個人の未上場株への投資を後押しするエンジェル税制。2022年12月に公表された令和5年度税制改正大綱によればさらに、投資しやすくなりそうだ。
エンジェル税制とは?
未上場株への投資は、上場すれば10倍100倍など莫大な利益を得られる可能性があるものだ。また、創業間もない企業を支援でき、その企業の成長を見守ることができるというのも魅力だ。
一方で、上場できる未上場株はほんの一部にすぎず、基本的には相対取引または発行会社の買取りでないと売却できないことから簡単には現金化しづらい。また、中小会社であるゆえに財務基盤も安定していないため倒産により価値がゼロになってしまう可能性も高い。また、上場株のような厳しい開示規制はないため、財務内容などを細めに見ることができないこともある。
個人が中小企業へ投資するのは、魅力的な部分もあるが、リスクが大きく及び腰になってしまう可能性がある。実際に、日本のエンジェル投資額はアメリカの投資額の0.2%しかない。国としては、新たな事業、イノベーションを起こしてもらうために、個人がスタートアップ企業へ投資はするのを促進させたい。
そこで、エンジェル税制といって企業間もない中小企業へ投資した個人に対して税制優遇する税制が設けられている。
■エンジェル税制(特定中小会社等の株式に係る特定)
①特定中小会社(起業10年以内等優遇措置B)が発行した株式を直接購入した場合、その購入資金を未上場株式と上場株式の譲渡所得(売却益)から控除できる。
②損失が出た場合に、翌年以後3年間繰り越しできる。
③特定新規中小会社(起業5年以内等優遇措置A)が発行した株式を直接購入した場合、その購入資金を800万円限度として寄付金控除できる。
これまでのエンジェル税制の問題点
エンジェル税制は、企業間もない中小会社へ投資するときには節税できるものの、結局は税の繰り延べに過ぎないことが問題点だった。
投資時に購入資金を未上場株や上場株の売却益から控除できるが、その控除した分は購入資金から控除される。
例えば、特定中小会社に100万円投資し、その年に株式の売却益が100万円あったときには確定申告してその100万円の売却益をゼロにできる。しかしながら、その分特定中小会社の取得価額からも控除されるためその取得価額はゼロになる。
もし、その特定中小会社の株式を当初の取得価額100万円と同じ価格で売却したとき、取得時と同じ価額で売却したとしても、実質利益は出ていなくても税制上の取得価額はエンジェル税制でゼロになっているため100万円の利益がでたことになってしまう。そのため、取得時と同じ価格で売ったとしても、利益が100万円として20.315万円の税金を支払うことになる。
これが税の繰り延べである。投資した年に節税となっても、特定中小会社の株式を処分するときに税金がかかることになるということである。
逆に、この例のように特定中小会社を100万円投資して、その年分の株式売却益をゼロにして申告して、その後特定中小会社の株式が倒産した場合取得価額はゼロになっているため、税制上損失が生じていないことになる。
どこが変わった?
昨年12月に公表された令和5年度税制改正大綱によれば、特定株式の取得価額を未上場株式と上場株式の売却益から控除できるというものだ。
特定株式とは、設立から1年未満の中小企業等の要件を満たすものをいう。
上記(特定中小会社株式と特定新規中小会社株式)と大きく異なるのは、20億円を超えなければ、売却益から控除した分を特定株式の取得価額から控除しなくてよいことだ。その結果、未上場株式や上場株式の売却益は、その特定株式の取得分非課税になる。もちろん利益が出てなければ恩恵を受けられないが、上記が税の繰り延べだったのに比べて、改正で特定株式の取得分は非課税になる。
つまり、未上場株式や上場株式で出た利益を特定株式の取得に充てれば、その売却益が非課税となる。未上場株への投資はリスクが大きいが、利益からの投資であれば投資しやすいともいえる。
改正前の特定中小株式と特定新規株式のエンジェル税制も引き続き受けることができ、今回の改正エンジェル税制と選択適用できる。
また、企業する側としても、起業したときにエンジェル税制の特定株式に該当しやすくなる改正が行われた。
起業しても、必ずエンジェル税制を受けられる中小企業になれるわけではなく、一定要件を満たさなければならない。エンジェル税制を受けられる株式となるためには、要件を満たして、申請手続きをする必要がある。
今回の改正で、エンジェル税制の適用を受けられる申請手続きの簡素化が図られた。これにより、企業間もないスタートアップが申請しやすくなり、個人投資家の方も投資の選択肢が増えるかもしれない。
未上場株は、上場していないことから購入するための情報が少ないが、インターネット上で未上場株を購入できる株式型クラウドファンディングなどで、事業内容などを起業家自身が動画説明していたり、写真付きでの商品が掲示されていたりと投資に役立つ情報がわかりやすく見ることができます。また、サイトではエンジェル対象の対象かどうかなどわかりやすく提示されているので、個人投資が未上場株を投資しやすい環境が整いつつある。
(参考)
令和4年12月経済産業省 税制改正について
zeiseikaisei.pdf (meti.go.jp)
令和5年度税制改正の大綱
20221223taikou.pdf (mof.go.jp)
文/大堀貴子