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スマホやVRゴーグルを医療機器として活用する「デジタル治療」最前線

2023.01.30

■連載/阿部純子のトレンド探検隊

アプリやVRを使ったデジタル治療が注目される理由とは

近年、医療・ヘルスケア分野におけるテクノロジーの活用が進み、オンライン診療や医薬品のオンライン購入は一般的になりつつあるが、さらに治療の領域にも踏み込んだ、治療用アプリやVRを用いた「デジタル治療(Digital Therapeutics=DTx)」の活用が広がっている。

2014年に薬事法が医薬品医療機器等法(薬機法)へ改正され、アプリやVRコンテンツのみならず医療ソフトウエア全般が医療機器として認められるようになった。これを機に日本でもデジタル治療が導入され始め、2020年からニコチン依存症治療や糖尿病、高血圧治療用のアプリが登場しているのだ

ヘルスケアに用いるソフトウエアには2種類あり、疾病の診断や治療、予防を目的とした「SaMD(Software as a Medical Device)」は、医療機器として扱われ、薬のように医師が処方して治療に使う。医療機器として規制を受けない「Non-SaMD(Non-Software as a Medical Device)」は、デジタル機器を使った心理教育の支援や社会生活技能訓練等に用いる。

SaMDとNon-SaMD双方を開発しているのが、医療用VRを提供する「ジョリーグッド」。SaMDではうつ病患者向けデジタル治療 VR(CBT-VR) の臨床研究を、帝人ファーマ、国立精神・神経医療研究センターと共同で2022年11月から開始、2024年9月まで実施する。VRを活用した療法が本格的な臨床研究に入るのは日本初となる。

Non-SaMDでは、大塚製薬と組んだVRを活用したメンタルヘルスケア共同事業の第一弾として、統合失調症患者向けのソーシャルスキルトレーニング(SST)プログラム「FACEDUO」を昨年10月より開始した。FACEDUOは社会生活の様々な場面をリアルに再現した場面をVRで体験できる精神科専門医監修のSST支援プログラムだ。

ジョリーグッドは来年で10年目を迎えるベンチャー企業で、放送局や一般企業向けにVRコンテンツ体験のコンサルやソリューション提供していたが、2018年よりヘルスケア事業を中心に据え、VR ソリューション、VR 空間のユーザー行動を解析する AI による医療福祉向けサービスを開発している。企画・撮影・編集・アプリ開発・体験といった高精度VRサービスをワンストップで行っているのが同社の強みでもある。

デジタル治療が広がっている要因や、帝人ファーマ、大塚製薬との共同開発について、ジョリーグッド 取締役 COO 北詰裕亮氏はこう話す。

現在、多くの製薬会社はデジタル部門を持っており、従来の製薬以外のビジネスを創出する取り組みを行っています。要因としては新薬開発のコストや特許の有効期限など投資に対するリスクが大きくなっているという背景があります。医薬品の開発費は年々増えており500億円以上と言われますが、治療アプリなどデジタル治療の場合は数十億円から可能です。

また、収益化までに必要な時間も医薬品と比較して短くすむ場合もあり、製薬会社やスタートアップ企業などデジタル治療市場への参入が相次いでいます。

新薬と違い、設計を変えれば別の形で対応できるプロダクト開発もデジタルの利点で、先行している欧米では市場へのローンチが法改正を含めて行いやすくなってきている状況です。

現在、臨床研究段階のうつ病向けのVRは、うつ病向け医療機器を提供し在宅医療拡張を目論む帝人ファーマと、デジタル治療の基礎研究を始めていた我々が、病院、在宅でも治療に貢献できるプロダクトを作るという目的で合致したこともあり、共同開発に至りました。

非医療機器の『FACEDUO』は、デジタル医療の世界的な投資活動にすでに着手している大塚製薬が、日本において、障害者・精神疾患患者向けの社会復帰トレーニングや医療教育でのVR活用を積極的に進めていた弊社に価値を感じていただいたことからご一緒することになりました」

精神科領域と親和性の高いVRを使ったデジタル治療

ジョリーグッドのDTx事業部にてプロダクトの企画・開発を担当している蟹江絢子氏に、精神科医の立場からデジタル治療の現状や、医療、非医療機器でのデジタル活用について話を伺った。

【蟹江絢子氏プロフィール】
精神科医、医学博士、ジョリーグッド DTx事業部 上級医療統括顧問。認知行動療法(CBT)を専門とし、認知行動治療センターにて認知行動療法や社会認知リハビリテーションを用いた臨床や研究や研修を行う。精神療法の普及のためにはデジタル治療やデジタルツールの開発が必須と考え2021年にジョリーグッドに入社。

Q・デジタル治療が活用されている医療分野は?

「生活習慣や行動を変えることで生活の質が上がり、症状が好転するケースもあり、生活習慣病、精神科、神経内科といった行動変容が重要になってくる領域はデジタル治療に適しています。

例えば、がんの患者さんで薬が効かない状況になってしまってもデジタル治療が関与して行動や考え方を変えることで生活の質を上げることもあります。実際の治療や薬と併用しながら、もしくは薬だけでは出来ない部分を担うのがデジタル治療です」

Q・精神科領域での活用法について

「精神科領域では、薬と心理社会的療法の双方が大事ですが、心理社会的療法に関してはデジタル治療が活躍できる領域といえます。心理社会的療法として有用性が認められている認知行動療法(CBT)は、考え方や行動を変えることで問題解決の手助けをするというもので、デジタル治療と相性が良いのです。また、デジタル治療でもひとつだけに特化して行うアプリが多い中、CBT-VRは包括的な内容になっていることも特長的です。

認知行動療法とは世の中をどう捉えるか、どのように考え、行動を変えるかということで、感情や気分を変えていく治療法です。精神疾患は感情の病気とも捉えられ、うつ病は悲しみの病気ともいわれます。悲しい気持ちが長すぎたり、強すぎたり、頻繁に悲しい気持ちが生じるのがうつ病の状況で、統合失調症は疑心暗鬼の気持ちが強くなる病気。こうした精神疾患には感情、気持ちを変えるということが非常に重要になります。

精神療法のインタビューでは自分の心の中の世界を共有しながら話すため、イメージを言葉で説明しなくてはならず、患者さんが思っていることをセラピストが正確に把握できているか判断できないこともあります。セラピーの心象風景を映像で表現するのは今まで行われなかった領域ですが、VRでは話す内容や情報が視覚から捉えられるので非常にわかりやすく、治療として効果が期待できると考えています。

見ているだけになりがちなスマホやタブレットの2D映像と比べると、その世界に入り込んだ感覚のVRは、ドキドキしたり、悲しくなったりなどの感情を呼び起こしやすくなります。感情がわきやすいVRでは、考えを変えていこうと思わせることも可能にします。

また、VRは感情が入りやすい一方で、俯瞰して見るような客観視もでき、距離感があると現実的な解決に導きやすくなります。没入する、離れてみる、この両方をうまく使いながら治療できることがCBT-VRの利点でもあります。感情をいかにコントロールするかは精神科治療全般において重要で、感情をわかせながら、その対処法も学べるCBT-VRは認知行動療法に適しているといえます

Q・精神科領域でのデジタル治療の今後の展開について

増加する精神疾患の患者数に対して、医療従事者の時間、人材不足によって、有用とされている認知行動療法が提供出来ていない課題があります。考え方や行動を変えないと治らないと自覚できるうつ病患者さんもおり、薬だけでなく認知行動治療を受けたいと希望する方に、こうした事情から対応できていない状況があります。CBT-VRが普及することでその点を補えるのではないかと期待しています。
(下記データ出典:日本の精神科診療所における認知行動療法の提供に関する実態調査「認知行動療法実施阻害要因の該当頻度の違い」)

何らかの精神疾患にかかるのは5人に1人とも言われ、だれでもかかる可能性があります。世間体を気にして受診しない方も多いのですが治療をしないと悪化していきます。精神疾患ができるだけオープンな環境になって、目標やステップが明確になっている認知行動療法がデジタル治療で行えれば、患者さんが治療に行きやすくなり、症状の改善が自覚できることで再発予防にもなります」

【AJの読み】投薬や手術と並ぶ選択肢として注目されるデジタル治療

近年、デジタル治療(DTx)が注目を集めており、塩野義製薬のADHD治療用ビデオゲームアプリ、アステラス製薬と米Welldocの糖尿病管理アプリ、大日本住友製薬の認知症に伴う行動・心理症状を緩和させるデジタル医療機器など、国内外の製薬大手が相次いでデジタル治療分野の開発に参入している。

デジタル治療は2025年まで年21%の市場成長し6兆円規模になると見込まれ、今後ますます、投薬や手術と並ぶ選択肢として注目されると思われる。

臨床研究中の医療機器のCBT-VRについては内容の確認はできなかったが、昨年10月から開始した、非医療機器の統合失調症向けVR視点プログラムFACEDUOを体験することができた。患者の治療段階に合わせて、地域生活準備編、日常生活編、仕事編の3つのカテゴリーが設定されており、ゴーグルを装着してVRコンテンツを見ながらロールプレイを行う。

統合失調症の患者が社会復帰する際にカフェや清掃の仕事が多いということから、ソーシャルスキルトレーニングとして、カフェでウエイターとして働くシーンを疑似体験した。注文を聞いているときに他の客の来店案内をしたため、注文内容を聞き漏らしてしまったというシチュエーション。失敗を正直に先輩に伝えて、次からメモを取って忘れないようにするといったアドバイスを受け「人に頼ることができる」ことを経験する。

360度見えるVRは表情やしぐさ、雰囲気など体験がまるごと教材になっており、臨場感や没入感があるので緊張感を保ちながら練習ができる。

「デジタル機器のメリットとしてアップデートや、コンテンツを増やすことができるので、患者さんに合わせたプログラムを作ることも可能です。今後もプログラムを増やして60~80本ぐらいにしていきたいと考えています」(蟹江氏)

ジョリーグッドでは創業以来、様々な分野でのVRの体験コンテンツを提供してきた経験から、まるごと体験で伝える体験学習型に価値、効果があることを見出したという。メンタルヘルスの領域でも、コンビニで買い物をする、カフェで接客するなど、どのようにすればリアルに近い疑似体験ができるか、同社が培ってきた知見が活かされている。

文/阿部純子

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