被害者の苦しみよりも、ストーカー本人へのインタビューと心理分析に重きを置いている本作。
敢えてストーカー視点に立ちながら事件を考えることにより、視聴者である私たちに新たな発見をもたらしてくれる。
2022年10月28日よりNetflixで独占配信中の『アイ・アム・ア・ストーカー ~歪んだ愛の果て~』は、イギリスで製作されたドキュメンタリー・シリーズ。
<あらすじ>
本作には有名なストーカー事件の加害者である、8名のストーカーが登場する(全8話)。
彼らのターゲットとなったのは、元恋人、元配偶者、同僚、同性の知人・友人など。
嫌がらせや付きまといで終わるケースもあるが、徐々にエスカレートしていき、最終的に被害者家族までを巻き込んだ暴行・殺人事件に発展することも少なくない。
しかし加害者の多くは、自身がストーカーであるという自覚すらない。
なぜストーカー犯罪は発生し続けるのだろうか。
本作では加害者と被害者、そして専門家に綿密な取材を行い、当事者の心理に迫っている。
<見どころ>
ストーカー事件といえば、男性が女性に対して恋愛感情を拗らせて・・・・・・というイメージが一般的なようだ。
本作の解説によると、アメリカで発生する年間300万件以上のストーカー事件のうち、女性の加害者が占める割合は4分の1以下であるそうだ。
第5話『差し迫った不安』
そのため、第5話『差し迫った不安』で紹介されているジャクリン・フィーギンの事件は、本作のエピソードの中でもひときわ目を引いた。
被害者は、フィーギンの夫の元恋人だった女性だ。
夫と元恋人との間には息子がいたため、ふたりは結婚後も連絡をとり続けており、そのことがフィーギンの嫉妬心を掻き立てた。
誰だって、自分の配偶者が元恋人といつまでも連絡をとり続けて楽しそうにじゃれ合っていたら、腹が立つに決まっている。
被害者女性の方も、フィーギンを嫉妬させるような行動を繰り返すなど挑発的なところが見受けられ、決して落ち度がなかったとは言えない。
ここまでは、どこにでもよくある三角関係の色恋沙汰といえる。
しかしその後フィーギンが取った行動は、まさに“ストーカー的”。
常軌を逸した“復讐”の数々に、被害者女性はきっと「怒らせてはいけない人を怒らせてしまった」と思ったはずだ。
加害者たちの単独インタビューでの印象は、話し方も表情も身だしなみも、表面上は“どこにでもいる普通の人間”と同じで、大事件を起こしたストーカーにはとても見えない。
被害者に同情したり心配するような発言もあり、他者に対する優しさや思いやりといった感情もちゃんと持っているようだ。
そして意外なことに、加害者たちがインタビューの中で静かに語る心境や言い分の中には、納得・共感できるものも少なくなかった。
このように人間らしい情緒はあるのだが、思考の仕方が異常であり、それに基づく行動が極端すぎるという印象を受けた。
ストーカー行為だけを罰しても、彼らの心の奥深くから突き上げてくる強い衝動や執着そのものを分析して理解しなければ、また何度でも自覚のないまま犯罪を繰り返してしまうだけだろう。
中には過酷な生い立ちの加害者もいるが、似た境遇でも犯罪を起こすことなく誰も傷つけずに暮らしている人もいるので、生い立ちと犯罪をすぐに結びつけることは禁物だと思う。
加害者に過度な同情や感情移入をするのではなく、ただ淡々と“理解すること”が大切なのではないだろうか。
Netflixシリーズ『アイ・アム・ア・ストーカー ~歪んだ愛の果て~』
独占配信中
文/吉野潤子