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事業の創成期・拡大期・安定期で変わる「仕事ができる人」の評価基準

2023.01.31

■連載/あるあるビジネス処方箋

ここ数回(第一回第二回第三回はこちら)で管理職や役員のあり方について人事コンサルタント2人へのインタビュー取材を紹介した。その中で「役員になるならば、経営について深く語ることができることが必要」と述べているくだりがある。

会社員からすると、「経営について深く語る」とは何を意味しているのか、どういうレベルのものであるのか、といった疑問を感じたかもしれない。私が20~30代の会社員であった時によく考えたことでもある。

そこで2年前に取材した際に、管理職でありながらも経営について実体験にもとづき、役員のように具体的に語る女性を思い起こした。自動認識システムを製造販売する大手メーカーの(株)サトーの社内ベンチャー元社長の渡部 彩(わたなべ・あや)さんだ。今回は、取材を試みた際のやりとりの一部を紹介したい。

大事なのは「トップがビジョンとビジネスモデルを明確にすること」

渡部さんは2年前、同社のグローバル営業本部デザインプロモーション推進部部長を務めていた。主に消費者アンケートに基づく商品パッケージデザインを顧客企業に提案するデザインプロモーションのビジネスを担当し、新規事業部も兼任していた。

2003年に広島大学教育学部を卒業後、サトーホールディングスに入社。営業部や事業企画本部を経て、2013年に社内ベンチャーを立ち上げる。2015年に早稲田大学にて経営学修士(MBA)を取得。2015年に社内ベンチャーは、サトーホールディングスの子会社(デザインプロモーション株式会社)となり、代表取締役社長に就任。2020年、本事業は子会社に吸収合併された。2023年現在は、グループCEO直下の新部門(T4Sビジネスラボ)で、部長として新たな主力ビジネスの創出に努めている。

渡部さんは2013年に社内ベンチャーを立ち上げたことについて、次のように話していた。

「きっかけは、新卒で配属された営業部の時の経験です。当時、消費財の商品パッケージのデザインや印刷の営業をしていました。この業界はコモデティ化しており、コスト勝負の消耗戦が繰り広げられています。会社としての強みや差別化を構築しなければ社員は疲弊し、事業の存続も危ういのではないかと強い危機感を持ったのです。

印刷だけを単純に請け負うのではなく、「このデザインをこうしたら、このくらい売れる」と数値的な裏付けをしたうえで、顧客の課題解決につながるような商品パッケージ考えるようになりました。「提案・コンサルする」事業に変化させたいと思っていたのです。

実際に社内ベンチャーに関わり始めたのは2013年、主任の時です。1人で事業を立ち上げようと思い、本部に提案をしました。それが認められ、企画をより具体化し、1人でプロジェクトを動かすようになります。本部で、事業として採算があると判断され、正式に社内ベンチャーにしないかと声がかかったのです」

渡部さんは社内ベンチャーをスタートした時は部下を持ったことも、部署をまとめたこともなかったという。それでもプロジェクトを率いることを認めた当時の経営層は評価されるべき、と私は思う。自社の近未来や渡部さんの新規事業を構築しようとする意識や姿勢に何かを見出していたのかもしれない。取材時に私は、渡部さんのチームをつくるうえでの着眼に注目した。特に次の話だ。

それまで私は部下を持ったことも、チームを動かした経験もありませんが、創成期は上手くいったように思います。この時期に人事異動や中途採用を経て集まる社員は、必要以上に指示をされることを好まない自立心・自主性の高い人ばかりでした。ですから、上司と部下の関係というより、同じビジョンを持つパートナーであることを意識しました。特に大切なのは、トップである私がビジョンとビジネスモデルを明確にすること、その2つをメンバー間でしっかり共有することです。あとは、メンバーを信頼して自由に動いてもらう。これがポイントだと思います

私はこの話に共感するものはあったが、実際は背景が異なる社員が集まり、1つのチームを時間内につくるのでは容易ではないと思う。そこで、スタート期にどのような問題が生じていたのかをさらに尋ねると、こう答えた。

「事業の創成期や拡大期に入る手前では、ヒト・モノ・カネなどの経営資源やビジネス運営において、この時期特有の様々な問題がおきます。たとえば社内ベンチャーですから、親会社の経営幹部に経営資源の配分について説得したり、ビジネス課題の解決策に対し、意見を求めることがあります。その際に壁を感じることはありました。

僭越かもしれませんが、経営幹部は会社の成長期・安定期にキャリアを積まれた方が多く、組織を安定的に動かすことは非常に長けている一方で、創成期特有の問題に対する経験値は少ない。それだけに、私がこの時期に相談をする方は少なかったように思います。それでも、とてもありがたい助言や指導をいただいた方ももちろんいました」

この「壁を感じること」が、経営について深く考える習慣をつくるのではないか、と思う。

「リクルートチルドレンのビジネス脳」はどのように作られるのか?

やや話が広がるが、大切な点なので述べたい。リクルート出身の多数の創業経営者が「リクルートチルドレン」と呼ばれ、活躍している。その理由として、リクルート出身の人事コンサルタント15人程が、私の2008年~2016年前後までの取材でこう答えていた。

「リクルート在籍中に、事業の企画や新卒、中途採用や部下の育成、チームをつくることに数えきれないほどにぶつかり、考える機会が多かった。リクルートと言えば、マスコミが自由な社風や野武士の集団などと取り上げるが、内情はそれとは正反対。上限関係はとても強く、上司は手ごわい。部下たちは、上司を説得するために大変苦労する。その壁を乗り越えるために、どうしようかと必死に考え抜く。そのようにしてビジネス脳がつくられていく」

サトーの社風とリクルートのそれは異なるのだろうが、おそらく、渡部さんが壁を感じ、乗り越えるようとした機会が多いことはリクルート出身の経営者らと重なるものがあるのではないか。逆に言えば、私がこの30年ほどで取材を通じて接した大多数の会社員は大企業、中小企業、ベンチャー企業を問わず、経営について深く語ることはまずできない。その理由の1つには、経営やマネジメントについての考えや意見をめぐり、上司や経営層と議論する機会がリクルートなどと比べて圧倒的に少ないからなのではないか、と思う。思考を鍛える場が、ほとんどないのだ。

事業の創成期・拡大期・安定期で「仕事ができる人」は変わってくる

渡部さんに、部下の育成についても尋ねた。漠然とした質問では明確に答えようがないだろうから、「部下のことを『使える、使えない』と評する人は企業社会に無数にいるが、そのことについてどう思うか」と聞いた。すると、こう答えた。

仕事が『できる人』と『できない人』といった評価は、できるのかもしれません。しかし、どこかの点だけを切り取って、そのように評価するのは危険です。誰しもが『できる人』『できない人』になりえるのです。

たとえば事業の創成期、拡大期、安定期で評価されるタイプは異なります。それを見定め、社員を適切に配置するのが、マネージャーやトップの大切な仕事だと思います。

創成期には上司から何かを言われる前に、どんどん進めていくことができる方が向いています。このタイプは自由を好み、ルール構築や正確性の必要な仕事は苦手な場合があります。安定期に、このタイプばかりだと組織としてまとまっていかなくなることがありえます。

このように事業の成長過程で求められるメンバーの経験やスキルが変わります。社内ベンチャーということもあり、当時、安定期になっても同じメンバーで、ある意味で、地続きで取り組まなければならない点に難しさを感じました。

創成期のメンバーと安定期も一緒に仕事をしたいと思っていましたが、それができなくなる時が来るのです。たとえば、組織としての規律・ルールの整備がスタートするので、それに合わないメンバーと考えの相違がでてきてしまう。事業は常に動いているので、状況に応じてメンバーやマネジメント方法を変える必要が生じます。

その際には、社員の能力や特性を見極め、最適な人員配置をするマネジメントをしていかなければなりません。たとえば『この人はこういう力があるから成長期に合う』といったものです。組織体系や人材を最適化させ続けなければ、社内ベンチャーは成功しないと思います」

私は、渡部さんの次の言葉の意味が特に深いと思った。

当時、安定期になっても同じメンバーで、ある意味で、地続きで取り組まなければならない点に難しさを感じました。創成期のメンバーと安定期も一緒に仕事をしたいと思っていましたが、それができなくなる時が来るのです

こういう言葉は、目の前の仕事をこなすことだけをしている会社員はなかなか出てこないだろう。自分でメンバーを集め、時間内でチームをつくり、採算が合うビジネスにしようとすると、大半は思い描いたようにいかないはずだ。それをきっと体験しているからこそ、言葉になるのだろうと思う。実は私も30~40代の時に似たような経験でひどく苦しんだこともあり、考え込むものがあった。

取材の終わりに、渡部さんはこんなことを語っていた。

大企業の社内ベンチャーには、大きなポテンシャルがあります。大企業には、もともと安定した収益基盤があり、優秀な社員がそろっています。どのような企業も、拡大とともに事業ポートフォリオを設定し、それぞれのセグメントの事業を最適な形で運営していかなければ永続的な発展はできません。

私はこれまで事業の創成期・拡大期・安定期のすべてを経験させていただきました。今後もこの経験を活かし、どのセグメントや段階のビジネスにも対応できるようになりたいと思っています」

経営について深く語ることは、確かに役員になるためには不可欠だ。だが、サトーのようにそのような機会や場を設けている企業は少ないのではないだろうか。こういう試みすらしていないならば、高度なレベルでの判断や意思決定が求められる経営層にはならないだろう。ここに、多くの日本企業が国際競争で勢いを失う一因があるように思えてならない。

読者諸氏は、渡部さんの一連の言葉に何を感じただろう。

文/吉田典史

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