借金の返済負担が重すぎて苦しんでいる方は、債務整理が解決策になり得ます。借金の減額・免除や返済スケジュールの変更などにより、生活を抜本的に改善できるかもしれません。
債務整理については、「財産が没収される」「ブラックリストに載る」などのイメージをお持ちの方もいらっしゃるかと思います。
悪いイメージが先行して、
「債務整理をすると生活できなくなるのでは?」
などと心配する方も見られますが、実際のところはどうなのでしょうか? 法律・実務の観点からまとめました。
1. 債務整理をすると財産は没収されるのか?
債務整理には「財産が没収される」というイメージが根強いところですが、実際に財産が没収されるかどうかは手続きによって異なります。
1-1. 任意整理の場合|財産は没収されない
「任意整理」は、債権者と個別に交渉して債務の減額などを認めてもらう手続きです。
任意整理の場合、基本的に債務者の財産が没収されることはありません。
1-2. 個人再生の場合|没収されるのは担保権付きの財産のみ
「個人再生」は、原則として債権者全員との間で、再生計画に基づき債務の減額などを取り決める手続きです。
個人再生手続きの中では、債務者の財産が没収されることはありません。その一方で、担保権が設定された財産については、手続き外で担保権が実行されて没収される可能性が高いです。
ただし、住宅ローンの残った(金融機関の抵当権が設定されている)自宅の土地・建物については、再生計画で「住宅資金特別条項」を定めることにより、没収を回避できる可能性があります。
1-3. 自己破産の場合|没収される財産とされない財産がある
「自己破産」は、財産の処分と引き換えに債務全額を免除してもらう手続きです。そうは言っても、すべての財産が没収されるわけではありません。
まず、裁判所による破産手続開始の決定以降に取得した財産は、一切没収されず手元に残せます。
破産手続開始の決定時点で持っていた財産は、原則として没収されてしまいますが、以下の財産については対象外です。
(1)99万円以下の現金(破産法34条3項1号)
(2)差押禁止財産(同項2号)
(例)
・生活必需品
・1か月間の生活に必要な食料、燃料
・事業のために不可欠な財産
・未公表の発明、著作
・年金債権
・生活保護費
など
(3)債務者の生活状況等を考慮して、裁判所によって特に認められた財産(拡張された自由財産。同条4項)
(東京地裁における基準)
・総額20万円以下の預貯金
・見込み総額20万円以下の生命保険解約返戻金
・見込み処分額20万円以下の自動車
・居住用家屋の敷金債権
・電話加入権
・退職金債権の8分の7相当額(退職金額が160万円以下の場合は全額)
・家財道具
特に財産をほとんど持っていない方については、自己破産をしても財産がまったく没収されないケースが多いです。
上記のとおり、自己破産をしたとしても、将来得る収入や生活保護費などは確保できるため、生活が成り立たなくなることはありません。
2. 債務整理をすると、何ができなくなるのか?
債務整理をした事実は、個人信用情報機関のデータベースに「事故情報(異動情報)」として登録されます。これは俗に「ブラックリスト入り」と呼ばれています。
事故情報の登録期間は、以下のとおりです。
|
任意整理 |
個人再生 |
自己破産 |
全国銀行個人信用情報センター(KSC) |
5年 |
10年 |
10年 |
株式会社シー・アイ・シー(CIC) |
5年 |
5年 |
5年 |
株式会社日本信用情報機構(JICC) |
5年 |
5年 |
5年 |
事故情報の登録期間中は、以下の不利益が発生します。
(1)新規の借入れができなくなる
金融機関の与信審査に通らないため、ローンを組むことができません。
(2)クレジットカードを利用できなくなる
カード会社の与信審査に通らないため、クレジットカードを作れません。また、利用中のクレジットカードについても、途上与信が行われる段階で強制解約となります。
(3)携帯電話端末を分割払いで購入できなくなる
携帯電話端末を分割払いで購入する際にも、事故情報の有無等がチェックされるため、本人名義での分割払い購入はできなくなります。
(4)保証会社による保証を受けられなくなる
保証会社の与信審査に通らず、保証を受けられなくなります。たとえば、保証会社による保証が必須の賃貸物件には入居できなくなる点に注意が必要です。
(5)奨学金の保証人になれなくなる
貸与型の奨学金を借りる場合には、保証人を付すことを求められます。事故情報が登録されていると、子どもの奨学金の保証人になることができないため、別の保証人を探さなければなりません(配偶者や他の親族など)。
債務整理をする場合は、上記の不利益が5年または10年程度続くことを念頭に置いておきましょう。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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