2023年のスローガンは「Do more with less」、より少ないリソースでより多くのことを行うこと
ここ 3 年間は、パンデミックとその後の余波によって先行きが不透明な状況が続いていた。こうした 3 年間を経て、不景気に見舞われ不確実な状況から脱し得ない2023年の企業は、以前と変わらない責務に直面している。
つまり、率先力を身につけ、イノベーションを実現し、問題を解決しなければならないということだ。AIは、これらの目標を達成するための共通項になりつつある。
米国、英国、ドイツの約700の企業を対象に実施されたGartnerの最新の調査では、平均すると企業のAIプロジェクトの54%が概念実証 (PoC)から本格環境に移行した。
調査に参加した経営幹部の実に80%が、自動化はあらゆるビジネス上の意思決定に適用でき、AIの使用に関して細かな戦術的段階から大局的な戦略的段階に移行していると回答している。
そこで 2023年は、「Do more with less」、つまり、より少ないリソースでより多くのことを行うこと、これがスローガンとなりそうだ。
NVIDIAのAI予測ビジネスのエキスパートの何名かは、一時解雇やスキルのある人材不足にあえぐ企業がAIプロジェクトの拡大を優先すると予測している。
そのためには、あらゆる企業、アプリケーション、予算に合わせて購入しカスタマイズできる、クラウドベースの統合されたソフトウェアおよびハードウェア製品を使用することになるだろう。
費用対効果の高いAI開発は、NVIDIAのエキスパートによる2023年の予測でも繰り返されるテーマだ。
ムーアの法則は物理法則に反するようになり、オンプレミスのコンピューティング性能のインストールはさらに高価になり、かつエネルギー効率は低下していく。
また、重要なコンポーネントにおける黄金のネジ (不可欠な部品) の模索が、AI アプリケーションの開発や、サプライ チェーンの問題に対するデータ主導のソリューションの発見を目指して、クラウドへの移行を加速させている。
そこで今回は、2023年のAIに関するNVIDIAのエキスパートの見解を一部抜粋して紹介しよう。
科学シミュレーションが Million-X(数百万倍) に加速され、新しい科学的洞察や発見が実現
アニマ アナンドクマー (Anima Anandkumar)氏
ML リサーチ ディレクター兼カリフォルニア工科大学ブレン教授
デジタル ツインの物理化: 気象や気候モデル、地震現象、材料特性など、複雑でマルチスケールな物理プロセスの大規模なデジタル ツインが登場するでしょう。これにより、現在の科学シミュレーションが Million-X(数百万倍) に加速され、新しい科学的洞察や発見が実現します。
ジェネラリストAIエージェント: AIエージェントは、自然言語指令と大規模な強化学習を使用して、オープンエンドのタスクを解決するようになります。
また、基盤モデル (ラベル付けのない膨大な量のデータでトレーニングされた大規模なAIモデル) を利用して、エージェントはあらゆるタイプのリクエストを解析し、時間の経過とともに新しいタイプの要求に適応できるようになります。
つながりのある単一のエクスペリエンスをAI実務者に提供
マヌバー ダス (Manuvir Das)氏
エンタープライズ コンピューティング担当シニア バイス プレジデント
ソフトウェアの進歩がAIのサイロ化を解消: 企業は長い間、AIの研究開発のためにクラウド コンピューティングかハイブリッド アーキテクチャを選択する必要がありました。これは、開発者の生産性を低下させ、イノベーションを遅らせる可能性があります。
2023 年には、ソフトウェアにより、企業はすべてのインフラストラクチャ タイプでAIパイプラインを統合し、つながりのある単一のエクスペリエンスをAI実務者に提供できるようになります。
これによって企業は、プロジェクトの規模や複雑さに関係なく、コストと戦略目標のバランスを取ることができ、事実上無制限の能力にアクセスして柔軟な開発ができるようになります。
ジェネレーティブAIがエンタープライズ アプリケーションを変革: ジェネレーティブAIが話題となっていますが、それが 2023 年に現実のものとなります。
なぜなら、大規模言語モデルとレコメンダー システムを実稼働アプリケーションに変換できるソフトウェアを用いた、真のジェネレーティブ AI の基盤がようやく整ったためです。
実稼働アプリケーションでは画像に留まらず、質問にインテリジェントに回答し、コンテンツを作成し、驚きの発見をすることさえできます。
このようなクリエイティブな新時代は、パーソナライズされた顧客サービスを大幅に前進させ、新しいビジネス モデルを推進し、ヘルスケアのブレイクスルーへの可能性を開きます。
外科手術のリハーサルや、人間とマシンのAIによる相互作用の設計において新境地を開拓
キンバリー パウエル (Kimberly Powell)氏
ヘルスケア担当バイス プレジデント
生物学が情報科学に: 大規模言語モデルのブレイクスルーと、文字のシーケンスで生物学を記述する幸運な能力により、研究者は化学と生物学の新しいクラスのAIモデルをトレーニングすることができます。
これらの新しいAIモデルの機能により、創薬チームは、半導体で分子とタンパク質の特性と相互作用をすべて生成、表現、予測することができます。これにより、潜在的な治療法における最も重要な無限の領域を探索する能力が拡大します。
Surgery 4.0の実現:フライト シミュレータは、パイロットの訓練と新しい航空機制御の研究に役立ちます。同じことが、外科手術およびロボット手術デバイスのメーカーにも当てはまります。
手術室の環境から医用ロボット、患者の生体構造に至るまで、あらゆる規模でシミュレーションできるデジタル ツインは、パーソナライズされた外科手術のリハーサルや、人間とマシンのAIによる相互作用の設計において新境地を開拓しています。
研修期間を長く取ることだけが、経験豊富な外科医を輩出するための方法ではありません。実際の患者にロボット支援手術を初めて行うときから、多くの執刀医がエキスパートになれるでしょう。
2023年には業界の多くの自動車関連企業が仮想世界を利用することに
ダニー シャピロ (Danny Shapiro)氏
オートモーティブ担当バイス プレジデント
メタバースで自動運転車をトレーニング:自律走行車を開発している250以上の自動車メーカー、トラック メーカー、スタートアップ企業、輸送機関、およびサービスとしてのモビリティ(MaaS)を提供するプロバイダーが、現代のAIにおける最も複雑な課題の1つに取り組んでいます。
対処できなければならないすべてのシナリオに、路上でのテストで遭遇することは不可能であるため、2023年には業界の多くの企業が仮想世界を利用することになるでしょう。
仮想フリートは展開前に新しい機能をトレーニングおよびテストするためのデータを生成し、路上でのデータ収集は仮想フリートにより補完されます。忠実度の高いシミュレーションにより、シナリオや環境の制限は事実上なく、自律走行車が走行します。
また、車両生産のためのデジタル ツインも引き続き導入が進むでしょう。このデジタル ツインにより、製造効率の改善、運用の合理化、労働者の人間工学および安全性の向上が実現します。
クラウドへの移行:2023年には、サービスとしてのソフトウェア(SaaS)とサービスとしてのインフラストラクチャ(IaaS)の提供が運輸業界にもたらされます。開発者は、クラウドサービスの包括的なスイートにアクセスして、どこでもメタバース アプリケーションを設計、展開、体験できるようになります。
チームは、AV開発シミュレーション、車載体験、クラウド ゲーミング、さらにはウェブやショールームで提供されるカー コンフィギュレーターなどの3Dワークフローを設計し、コラボレーションを行います。
車内コンシェルジュ:対話型AI、自然言語処理、ジェスチャ検出、アバター アニメーションの進歩が、デジタルアシスタントの形で次世代の自動車に採用されています。
このAIコンシェルジュは、自然言語理解を用いて、予約、車両制御へのアクセス、アラートの提供を行うことができます。
車内カメラ、ディープ ニューラル ネットワーク、マルチモーダル インタラクションによって、車両はドライバーの注意が路上にあることを確認でき、走行後に降車した際に同乗者やペットの置き去りを防ぎます。
RANとAIワークロード間のマルチテナンシーが可能になり、RANシステムの使用率が増加
ロニー ヴァシシュタ (Ronnie Vasishta)氏
通信事業担当シニア バイス プレジデント
5GネットワークによるAR/VRの無線化:多くの企業がハードウェアとソフトウェアの開発をクラウドに移行する中、世界中で5Gネットワークの完全導入が進むにつれて、エッジでの設計やコラボレーションも拡大していきます。
例えば、自動車の設計者は、拡張現実(AR)ヘッドセットを装着して、ワイヤレス ネットワーク経由で同じコンテンツを世界中の同僚にストリーミングすることができ、共同作業での変更をスピーディーに行って記録的な速さで革新的なソリューションを開発することが可能になります。
5Gはまた、店舗の棚の補充、フロアの清掃、ピザの配達、工場内での商品のピッキングと梱包といった用途で、コネクテッド ロボットが業界の垣根を越えて迅速に導入されるきっかけにもなります。
クラウド上のRAN:世界中のネットワーク オペレーターは、数十億ドルの投資をより早く回収しようと、ソフトウェアデファインドの仮想無線アクセスネットワーク5Gを展開して時間とコストを節約しています。
現在、彼らは特注のL1アクセラレータから、L2、RIC、ビームフォーミング、FHを含む 100%ソフトウェアデファインドのフルスタック5Gベースバンド アクセラレーションに移行しています。
これにより、RANとAIワークロード間のマルチテナンシーが可能になり、RANシステムの使用率が増加するでしょう。
AIにより正確な予測が可能になり、適切な製品が適切なタイミングで適切な店舗に配置
アジータ マーティン (Azita Martin)氏
小売 消費者向け製品グループ クイックサービス レストラン用人工知能担当バイス プレジデント
万引きへの取り組み:実店舗の小売業者は、一般的な問題となっているシュリンケージ (万引きを表す業界用語) に長年取り組んでいます。
非接触型レジにAIベースのサービスを採用する企業が増える中、コンピューター ビジョンと店舗分析データを組み合わせて、買い物客がレジに打った商品と実際に購入した商品が同じであることを確認する高度なソフトウェアが求められるようになります。
スマートな自己追跡テクノロジの採用により、完全に自動化された店舗体験の開発が可能になり、労働力不足と利益損失の解決に役立ちます。
AIがサプライ チェーンを最適化: どんなに優秀な小売業者やeコマース企業でさえ、この2年間は需要と供給のバランスを取るのに苦労していました。
パンデミックの間、消費者にはオンライン ショッピングが普及し、ロックダウンが解除された後は実店舗に足を運ぶ消費者が再び増えてきています。インフレ発生後は再び購買習慣に変化が現れ、サプライ チェーン マネージャーを悩ませています。
AIにより、より高頻度かつ正確な予測が可能になり、適切な製品が適切なタイミングで適切な店舗に配置されるようになります。
また、小売業者はルート最適化ソフトウェアとシミュレーション テクノロジを採用して、機会や危機をさらに全体的に把握できるようになります。
クラウドはオンプレミス ソリューションと同等の安全なコンピューティングを提供
ケビン デアリング (Kevin Deierling)氏
ネットワーキング担当シニア バイス プレジデント
崩壊寸前のムーアの法則:CPUの設計が物理法則に反してムーアの法則 (マイクロチップ上のトランジスタの数は約2年ごとに2倍になり、より高速で効率的な処理が実現するという仮定) に追いつかなくなっている現在において、アクセラレーテッド コンピューティングに移行する企業が増えていきます。
CPU、GPU、DPUなどをカスタムに組み合わせてスケーラブルなデータセンターで使用することで、より迅速にイノベーションを進めながら、クラウド指向が強まりエネルギー効率が向上します。
新しいコンピューティング プラットフォームとしてのネットワーク: PCがソフトウェア、ハードウェア、およびストレージを組み合わせて、あらゆる人が使用できる生産性向上ツールになったように、クラウドは急速にAIにとっての新たなコンピューティング ツールになりつつあります。そして、クラウドを可能にするのがネットワークです。
企業はサードパーティのソフトウェアを使用するか、独自のソフトウェアを導入して、オンプレミスとクラウドの両方で実行されるAIアプリケーションとサービスを開発するようになるでしょう。
クラウド サービス オペレーターを利用して、必要なときに必要な能力を購入し、CPU、GPU、DPU、およびインテリジェント スイッチ全体で機能させて、さまざまなワークロードに合わせてコンピューティングやストレージやネットワークを最適化します。
さらに、クラウド サービス プロバイダーは急速にゼロトラスト セキュリティの採用を進めているため、クラウドはオンプレミス ソリューションと同じくらい安全なコンピューティングを提供するようになります。
関連情報:https://blogs.nvidia.co.jp/2023/01/12/2023-ai-predictions/
構成/Ara