世界が新型コロナウイルスのロックダウンから脱しようとする中、経済、社会、環境面において亀裂が生じていることが明らかになりつつある。2023年以降を見据えると、危機が残した債務は、社会を支え続けようとする政府のキャパシティの制約となっている。
政府による介入が見込まれつつも、気候変動問題や生物多様性の脅威から生活費の上昇に至る重要な問題への取り組みにおいて、ビジネス活動がより大きな役割を果たすことが期待される。
こうした状況を踏まえた上で、英国の独立系資産運用グループ・シュローダーはこのほど、資産クラスや地域を超えてESGが成熟し進化する中で、ESGとインパクトの将来について考える「2023年の市場見通し」に関するレポートを公開。
本レポートでは、注目すべき5つのトレンドとして「気候変動と政治の意思」「自然資本」「生活費およびその他の社会的ストレス」「アクティブ・オーナーシップとインパクト」「規制」を挙げている。
1.気候変動と政治の意思
第一に、気候変動は避けて通れない問題だ。すべての投資家は、地球温暖化や環境破壊そのものだけでなく、その原因に対処するための政治的・経済的行動の影響にさらされている。投資家は、気候変動問題の解決に向けた投資機会とともに、これらのリスクへのエクスポージャーを十分に考慮し、管理する必要がある。
シュローダーでは、2022年初めにScience Based Targets イニシアチブによって認定された、温室効果ガス排出削減目標を設定するなど、今後数十年の間にネットゼロに向けて移行することを約束した。
しかし、目標を設定するのは簡単なことだ。私たちや他の企業がどのように脱炭素化を進めるかは、シュローダーが顧客のために生み出す価値にとって極めて重要だ。シュローダーの気候変動移行アクション・プランは、そのロードマップの概要を示している。
2022年に政治的な勢いは明らかに鈍化したが、重要なのは民間部門が前進を続けていることで、このことは、グローバルのリーダーが掲げた野心と企業の移行準備の間のギャップをある程度縮めるのに役立っている。
11月にエジプトで開催された国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)は、世界的な行動へのコミットメントを強固にするには至らなかった。しかし、「損失と被害」を受けた途上国を支援する基金に関する合意は、2015年にパリで打ち出された目標達成に必要な変化を実現するために役立つものだ。今後は、2023年後半にアラブ首長国連邦(UAE)で開催されるCOP28に注目が集まる。
シュローダーは、その声と影響力を使って、最もリスクの影響が大きいと考えられる企業とエンゲージメントを行い移行計画を策定するよう働きかけることに注力してきた。これからの1年間、シュローダーはこうした取り組みを強化している。
2.自然資本
自然資本の役割と生物多様性の脅威に注目している。気候変動の脅威は、世界の人口増加や人々がより裕福になっていること等を背景とした需要の増加と、資源が有限であることとの間の緊張が高まっていることを示している。
今日、私たちは毎年、地球1.7個分の資源を使用しており、自然資本の不足がさらに深刻化し、地球上の生態系の劣化が生み出す脅威が強まっている。
ある試算によると、毎年およそ10兆ドルの自然資本の価値が失われており、世界経済に隠れた負債が蓄積していることが明らかになった。自然リスクは、投資のリスクとリターンに不可欠な要素になりつつあるのだ。そのため、シュローダーは2022年に初めて全社的な「自然のための計画」を発表し、これまでの行動をまとめ、自然損失の原因と影響に対処するための行動の今後の方向性を示した。
3.生活費およびその他の社会的ストレス
多くの国で生活費が上昇している。2023年には圧力は緩和されるかもしれないが、貧困について注視が必要であると考えている。
家計の資金不足に対応できる財政の余裕を持つ国はほとんどなく、社会的ストレスはさらに強まる可能性がある。企業は、自社の従業員の賃上げや福利厚生、あるいはサプライチェーンの労働者に対する責任などを通じて、弱い立場の労働者を確実に保護するよう圧力を受けている。
政治体制に対する圧力も強まる可能性がある。これは、政府が優先順位を明確に定めるという投資家の信頼を損ない、その責任は企業や投資家に押し付けられる可能性がある。
COP27や生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)に向け、気候変動や自然が大きな話題となったが、来年は人的資本管理、人権、ダイバーシティ&インクルージョンといった社会的課題により大きな焦点が当てられると思われる。これらは、シュローダーにとって、アクティブ・オーナシップの中核となるテーマだ。
4.アクティブ・オーナーシップとインパクト
投資先の企業や資産に対しエンゲージメントを実施する能力は、顧客に対し価値を創造するために必要不可欠なものであり、重要な手段となるだろう。
私たちが向かっている世界に対応できている企業はほとんどなく、企業価値を守るためには、企業に対して適応を促し、後押しすることが重要だ。
シュローダーは2022年上旬にエンゲージメント・ブループリントを発表し、投資先企業への期待を示したが、今後はそれをベースとしていく予定だ。
インパクト投資への注目が高まる中、アクティブ・オーナーシップもその戦略の重要な要素になると考えている。
2022年に700以上の機関投資家を対象に行ったシュローダー独自の調査では、約半数(48%)が投資のインパクトを重視しており、2020年の約3分の1(34%)から増加していることがわかった。この傾向は今後も続くと考えている。
5.規制
こうした傾向は、業界がこれまで以上に厳しい監視と懐疑にさらされていることが背景となっている。
規制はEUから世界の他の地域へと広がりつつあり、運用プロダクトが掲げる透明性と明瞭性に対する要求は当然ながら高まるものと思われる。グリーンウォッシングは、透明性の重要性を強調しており、それを防止するのに必要な要素は、正直さ、透明性、一貫性だ。
例えば、COP15を前に、シュローダーは自然破壊からの回復と生態系保護のための包括的アクションを企業に求めていく国際的な連合体であるBusiness for Natureの、2030年からすべての大企業と金融機関に対して自然関連の影響と依存の開示を義務付けるよう求めるMake it Mandatoryキャンペーンに署名した。
おわりに
投資業界においてサステナビリティを重視するシュローダーにとって、ここ数年は信じられないほど忙しい日々を過ごしてきた。規制の変化の規模とその速度に対応することは、非常に困難なことだった。
拡大するESGデータの中で、社会・環境の構造的なトレンドが持つ意味について理解を深め、分析、モデルを開発、そして投資先企業とエンゲージメントを実施していくことが求められる。これらのことは、2023年になっても変わることはない。
<解説>
アンドリュー・ハワード氏(サステナブル投資グローバル・ヘッド)
出典元:シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社
構成/こじへい