家族が亡くなった際には、遺産を相続人の間で分割することになります。
誰が相続人になるかは、被相続人との続柄に応じて決まります。遺産分割を行う前提として、相続人を正しく確定しなければなりません。
今回は、遺産を相続できる人(相続人)の決定ルールについて、実務の観点からまとめました。
1. 相続人の主な権利内容
民法のルールに従って相続人となった人は、主に以下の2つの権利を有します。
・遺産分割に参加する権利
・遺留分を確保する権利
1-1. 遺産分割に参加する権利
亡くなった被相続人が残した相続財産(遺産)は、相続人全員の共有となります(民法898条)。
したがって、遺産分割は相続人全員の協議・合意によって行うのが原則です(民法907条1項)。相続人には、遺産分割協議に参加する権利があります。
もし遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所の調停・審判によって遺産分割の方法を決めます(同条2項)。その場合にも、相続人は遺産分割調停・審判に参加する権利があります。
いずれの手続きによる場合でも、相続人は遺産の共有者の一人として、遺産分割に参加する権利を有するのです。
1-2. 遺留分を確保する権利
被相続人は、遺贈(遺言による贈与)によって遺産を与える人を自由に決められます(民法964条)。また、贈与によって生前に財産を譲り渡すこともできます。
しかし、遺贈や贈与が行われた場合は相続財産が減るため、相続人の取得できる遺産が少なくなってしまうことがあります。この場合、兄弟姉妹(または甥・姪)以外の相続人であれば「遺留分」を確保することが可能です。
遺留分とは、相続できる遺産の最低保障額です(民法1042条)。遺留分未満の遺産しか取得できなかった場合は、遺産を多く取得した者に対して「遺留分侵害額請求」を行うことで、不足分の金銭の支払いを受けられます(民法1046条)。
2. 遺産を相続できるのは誰?
上記のように、相続人には遺産分割に参加する権利と遺留分が認められるため、誰が相続人になるかは非常に重要な問題です。
民法によれば、大要以下のルールに従って相続人が決まります。
・配偶者は必ず相続人となる
・配偶者以外は、相続順位の最上位者のみ
2-1. 配偶者は必ず相続人となる
被相続人の配偶者は、常に相続人となります(民法890条)。
配偶者については生活保障の観点から、遺産分割や相続税について、以下のような特別の制度が設けられています。
・婚姻期間20年以上の場合における持ち戻し免除の推定(民法903条4項)
・配偶者居住権(民法1028条)
・配偶者短期居住権(民法1037条)
・配偶者の税額の軽減(相続税法19条の2)
など
2-2. 配偶者以外は、相続順位の最上位者のみ
配偶者以外に相続人となるのは、次の項目で解説する相続順位の最上位者のみです。
被相続人の子が相続人となる場合が多いですが、子がいない場合は他の者に相続権が移っていきます。
3. 相続順位まとめ|実務の観点から解説
民法に従うと、配偶者以外の相続人は以下の順位に従って決まります。。
子→直系卑属→直系尊属→兄弟姉妹→甥・姪
(1)子
配偶者以外の者の中で、相続順位が最上位なのは被相続人の「子」です(民法887条1項)。
相続欠格(民法891条)・相続廃除(民法892条)・相続放棄(民法939条)によって相続権を失わない限り、相続開始時点で存命中の子は相続人となります。
(2)直系卑属(孫、ひ孫……)
被相続人の子が死亡・相続欠格・相続廃除によって相続権を失った場合は、さらにその子(被相続人の「孫」)が相続人となります(民法887条2項)。これを「代襲相続」といいます。
被相続人の孫も相続権を失った場合は、さらにその子(被相続人の「ひ孫」)が相続人となります(同条3項)。これを「再代襲相続」といいます。玄孫以降も同様です。
なお、相続放棄では代襲相続は発生しません(再代襲相続も同様)。
(3)直系尊属(父母、祖父母……)
被相続人の子・直系卑属(孫・ひ孫など)の次の順位に来るのが、被相続人の「父母」です。
父母が両方いない場合は「祖父母」、祖父母も両方いない場合は「曾祖父母」というように、先代へと遡っていきます(民法889条1項1号)。
被相続人が若くして亡くなってしまったようなケースでは、直系尊属が相続人となることがあります。
(4)兄弟姉妹
直系尊属の次の順位に来るのが、被相続人の「兄弟姉妹」です(民法889条1項2号)。
亡くなった被相続人に子どもがおらず、両親がすでに両方他界している場合などには、兄弟姉妹が相続人となります。
(5)甥・姪
被相続人の兄弟姉妹が死亡・相続欠格・相続廃除によって相続権を失った場合は、その子(被相続人の「甥・姪」)が相続人となります(民法889条2項)。孫が相続人になる場合と同様、甥・姪による相続も「代襲相続」に当たります。
ただし、ひ孫による再代襲相続が認められているのとは異なり、甥・姪の子による再代襲相続は認められていません。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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