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全体を見渡すキャプテン、盛り上げるベテラン、受け止める中堅、サッカー日本代表にみる「若手の力を引き出す組織」

2023.02.12

幅広い年齢層で強固な組織力を発揮したカタールW杯の日本代表(筆者撮影)

「ここまでの結束を感じたのは初めて」と前田大然もしみじみ

 ドイツ・スペインという優勝経験国を撃破し、日本中を熱狂させた2022年カタールワールドカップ(W杯)から2カ月が経過し、日本代表も新たなステージ突入しつつある。ご存じの通り、森保一監督の続投が決まり、元日本代表の名波浩・前田遼一両コーチが新たに加入。精力的に視察を行うなど、3月24・28日の新体制初陣にはよりフレッシュな面々が加わりそうだ。

 その新チームでも日本代表の強みを発揮しなければならない。それは、ズバリ「強固な組織力」と「一体感」だ。「ここまでの結束力を感じたのはカタールW杯が生まれて初めて」とクロアチア戦で先制弾を叩き出した前田大然(セルティック)もしみじみ語っており、それは最大の成功要因だと言っても過言ではないだろう。

 改めて日本代表26人を分析すると、30代が8人、25~29歳が11人、25歳以下が7人という年齢構成。世界を見れば、イングランド代表のジュード・ベリンガム(ドルトムント)やドイツ代表のジャマル・ムシアラ(バイエルン)、スペイン代表のガビ(バルセロナ)など10代のスターもいたが、日本は最年長・39歳の川島永嗣(ストラスブール)から最年少・21歳の久保建英(レアル・ソシエダ)までのバランスのいい編成だったと言えるのではないか。

30代8人・20代後半11人・25歳以下・7人のバランスのいい構成

 このうち19人がW杯初出場。注目と独特の緊張感が漂う大舞台だけに、やはり普段通りの力を出すのは難しい。実際、クロアチア戦直前から久保がインフルエンザにかかって高熱を出し、大一番欠場を余儀なくされている。それだけの異常な重圧のかかる中、メンタル的に平静を保つのは容易ではない。

 こうした中、重要な役割を果たしたのが、W杯を複数回経験しているベテラン勢だ。

 その筆頭が、フィールドプレーヤー初の4度目出場を果たした長友佑都(FC東京)。ドイツ戦で歴史的勝利を飾った後、彼が発した「ブラボー」は流行語にもなったが、そうやって場を盛り上げることに徹した。

 年齢は川島に続く上から2番目だが、出発時から頭を帽子で隠し、練習初日にいきなり金髪を披露。我々報道陣に「W杯だよ、盛り上げてよ」とストレートにアピール。ボール回しの練習では相馬勇紀(カーザ・ピア)や町野修斗(湘南)ら若手に「お前らちゃんとやれ」「もっと声出せよ」などと冗談交じりに要求しながら、場を明るくした。

 長友塾に弟子入りした相馬は「プールでのコンディション作りだったり、練習前にランニングをしたりとか、細かいフィジカル的なところを一緒にやったりはしてます。佑都さんはいろんなことをやってるので盗めるところは沢山ある」と意識の高さに驚かされた様子だった。

 しかも長友はドイツ戦前日には髪の色を赤にチェンジ。「帽子・金髪・赤髪」の三段階で変貌を遂げたのだ。以前から長友に可愛がられていた堂安律(PSV)も同じタイミングで髪を整えたが「一緒にしないでください」と笑っていた。そうやって後輩が気軽に声をかけられる環境作りをしたのは非常に大きかったと言っていい。

日本代表の集合写真。みんな笑顔だ(筆者撮影)

若手の力を引き出した長友・吉田・川島らベテラン勢

 キャプテン・吉田麻也(シャルケ)の身を粉にした働きも見逃せない。「この4年間は代表に全てを捧げてきた」と言い切る34歳のDFは事あるごとにチーム全体を掌握し、森保監督を意思疎通を図り、円滑に戦えるように仕向けてきた。

「大会直前の9月の欧州遠征の時はほとんど自室にいなくて、ずっと監督と戦い方を話し合っていました」とも語っており、チームを勝たせるために目に見えない努力を続けていたのである。

 第2戦・コスタリカ戦の際には自らのクリアが中途半端になり、まさかの決勝弾を決められるという大きなミスを犯したが、その時も決してブレなかった。これまで長く欧州でプレーしてきた彼は1つ1つのミスに対して一喜一憂しないという習慣が身についていたという。その堂々とした立ち振る舞いは若い選手たちを安堵させたに違いない。

 そして最年長の川島も素晴らしい仕事をしてみせた。自身4度目のW杯はベンチから試合を見ることになったが、「自分も他のメンバーと一緒に戦っていた」とキッパリ言う。その闘争心が如実に出たのが、スペイン戦前のミーティングでの発言だ。

「このチームは本当に素晴らしい戦いをしている。だからこそ、ここでW杯を終わらせてはいけない」という涙ながらの言葉は若い世代の選手の心を大いに揺さぶった。「あの永嗣さんの言葉があったから、スペイン戦に勝てたと思う」と相馬も心から感謝していた。

スペイン戦の「三笘の1ミリ」で一世を風靡した三笘薫(筆者撮影)

自主性を尊重する森保監督のスタンスも奏功

 そんなベテラン勢の思いを遠藤航(シュツットガルト)や伊東純也(スタッド・ランス)ら20代後半の面々がしっかりと受け止め、ピッチ内外で自然体で振舞いながら、チームに貢献したことも、25歳以下の若手の安心感につながった。

 カタールの日本代表は堂安、三笘薫(ブライトン)、田中碧(デュッセルドルフ)、前田など東京五輪世代の面々が次々と結果を出したが、「若手を伸び伸びやらせよう」という年長者たちの配慮が奏功した結果だと見ていい。「若い選手たちの成長率は本当にすごかった」と川島も舌を巻いていたほどだ。

 年長者たちが出しゃばりすぎることなく、要所要所でリーダーシップを発揮し、中堅・若手がそれに呼応して、自分たちの仕事を全うする関係性が出来上がっていたことはやはり大きかった。絶妙のチームバランスに加え、森保監督の自主性を尊重するスタンスも大いにプラスに働いた。

「自分1人で強いチームを作れるわけではない」と口癖のように言う指揮官は、つねに選手やコーチ陣の意見に耳を傾け、それを総合判断して最終決断を下していく「調整型の監督」。過去の代表監督を見ると、2002年日韓W杯のフィリップ・トルシエ監督、2018年ロシアW杯直前に解任されたヴァイッド・ハリルホジッチ監督のように、自身の主張を押し付けるタイプが目立ったが、今は選手の多くが欧州クラブでプレー。国際経験値も格段に上がっている。だからこそ、選手個々の考えを最大限尊重する森保監督の方がうまくハマったのだろう。

カタールでのメディア対応時は笑顔が多かった森保監督(筆者撮影)

 選手・スタッフ含めて30~40人規模になる大所帯の日本代表を強固な組織にしていくためには、それぞれが課せられた役割を確実に遂行することが重要だ。個々の特徴を見ながらマネージメントできる指揮官、選手の側から全体を見渡せるキャプテン、自分が道化になっても場を盛り上げられるベテラン、年長者のパッションを受け止めてピッチで表現する中堅、そして周りに気兼ねすることなく自分らしさをいかんなく発揮する若手と、全構成員が共鳴したからこそ、ある程度の結果を残せたのである。

 ビッグトーナメントで成功した組織は一般社会においても応用できる。誰かが突出しすぎることなく、全員が意見を言いながら、1つの方向を見てまとまるというのはそう簡単なことではないが、まずは各々が自身の役割を客観視することから始めるべきではないか。そのうえで、アクションを起こし、意思統一を図っていくことが成功への第一歩となる。そうやってスムーズに回ったカタールW杯の日本代表は1つの参考例になるはずだ。

取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。

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