介護費の増大に対して、犬や猫の飼育は介護予防効果のみならず、介護費の抑制にも寄与することが示唆された。
ペットを飼育することによる役割、責任感、活発で規則正しい生活の維持など、介護費に反映する可能性のある日常生活の自立・自律に関する多面的な要因が考えられる。
研究成果の概要
本研究では、2017年に埼玉県比企郡鳩山町での疫学調査に応答した460名の調査データを使用した。研究対象者の平均年齢は77.7歳、男性の割合は61.6%だった。
有病率は、高血圧が51.1%、脂質異常症が37.4%、骨関節疾患が27.4%、心疾患が22.2%、糖尿病19.3%、脳血管疾患10.7%であり、要介護認定割合は6.3%であり、これらの該当割合は(1)ペット飼育者と(2)ペット非飼育者との間に有意な差はみられなかった。
ペット飼育割合は20.9%で、このうち24.0%が犬及び猫の飼育、42.7%が犬のみ飼育、24.0%が猫のみ飼育だった。
調査時の月額医療費は、(1)ペット飼育者が48,054円、(2)ペット非飼育者が42,260円であり、調査期間における月額医療費の比は最小0.9、最大1.2と有意な差はみられなかった。一方、(1)ペット飼育者と(2)ペット非飼育者の調査時の月額介護保険サービス利用費は676円と1,420円であり、調査期間中における月額介護費の比は最小1.2、最大2.3と有意な差がみられた。
<掲載論文>
掲載誌:米国科学誌「PLOS ONE(プロス ワン)」
論文掲載URL:https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0277049
原題:「Pet Ownership-Related Differences in Medical and Long-Term Care Costs among Community-
Dwelling Older Japanese」
和訳:地域在住高齢者におけるペット飼育者・非飼育者の医療費及び介護費の差異について
※1 自立喪失……要介護認定及び総死亡
※2 リスク……一定の期間で事象が発生する確率
※3 医療費……国民健康保険及び後期高齢医療保険のレセプトデータから医療費の総額を算出
出典元:東京都健康長寿医療センター
構成/こじへい
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