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生き方を変えたいのなら友と絶交!?ゴールデングローブ3部門を受賞した映画「イニシェリン島の精霊」の見どころ

2023.01.18

■連載/Londonトレンド通信

突然の変心を遂げた友人からの最後通告とは?

今年こそ痩せる!等々、決意を固めてみたりする年の初めだ。

年の初めでもないのに決意を固めた男がいる。1月27日公開『イニシェリン島の精霊』のコルム(ブレンダン・グリーソン)だ。「ここ数年、新年の抱負同じ(笑)」みたいな、ぬるい決意ではない。何としてもやり遂げる、怖ろしく固い決意だ。

宣言することもなく、コルムはただ決心し、実行する。それが周囲、とりわけ相棒だったパードリック(コリン・ファレル)を混乱させる。

映画は、友の誘いを受けつけないことから始まる。

海と岩場に草地という風景の小さな島で、「パブ行こうよ」と窓越しに呼びかけるパードリックに、家の中のコルムは返事もしない。

昼の2時にパブへと向かうのを日課にしていたらしい2人、少なくともパードリックにとっては相棒のコルムだ。その習慣が一方的に打ち切られる。

「何かあったのかな」、「気に障ることでもしたかな俺」、こんな時に誰もが考えることを考え、問いもするパードリックだが、コルムは翌日も翌々日も頑として誘いに応じない。

出だしからしばらくは、頑固なコルムに困るパードリックの展開が可笑しい。だが、いつまでもつきまとうパードリックに、業を煮やしたコルムが最後通告する。「これからお前が俺に話しかける毎に、俺の指1本切り落とす」。

脚本も手掛けたマーティン・マクドナー監督は、ブラックコメディの名手だ。前作『スリー・ビルボード』(2017)は、アカデミー賞ノミネート、BAFTA(英アカデミー賞)受賞している。

そのマクドナー監督が、ファレル、グリーソンと再度組んだのが今回だ。

Colin Farrell, Martin McDonagh and Brendan Gleeson attends “The Banshees of Inisherin” UK Premiere during the 66th BFI London Film Festival at The Royal Festival Hall on October 13, 2022 in London, England. (Photo by Tim P. Whitby/Getty Images for BFI)

イギリスでの『イニシェリン島の精霊』お披露目となったロンドン映画祭にそろって登場した3人、前回組んだのはマクドナー監督にとって長編監督デビュー作となる『ヒットマンズ・レクイエム』(2008)だ。ファレルの軽みとグリーソンの重みが、引き立てあいつつコメディに転じる絶妙なコンビになっていた。

その2人が、またマクドナー監督でメインを務めると聞けば、期待しないわけにはいかない。

酷いのに可笑しいだけでも十分だが、マクドナー監督作にはいつもヒューマンタッチがある。

上手くいっていない箇所を探すのが難しい上出来の映画、期待は裏切られない

音楽家のコルムが、人生の残り時間を意識する年齢にさしかかり、もう毎日を無為に過ごすことはできない、何か成し遂げたいと願うのはわかる。その一方で、大きなことは考えず、目の前の仕事(パードリックは酪農家)を片づけ、パブに通うことで満足する気のいい男パードリックの生き方を肯定したくなる。

自分の意図をコルムが説明する場面、「いい人のことなんか誰も覚えちゃいないけど、モーツァルトの名は誰もが知っている」というコルムに、「俺は知らないよ」と返すパードリックだ。

そのパードリックが、自分よりバカと見なしている相手が、ドミニク(バリー・コーガン)だ。いつもその辺をフラフラしている島一番のおバカ的位置づけの若者だが、いきなり友達付き合いをバッサリ絶つコルムを「12歳かよ」と一言で評すなど、核心を突いたりする。家にいつかないのは、警察官である父親から怒鳴られ、殴られる家庭内暴力を受けているせいもある。

パードリックとは対照的な読書好きの妹シボーン(ケリー・コンドン)は、コルムの意図を理解できる、島では数少ない人物のようだ。だが、無駄に費やす時間に耐えられなくなったコルムに、「あなたがいるのはアイルランドの島よ」という冷静な常識も持ち合わせている。

笑えるばかりでなく、ハートブレイキングな場面も多い映画で、コルムとパードリックの名場面に負けないほど、ドミニクとシボーンにも忘れ難い場面がある。

益々円熟味を増したファレルとグリーソンはもちろん、コンドンとコーガンも見事だ。島では「だから結婚できない」などと言われる賢いシボーンはコンドンによってゆったりと包容力のある女性像になっているし、このところ躍進目覚ましいコーガンは出演作毎に驚かされる演技力で浅くないおバカを演じている。

キャラクターそれぞれが滋味深く、映像も音楽も良い、上手くいっていない箇所を探すのが難しい上出来の映画、期待は裏切られなかった。

舞台は、1923年のアイルランドの島となっているが、イニシェリン島は架空の島だ。台詞はビビッドでリアルだが、死を予言する婦人が登場してくるあたり、民話的でもある。

1923年と言えば、アイルランド本島では前年からの内戦が5月まで続いていた年だ。友であったパードリックとコルムが険悪になっていく様を、アイルランド内戦と重ねて観ることもできる。

先日のゴールデングローブ賞では、ミュージカル/コメディ部門の作品賞と主演男優賞(ファレル)に脚本賞(マクドナー)を受賞した。アカデミー賞、BAFTAで、どれだけ受賞するか楽しみだ。

文/山口ゆかり ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。
http://eigauk.com


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