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W杯を盛り上げたABEMAが示したサッカー中継の新たな可能性

2023.02.10

 2022年カタールワールドカップ(W杯)の日本代表のドイツ・スペイン撃破は2カ月が経過した今も記憶に新しい。

 歴史的勝利の原動力となったドリブラー・三笘薫(ブライトン)がイングランド・プレミアリーグでW杯後3ゴールを挙げ、1月29日のFAカップでリバプール相手に決勝弾を叩き出す大活躍を見せ、世界に衝撃を与えていることも、サッカー人気を後押ししていると言っていい。

 インターネットテレビ局「ABEMA」は、W杯全64試合を無料生中継したのに続き、ブライトンを中心にプレミアリーグを一部無料生中継。さらには2月11日からドイツ・ブンデスリーガの今季残りゲームを毎節3試合生中継することが決定。サッカー中継を多数担う存在になりつつあるのだ。

 そんなABEMAだが、W杯期間中は元日本代表の本田圭佑氏をゼネラルマネージャー(GM)に据え、日本戦全試合と決勝の解説として抜擢したところ大ヒット。実況の寺川俊平アナや現役選手・槙野智章(2022年12月に引退発表)との軽妙な掛け合いは見る者を大いに魅了した。

 そればかりでなく今回の代表メンバーと共闘経験のある現役プレーヤーが毎回のように出演し、「話の内容に説得力があった」と言うファンも少なくなかった。

カタールW杯で解説者として一世を風靡した本田圭佑GM(写真提供=サイバーエージェント)

豪華代表OB陣をゲストに招き、幅広い世代にインパクトを

 これだけ豪華な陣容を揃えられたのも、AMEBAを運営するサイバーエージェントとテレビ朝日の底力によるところが大だろう。

「我々としては、W杯を通してAMEMAのサービスを知っていただきたいと思っていました。そのためには何をすべきかを真剣に模索しました。しかしながら、社内にはノウハウがなかったので、共にABEMAを運営しているテレビ朝日の力を借りて、しっかりとした実況・解説がある番組作りを進めていきました。

 制作に当たって、視聴者を①サッカー大好きのコア層、②常時は見ていないがW杯を見る中間層、③世の中のトレンドに反応するライト層…の3つに分類。全ての層に届くような解説者を考えました。

 本田GMの就任は藤田晋社長の直々の打診で了承を得た形ですが、それ以外は我々スタッフで人選を進めました。98年フランス~2018年ロシアW杯に至るまで、幅広いファンの方に楽しんでいただけるように、さまざま世代の元選手や元代表の方にお声がけさせていただきました」と編成統括本部・スポーツエンタメ局の塚本泰隆局長は自信を見せる。

本田GMのみならず、旬なゲストを次々と呼べたのは画期的だった(写真提供=サイバーエージェント)

動画配信の視聴者は若い世代だけではない!

 ネットテレビ局と言うと、「視聴者の30代以下の若い世代中心」というイメージが強いが、W杯に関しては必ずしもそうではなかったようだ。

 今回の視聴者は、10代が12%、20~34歳のM1層が33%、35~44歳が24%、45歳以上が31%。年齢層の高い人々も積極的に見ていたという。それも時間・場所・目的を問わないネット放送のメリットを感じていたからだろう。塚本氏は「我々の想定は間違っていなかった。幅広い世代に届くような解説者の選定も正解だったと思います」と胸を張る。

ABEMAの中継で採用されたマルチアングル機能(写真提供=サイバーエージェント)

 こうした視聴者の分析を踏まえて、魅力ある中継を構築していったわけだが、ABEMAが今回のW杯の時に提供した新機能の1つがマルチアングル映像だ。

 試合中のシュート数やボール支配率などの試合データ配信の機能もありながら、マルチアングル映像では決勝のアルゼンチン対フランス戦であれば「アルゼンチンカメラ」「メッシカメラ」といったクローズアップ映像を提供。フランス側も同様の試みを行った。それをファイナルのような重要マッチのみならず、全64試合で提供したのだから、コア層には溜まらないはず。

「自分は大好きなクリロナ(クリスティアーノ・ロナウド=アル・ナスル)だけを見たい」といったライト層の女子のニーズにも応えられるというのは、やはりネット放送の利点。そこは新たな発見と言えるだろう。

マルチアングル機能や見逃し配信を強化。スポーツの多彩な見方を提供

 もう1つ、ABEMA側が強化したのが、リアルタイムで見られない視聴者へのハイライト+オンデマンド・サービスだ。

「11月23日の日本対ドイツ戦で歴史的勝利を見て、『もっと他の国も見てみたい』と思うファンの方が多かったと思います。その時点ではグループステージの他グループの戦いがすでに始まっていたので、追いつくためには情報が必要。そういう人のためにハイライト動画を最速でアップするように努めました。さらにスーパーゴール動画、見逃し配信も充実させ、より高い満足感を味わってもらえるように仕向けました。

 結果的にリアルタイム視聴とオンデマンド視聴者の割合は56%対44%とほぼ五分五分に近かった。両方を視野に入れたコンテンツ作りもある程度、奏功したのではないかと考えています」(塚本局長)

 こうしたテクニカル面の長所と寺川アナの的確な実況、本田氏の軽快なトーク、他ゲストの飾らない喋りが受けて、ABEMAのW杯中継は2016年4月の開局以来の高い視聴者数を記録。トップは日本がベスト8進出を逃した12月5日のクロアチア戦、2位は11月27日の日曜・ゴールデンタイムの試合だったコスタリカ戦、3位は日本のグループ1位通過が決まった12月1日のスペイン戦だったという。

「W杯期間中のABEMAのアプリダウンロード回数が700万増えており、試合が行われた23日間のうち21日間ツイッタートレンド入りを記録するなど、全てにおいて大変な反響をいただきました。それだけW杯の影響力が大きかったということです。

 ABEMA独自のマルチアングル映像やハイライト・オンデマンド・サービスの存在を知っていただけたことも大きかった。我々が標榜する『新しい未来のテレビ』の一端を示すことができたのではないかと思います」(塚本局長)

追っかけ再生もかなり便利でニーズが高かった(写真提供=サイバーエージェント)

 このように爆発的な視聴者増加があったが、サイバーエージェンドは2023年9月期第1四半期決算で営業損益がマイナス93億円という厳しい数字を突きつけられた。まだスポーツの無料放送がマネタイズしきれていないという実情が鮮明になったといことだ。

 とはいえ、同社では「ゲームと広告が好調な間に大がかりな投資をして、メディア事業を中長期的な柱に育てる」という戦略を取っているため、ABEMAの大胆なチャレンジを前向きに捉えているという。

 社内でも「W杯の投資をすぐに回収しろ」といった指示は一切、出ておらず、全スタッフが『新しい未来のテレビ』を具現化しようと熱気に満ち溢れていたという。それがW杯の機運醸成、その後のプレミアリーグ・ブンデスリーガの一部無料中継実施につながっている。三笘や堂安律(フライブルク)らW杯のスターのその後を追いたいファンにとって、この展開は有難いと言っていい。

試合データをチェックしながら観戦できるのも便利(写真提供=サイバーエージェント)

マネタイズには課題があるものの、ABEMAの斬新な取り組みは注目

 ただ、プレミア・ブンデスに関しては、見逃し配信などオンデマンド・サービスを使うためには有料会員にならなければいけない。そこは完全無料だったW杯との違いだ。少なくとも今シーズンは無料で三笘・堂安らの大ライブの大半を見られるが、果たして今後はどうなっていくのか。Jリーグの独占放映権を持つDAZNが当初割安だった月会費を大幅値上げし続けている現実もあるだけに、ネットテレビ局の先々のビジネスモデルが気になるところだ。

 いずれにしても、ABEMAによってスポーツの新たな楽しみ方が提示されたのは紛れもない事実。テレビからネットへと移行する流れは加速していくだろう。

取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。

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