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50足の限定販売に応募が殺到!廃棄される航空機のシートカバーをアップサイクルしたルームシューズが人気

2023.01.06

■連載/阿部純子のトレンド探検隊

法人向けユニフォームの企画・生産・販売を行うオンワード商事とANAグループが、廃棄対象となった航空機のシートカバーをルームシューズにアップサイクルした「ANA特製ルームシューズ」を共同開発した。

2022年11月の初回販売では、50足限定に約2500の応募が殺到したほど大きな注目を集めた。第3回目となる1月分の予約販売は2023年1月12日から、ANAグループのANAウィングフェローズ・ヴイ王子が運営する販売サイト「ANA UP-CYCLE PROJECT SHOP」にて開始する。価格は6930円+別途送料1500円。

オンワード商事とANAのサステナブルプロジェクトから生まれたアップサイクル製品

本製品はオンワード商事が2021年から開始した大量廃棄問題解決を目的とした「オンワード商事 Re-make-upプロジェクト」と、ANAグループのSDGs、ESG経営の取り組み「ANA Future Promise」による第一弾となる。

両社共同のプロジェクトについて、ANAビジネスソリューション 照沼有紀子氏、全日本空輸 小島一哲氏、オンワード商事 髙木遥介氏、菅井奈津美氏、三島菜々子氏に話を伺った。

航空機のシートカバーは専門の業者によるクリーニングが行われるが、耐久性の観点からクリーニングの上限回数が設定されている。規定回数以下のクリーニングであっても、傷がついたものや、タグの文字が薄くなり読めないものは搭載できないというルールがあるため、クリーニング後にすべて目視で検品している。

画像のシートカバーは6回のクリーニングだが小さな傷があり(赤丸部分)、タグの文字が薄れているため廃棄対象となった。傷が無く見た目はきれいでもクリーニングの上限回数に達したものも廃棄となり、廃棄されるシートカバーは毎月数千枚ほどに上る。

「コロナ禍では航空業界として非常に厳しい状態にある時期に、ANAグループ全体で『今、自分たちに出来ることはないか』という動きが社員の間で徐々に広がっていました。社内有志の意見から、飛ばない機内レストランや、穴守稲荷神社、羽田神社とコラボレーションした御朱印帳などの事業が実現しました。

現場から航空機備品を用いた新たなANAグッズを製作できないかという意見も数千件集まり、シートカバーの検品を担当している部署から『きれいなのに廃棄するのはもったいない』という声が上がっていたことから、廃棄されるシートカバーを使ったアップサイクルのプロジェクトを2022年9月に開始しました」(ANAビジネスソリューション 照沼氏)

ANAのグランドハンドリングのユニフォームを納入しているオンワード商事にアップサイクル事業の企画を伝えたところ、衣料品の廃棄問題解決に関わるプロジェクトを発足していた同社も趣旨に賛同、連携して商品化することになった。

航空機のシートカバーは不燃性のため、航空機のシートカバーの特性を活かした他の商品も検討されたが、第一弾製品は年齢や性別を問わず使ってもらえるルームシューズに決定した。

「オンワード商事 Re-make-upプロジェクト」メンバーである髙木氏はこう話す。

「アパレル業界は大量生産、サイズ展開などの要因もあり、衣類の大量廃棄が問題になっています。営業として日々お客様と会話をしていく中で、サステナビリティへの関心は高くなってきていると感じており、取引先の企業様からも廃棄しているユニフォームや素材を何かに活用したいという声が増えていました。

そこで2021年から大量廃棄問題解決を目的とした部署横断型の『オンワード商事 Re-make-upプロジェクト』を発足。そのプロジェクトの企画段階でタイミングよくANAさんからお話を伺い、弊社としてもぜひということでシートカバーを使った製品化が決まりました」

熟練の職人が手作業で仕上げた高品質なルームシューズ

ANA特製ルームシューズは、スリッパ生産量で日本一を誇る山形県河北町に位置する株式会社後藤で職人が一つひとつ丁寧に手作りした製品。シートカバーから製品にできる部分を目で確認し、生地の特性を活かしながら、型取り、裁断、ミリ単位での縫製をすべて手作業で仕上げている。

「山形県河北町はスリッパの生産日本一の場所で全盛期は28社ありましたが、次第に海外に生産が移管するようになり、現在残っているのは4社だけで『後藤』はその1社です。後藤重美社長によると、海外製と差別化するために高品質を打ち出すことで生き残ってきたそうです。

格子柄やボーダー柄は同じ方向になるような縫い合わせが必要で、何枚も布を重ねてふんわりとした風合いを作り、薄めのウレタンを入れて快適な製品に仕上げています。すべてのパーツが手作りであり、職人さんの技術によって作られた高品質のルームシューズです」(オンワード商事 菅井氏)

「アップサイクル事業も『ANA Future Promise』の取り組みのひとつです。社内の様々なところから廃棄物が出ますが、各担当部門の現場から上がる『もったいない』という声を受けて、ANAグループ全体で廃棄物を一覧化し整頓して、リサイクルや省エネ化に結び付けていくことを打ち出しています。機内のカトラリーなど、生地以外でも再利用できるものがあれば、アップサイクルに利用できるか検討を重ねています。

完成したルームシューズの品質の高さには弊社の役員も一目惚れしたほど。実際に製作する場を拝見しましたが、非常に細かい作業で丁寧に作られており、高品質なのも当然だと実感しました」(全日本空輸 小島氏)

ルームシューズ製作にはシートカバーの座面、背面の双方を使用しているが、M・L・LLの3サイズあり、Lサイズ以上は座面だと3枚ほど必要になる。ルームシューズは型を抜いて使うためシートカバーをまるごと利用できないことから、余った部分をどう活用するかが今後の課題だという。

初回の販売では予想以上に反響が大きかったが、ANAグループでは廃棄自体を減らす努力を行っているため、廃棄シートカバーもコロナ以前には月数千枚だったものが、現在は月に約1000枚と廃棄量自体が少なくなっており、50足が限度だったとのこと。

「廃棄量が少なくなるのは良いことではありますが、使えないシートカバーが出てこないと製品化することができないので、ANAグループ内にシートカバー以外でも廃棄対象の生地で活用できるものがないか確認しています。今後も私たちに出来ることからアップサイクルの追求とさらなる促進に努めたいと思っています」(照沼氏)

ルームシューズに使われているシートカバーは、ボーイング767・787型機(上)、ボーイング737型機(中)、プロペラ機のボンバルディアDHC8-Q400型機(下)の3種類。購入の際は第1~3希望まで募るが、思い入れのある機種の物が欲しいとボンバルディアDHC8-Q400型機の一択という購入希望者もいたそうだ。

応募の際にはメッセージも多く寄せられ、「ずっと使っている路線で愛着のある機種の生地だから」といったANAのユーザーが多かったが、3割ほどは「山形の地域産業を応援したい」、「体が不自由で飛行機に乗ったことがないが、ルームシューズを購入することで旅の気分を味わってみたい」など、ANAを利用したことがない人からの応募もあった。

「親がよく使っていた機種のシートなのでサプライズで贈りたいなど、両親や配偶者にプレゼントを希望する方も一定数いて、思い出につながる製品として付加価値を感じている方が多いという印象を受けました」(照沼氏)

【AJの読み】両社の社員の声が結集し、企業の垣根を超えたアップサイクル事業に結実

オンワード商事では、ANA特製ルームシューズのほか、地方自治体と連携しビーチや河川の清掃に参加、漂着ペットボトルを回収して繊維化・製品化する取り組みや、コロナ禍で顕在化したフラワーロス削減につながる薔薇染めのタオルを「はなさく生命」がノベルティで採用するなど、2022年は計5件のアップサイクルプロジェクトを手掛けた。

ANAグループでもルームシューズに先立ち、ルートートと共同で廃棄予定の整備作業着から作ったバッグを販売するアップサイクル事業を行っている。こちらも社員の一人が「廃棄予定の作業着の生地を再利用できないか」、「自分たちの想いの入った作業着を蘇らせる事はできないか」と思い付き、約3年をかけてバッグとして甦らせた。

オンワード商事、ANAグループ両社とも、社員が現場で感じた「もったいない」という声から端を発し、やがてそれが社を動かす大きな動きとなり、部署を横断し、企業の垣根を超えて「アップサイクル」という共通の事業に結びついた。

ANA特製ルームシューズはバブーシュ型で、かかとを倒すとスリッパ、かかとを起こすとルームシューズとして使える2ウェイタイプ。光沢のある素材感や、職人技が光る美しい仕上がりで、シートカバーから作られたとは思えないクオリティの高さを感じる。

高級感のあるルームシューズとして購入希望者も多いと思われるが、いかんせん原材料が廃棄予定のシートカバーであり、職人が手作業で製造するため、毎回数が限られており予約抽選は必至。抽選で外れた場合でも次回への持ち越しはないため、入手できるまで地道に応募し続けよう。

スリッパは使い捨ても多いが、本製品は長く使い続けられるように中性洗剤で手洗いが可能。今後は修理の受付も検討しているとのことなので、運よく購入できた際には末永く愛用したいものだ。

文/阿部純子

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