こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい解説を目指しています。
裁判例をザックリ解説します。
女性の保育士さんが解雇された事件です。産休をとって出産して約10ヶ月後「職場に戻りたい」と伝えたところ、何だかんだ理由をつけられて解雇されました。そこでXさんが訴訟を提起。
~ 結果 ~
Xさんの勝訴です!解雇は無効になりました(社会福祉法人緑友会事件:東京高裁 R3.3.4)。出産後、1年以内に解雇しちゃダメなんです。以下、くわしく解説します。
どんな事件か
Xさんは結構ギリギリまで働いてましたね。平成29年4月1日~産休に入りました。そして約1ヶ月後の5月10日に第1子を出産しました。
約1年後、トラブル勃発です。平成30年3月、Xさんが保育園側に対して「5月1日から職場に戻りたいです」と伝えました。しかし、保育園側は拒否。復職させることはできないと回答しました。
Xさんは保育園側に対して解雇理由証明書の交付を求めました。5月9日、保育園側がXさんに渡した解雇理由証明書には「5月9日付で解雇する」との記載がありました。おや、出産から1年以内に解雇してますね。これはムムムです。以下の条文があるからです。
雇用機会均等法 9条4項
妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。
Xさんは解雇無効を求めて訴訟を提起しました。
裁判所の判断
地裁も高裁も「解雇は無効だね」と判断しました。
▼合理的な理由ないじゃん
■ 保育園側の主張
・Xさんは園長に対して不適切な言動を繰り返した
・それにより職場環境を著しく悪化させた
・園児にまで悪影響を及ぼしていた
・Xさんは問題点に対する認識が不十分
・園長と協調する意思がなく改善の見込みが乏しい
と主張しました。
しかし、玉砕。
■ 裁判所の判断
・たしかに園長の方針に対して意見を述べたことはある
・だが、ことあるごとに批判的言動を繰り返したとはいえない
・最終的には決まった方針に従っていた
・たしかにXさんの言動が不適切な部分があったかもしれんが
・それは上司が指導していけばいい
・意見を出したり保育観が違うからといって解雇すべきほどの問題行動とは評価できない
なので「この解雇は無効!」と判断しました。客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当とは認められないってことです(労働契約法16条)。
▼出産後、1年以内に解雇しちゃってるよね
さらに出産後、1年以内に解雇してることも理由に解雇は無効と判断しました。上で挙げた雇用機会均等法9条4項です。
ほんで、なんぼ?
解雇が無効になると未払い賃金をもらえます(バックペイ)。今回のケースでXさんが得たものはザックリ以下のとおりです。
■ 賃金請求
解雇されてから判決確定日まで(第2子の産休・育休期間を除く)
■ ボーナス
H30.6 R2.6 約3万円
H30.12 R2.12以降 約32万円
R1.6 R3.6以降 約42万円
■ 損害賠償(不法行為)
・産休、育休の社会保険給付相当額 約186万円
解雇がなければ第2子の育休期間中に出産一時金・育児休業給付金を受けられたから
・慰謝料 30万円
・弁護士費用 約20万円
★ バックペイの衝撃
これが衝撃なんですが、解雇が無効と判断されれば、解雇された日から → 訴訟になって → 判決が確定する日までの給料を頂けます。もし裁判が4年続けば、4年分の給料がもらえます。働いていないのに。
転職してたとしても、基本、6割の給料をもらえます(「元職場での就労の意思がある」と認定できる期間分)。 裁判官が「もう戻るつもりないよね」と認定した時点以降は請求できませんが、デカイですよね。
▼慰謝料は基本、ムリ
「解雇されてムカつく!慰謝料も欲しいわ!」という気持ちはわかるんですが、基本ムリなんです。でも今回は慰謝料が30万円認められてます。理由は以下のとおり。
・育児休業後、復職のため第1子の保育所入所の手続きを進めていた
・入所が決定
・会社に復職を申し入れたところ復職直前に解雇された
・第1子の保育所入所も取り消された
これで大きな精神的苦痛を被ったということが理由です。ここは出たとこ勝負ですね。裁判官が「こりゃヒドイぜ」と感じるかどうかにかかってます。
さいごに
会社側は「解雇した理由は出産じゃないんです。この人が不適格だからです」と主張してくることがあります。なぜなら、雇用機会均等法9条4項には「ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない」との記載があるからです。
今回の保育園側もこの主張をしたのですが認められませんでした。証明のハードルは高いと思うので、もし何だかんだ理由をつけられて出産後、1年以内に解雇された方がいれば、社外の労働組合か弁護士に相談してみましょう。
今回は以上です。「こんな解説してほしいな~」があれば下記URLからポストして下さい。では、また次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
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