筆者は17歳の頃に、組技格闘技で右耳を潰してしまった。
それ以来、イヤホンを買う際は誰よりも慎重にならざるを得なくなった。何しろ、耳の形が左右で違うのだ。これは格闘技選手共通の悩みと言える。
故にワイヤレスイヤホンをレビューする際も、「他のライターは一様に絶賛している製品なのに澤田真一だけは低評価」ということも時たまある。
理由は簡単で、筆者の右耳にその製品が入らなかったからだ。
が、今回レビューする『Rocbo』に関して言えば、安心して装着することができた。
何しろこれは、耳を塞がない設計の空気伝導式イヤホンである。
合計4基のドライバーを搭載
オープンイヤ型の空気伝導式イヤホン?
筆者はMakuakeのページを最初に見た時、首を捻った。オープンイヤ型のイヤホンは、殆どの場合骨伝導式である。
オープンイヤ型の空気伝導式イヤホンなど初めて見る……というわけではないのだが、そのような製品は音漏れをカバーするために大型のドライバーを内蔵している。
『Rocbo』の場合は片方2基、合計4基のドライバーを用意。よ、4基!? いささか思い切っているというか、大胆というか、豪勢というか。
ひとつの耳にドライバーを2基も当てたら、一体どうなっちまうんだ!
御託を並べるよりも先に、音楽を聴いてみよう。
今回聴くのは韓国出身の歌手、桂銀淑の名曲集。
筆者は現在38歳で、銀淑の絶頂期の頃は保育園児だった。
ところが筆者より何歳か年上の、かつて日本で水商売をしていたフィリピン人やインドネシア人は銀淑をよく知っていたりする。
そして、このあたりのつながりから東南アジアのカラオケ店でも彼女の曲が広く歌われているのだから、世界は驚きに満ちている。
そして、銀淑ほど演歌そのものの人生を送っている歌手も珍しい。
巨額の借金、裁判、鬱病、そして薬物での逮捕を経ている彼女の歌声を『Rocbo』で聴いてみる。
合計4基のドライバーのパフォーマンスもあり、銀淑がだんだんと好きになってくる。
無論、彼女がやった犯罪に好意を持ったわけではない。麻薬の使用は悪いに決まっている。
しかし、銀淑独特の感情の発露、歌声の絶妙な絞り方、表現の豊かさは否定できない。
銀淑のハスキーボイス、そして歌詞を口に出す直前の「かすれ具合」の再現は見事なものだ!
そこから柔らかいゴムのように伸びる銀淑の声、最後の唸り。
これらを余すところなく、『Rocbo』のドライバーが発露してくれる。