100年以上の歴史を誇る奈良漬店の土蔵が、広くギャラリー&イベントスペースとして貸し出されている。PVやYouTube、インスタ用の撮影から飲食を伴うパーティ、各種イベントまで幅広い用途で使うことができる。
創業150年超! 取手名物といえば奈良漬
老舗奈良漬店とアート。まったく接点がないように思われる組合せだが、背景を知ると、なるほどと思わせるものがあった。
茨城県取手市の新六本店は江戸時代に造り酒屋から利根川の廻船業に転身。当時から利根川流域で採れる野菜を自家製の粕漬にし、近隣に配っていたところ評判となり、明治元年(1868年)、新六の屋号で本格的な奈良漬製造販売を始めている。
関西の奈良漬と異なり、越瓜(しろうり)を浮かし漬することによる、シャリッとした食感と優しい味わいが特長で、瞬く間に取手名産として名を挙げた。JR常磐線取手駅では明治後期から戦前まで、脚絆巻きに赤帽子の新六専属販売員がホームから列車の乗車客に「取手名産新六の奈良漬はいかがー」と、立売りをしていた時期もあるほどだ。
老舗とアートの融合
社長の田中秀氏は現在4代目。取手に根を張る老舗の長として、以前より地元の活性化に関心を寄せていたところ、平成3年(1991年)、市内に東京藝術大学の新たなキャンパスが開かれた。これを機に、取手をアートのまちにしようと、平成11年(1999年)には市民、取手市、東京藝術大学の三者が共同で芸術による文化都市を目指す、取手アートプロジェクトが始まり、芸術活動を支援する機運が高まった。
そこにアイディアを出したのが、美術大学卒のグラフィックデザイナーであり、新六本店の広報宣伝も担う娘の福田茂都子氏だった。
「ウチには繁忙期しか使わない歴史的な蔵がある。ここを若手アーティストの活動支援も兼ね、ギャラリーやレンタルスペースとして使えないだろうか?」
現役の蔵の風情をできるだけ生かす
とはいえ、今も現役で使っている蔵なので、大幅に手を入れることは避けたい。できるだけそのままの形を保ち、歴史ある土蔵の良さを引き出したい。思案の末、ピクチャーレールや照明は付けたものの、壁や床はそのまま生かすことにした。
そして令和元年(2019年)5月、自社イベントを開催したところ、音の反響が良く、防音効果に優れ、100年を超えている壁や柱ならではの落ち着いた空間になることが実感できた。
レンタルスペースとしての実用性も、以下に紹介する画像からおわかりいただけるはず。
ところがその後すぐに新型コロナが広まった。感染縮小の合間にバントのPVやテレビドラマの撮影などを受け入れ、手ごたえは掴んでいたものの、本格的な始動を検討し始めたのは、つい最近になってから。