120Wの急速充電には懸念点も?
房野氏:ソニーのXperiaシリーズなど、発熱で苦労しているメーカーは多くありますよね。
法林氏:Xperiaは本体が薄いモデルが多いから、発熱の処理が難しいよね。
石川氏:一時期はサムスンも充電速度についてアピールしていましたが、本体が爆発する事故があった。そこからサムスンは充電周りに関してだいぶ保守的になっています。
石野氏:かなり慎重ですよね。
石川氏:そう。一方ソニーは、「いたわり充電」という、朝起きる時間に合わせて、バッテリー残量が100%になるように制御する、バッテリーに対して優しい機能を搭載しながら、バッテリー容量の大型化に進んだ。
充電速度をアピールするのはありだし、メーカーは安全とはいっているけど、バッテリーに対する負荷が大きいのは間違いありません。ソフトバンクは24か月以内であれば無償でバッテリーの交換もやるといっているけど、不安はありますよね。
法林氏:高負荷でフル充電するとバッテリーに良くないので、各メーカーは「いたわり充電」のように、100%になる時間を調整する機能を搭載してきている。ただ、そもそも90%くらいまで充電できればOKという人もいるので、神ジューデンが今の生活スタイルに合っているのかは考えないといけない。日本は元々、電力事情がいいわけだし、かつては少なかったけど、今やカフェや公共交通機関など、いろんなところで充電できるようになっている。
石野氏:ただ、最近はレンタルバッテリーのようなビジネスが盛り上がっているので、充電に関するニーズはそれなりにあると思います。19分でフル充電できるなら、コンビニのイートインスペースでサッと充電すればいいので、ありがたいといえばありがたい。
一方で、120Wで充電していると、ACアダプターなどはやっぱり熱を持つので、過去の爆発事故などを思うと、「本当に大丈夫?」とドキドキしてしまいますね。
房野氏:バッテリー周りの事故にはどのようなものが想定されますか?
法林氏:圧倒的に多いのはやっぱり熱による事故です。スマートフォンの中に熱センサーが入っているので、爆発することはほぼないだろうけど、そのセンサー自体が壊れたり、不具合を起こす可能性はゼロではない。
そもそもアップルがDock端子(iPhone 4sやiPad(第三世代)まで採用していた専用コネクタ)をやめてLightningにして、MFi認証製品(iPhoneやiPadとの互換性を保証する認証)しか使えないようにしたのはなぜかというと、市販の低品質なACアダプターやケーブルで充電する人が増えて、発火事故が起きるようになったから。Xiaomi 12T Proの場合、ACアダプターとケーブルは同梱されるので、これを使う分にはいいけど、ほかのデバイスに接続した時の挙動は保証されない。
石川氏:そうですね。あくまで神ジューデンは、専用の充電器を使うものと考えると、同梱される若干大きめのACアダプターを持ち歩くのはちょっと……。
法林氏:微妙だよね。だったら60W対応のコンパクトなACアダプターを持ち歩いたほうがよっぽど役に立ちます。
石川氏:たとえばアップルは、充電でトラブルを起こされると困るので、事故防止のために統制が効くLightningを使い続けているという一面もあると思います。
房野氏:アップル製品で過去にバッテリーの事故が起きたことはありましたか?
石野氏:iPhoneではあまり聞かないけれど、Macのバッテリーが膨らむくらいのことはまれにありますね。
法林氏:バッテリーが膨らむくらいは、どのハードウエアでも起こり得ることだからね。アップルは表立ってあれこれいわないけど、修理のサポートページを見ると、電源周りのことにはいろんな項目が用意されているので、相当気にしていると思います。
あと、「アップル純正」を虚偽にうたうケーブル、ACアダプターが出回っていたりするので、これを排除する活動もしているみたいです。
石川氏:iPhoneの場合は、認証を通っていないケーブルを接続すると警告が出る。充電の事故を起こさないために、結構厳しくチェックしていますね。
房野氏:Androidスマートフォンには、ケーブルを接続して認証するような機能はありませんよね?
法林氏:Androidスマートフォンは、USB Type-Cでしっかりと定義されているからね。
石野氏:USB Type-Cは、ケーブル端子側にもチップが入っていて、スマートフォンと接続した際に連係して、「〇〇Wで充電できる」といった情報を受け取ってから電気を流しているので、安全といえば安全。ただ、規格を守ってない製品や模造品が混ざっていたりして、間違った情報を読み取り、想定以上の電圧が流れるといったことはあります。
石川氏:ケーブル、ACアダプターは気を付けないといけないパーツだけど、かつてよりはトラブルが減っているイメージはあるけどね。
法林氏:とはいえ、安心感を求めるなら、ちゃんとした製品を用意したほうがいいでしょう。
これからのスマートフォンは「急速充電」と「省電力化」のどちらに進む?
房野氏:昔のケータイは、誰でも簡単にバッテリーの交換ができましたが、最近はできなくなっていますよね。今後バッテリー交換が簡単になることはないですか?
法林氏:今からバッテリーを交換可能なスマートフォンを作ることは難しいと思います。というのも、ケータイなどに搭載されたかつての充電バッテリーは、四角い箱のような形状でしたが、最近のバッテリーは袋状なんですよ。
石野氏:袋状になっていて、スマートフォン本体に隙間なく敷き詰められるので、大容量化ができている。箱形に戻すと、隙間がムダになり、バッテリーの容量が小さくなってしまいます。
石川氏:スマートフォンの大きさはほぼ変わらない、バッテリーの大きさもほぼ精一杯なので、これから先はいかに省電力化できるかだと思います。AIを駆使して、使わない時は消費電力を減らすといった技術が必要になります。
法林氏:そうだね。本当に考えないといけないのは省電力の話。
石野氏:シャオミに関していうと、もともと省電力対策は優秀です。省電力モードにすると通知をオフにしたりと、むしろ振り切りすぎているくらい。でも、急速充電機能が中国市場で受けていて、対応してきた。ただし、グローバル市場ではどうなんですかね? グローバル発表会では毎回アピールしていますが……。
石川氏:シャオミとオッポは充電に関するアピールが激しくて、2社の競争になっています。しかし、ほかのメーカーが追随する感じはあまりしないですね。
法林氏:国内市場は充電とバッテリーで勝負するというより、省電力とか、バッテリーが劣化しないといったロングライフでの勝負をしていますね。急速充電はやっぱりバッテリーへの負荷が大きく、性能の劣化が厳しいので進化する方向性としては逆だと思う。
石野氏:あと、そもそもですが19分で充電できる必要があるのかは疑問です。
法林氏:ここ1年以内に発売されているスマートフォンでよく見かけるのは、「30分で50%充電できる」という伝え方。これは非常に良いアピールだと思います。例えば、朝に外出の準備する時、スマートフォンの充電をし忘れたことに気付いたとしても、着替えたり、お化粧をするといった時間でおよそ50%あまりまでバッテリーの残量を持っていける。もちろん、充電をし忘れたとしても、0%になっていることはあまりないから、残量が20~30%のバッテリーを、70~80%くらいまで持っていける計算。これなら安心ですよね。加えてバッテリー本体への負荷が少ないのであれば、こっちのほうがベターです。
石野氏:僕が普段使っている、折りたたみスマートフォンの「Galaxy Z Fold4」は、25W充電対応で、たまに充電を忘れることもありますけど、70%ぐらいからならシャワーを浴びたりしている時間でほぼフル充電になる。朝起きてそのまま家を出ることはあまりないので、120Wに対応していなくてもそこまで困ることはない。サムスンは「遅すぎず、安心」のうまいバランスをついているなと思います。
……続く!
次回は、アップル、Googleなどのグローバル企業のCEOが続々と来日した真相について会議する予定です。ご期待ください。
アップル、Google、Microsoft、各社のCEOが続々と来日する裏に透けて見える思惑
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法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/佐藤文彦