デジタルコンテンツ流通の新サービスがぞくぞく登場
最近ではデジタルコンテンツを流通させる新しいサービスがぞくぞく登場している。2つのサービスの担当者にこれからのトレンドを聞いた。
1)Web3.0時代の新しいデジタルコンテンツ流通を実現する新ソリューション「DC3」
株式会社&DC3(アンドディーシースリー)が2022年12月7日に新ソリューション「DC3」を発表した。様々なデジタルサービスに組み込むことでWeb3.0の様々な要素をデジタルサービスに簡単に取り入れることができるソリューションだ。
同社はイラスト・マンガ・Webtoon・アニメーション制作アプリ「CLIP STUDIO PAINT」や電子書籍ソリューション「CLIP STUDIO READER」などのコンテンツ制作・流通・閲覧にまつわるソリューションの提供を行っている株式会社セルシスの100%子会社として2022年に設立されたこともあり、これまでデジタルコンテンツとクリエイターに親しんできた。
現在稼働している「配信」型のデジタルコンテンツサービスへ、DC3を組み込むことで、課金、顧客管理、コンテンツ管理などの従来のシステムはそのままに、Web3.0時代に向けたコンテンツの「流通」サービスへ容易に転換することができる。
DC3を用いれば、デジタルコンテンツは、唯一無二のモノとして扱うことができる。そのため、サービス内では権利者の許諾を条件に、デジタルコンテンツの二次流通や貸し借り、加工・編集、コンテンツのサービスをまたいだ活用も可能になる。
●開発に至った背景
DC3の同ソリューションの構想に携わった同社の取締役会長を務める川上陽介氏は、開発の背景として業界の課題を感じていたという。
「中央集権型のサービスは、1箇所にコンテンツが集約され、そこから配信されているので、利用者にとってそのサービス自体がなくなったり、アカウントを削除されてしまったりすると、自分が購入していたもの、例えば本であれば、それがまったく読めなくなってしまいます。これが中央集権の一番の弊害だと思います」
●Web3.0時代の新しいコンテンツ設計はどうなっていくか
Web3.0時代の新しいコンテンツ設計の方向性について、川上氏は次のようにコメントする。
「コンテンツそのものがリアルのイベントの入場券になったり、ゲームの中で遊んでいたアイテムを3Dのデータ出力センターへ持っていけば現物になったりと、いろんな使い方ができていくと思います。応用については、これからスタートかなと思います。
DC3ではコンテンツの中身や使われ方は問いません。コンテンツの元データとそのデータを見るためのプレイヤーやビューワーは誰でも自由に作れます。それをDC3に導入し、サービスの利用者がそのプレイヤーを使ってコンテンツを見られるという仕組みなので、コンテンツ設計に関してもさまざまなトライをしていただけるプラットフォームかと思います」
●今後の「デジタルコンテンツ流通」のトレンド
今後、デジタルコンテンツの流通に関して、どのようなトレンドが起きていくだろうか。
「『配信』が『流通』に変わる、というのが一番大きなトレンドです。個人にコンテンツが紐づくことで、今までやりたくてもなかなかできなかったことができるようになります。ユーザーが様々なサービスから色んなコンテンツを手に入れて、それをまとめて自分のコレクションとして人に見てもらいたいものだけを整理して3Dの形で展示する。そういうことはこれまでデジタルコンテンツの世界ではできなかったので、それがトレンドになってほしいと思います。新しいWeb3.0の中でコンテンツを使うという文化を、日本から世界に発信できれば良いと思います」
2)Web3.0時代の新しい映像配信プラットフォーム「Roadstead」
映像制作・管理者向けクラウドデータ共有・配信サービスなどを手がける株式会社ねこじゃらしは、Web3.0時代の新しい映像配信プラットフォーム「Roadstead(ロードステッド)」を2022年12月6日に正式リリースした。
Roadsteadは、ブロックチェーン技術とDRM(Digital Rights Management/著作権保護)技術を組み合わせることで、映像の著作権者が安全にコンテンツを発表することができるほか、従来のメディア配信プラットフォームのような「作り手」から「受け手」への一方通行的なコンテンツ流通と異なり、「受け手」自身が積極的に作品の流通に関わることを可能にしているのが特徴という。
作品の権利者は、利益配分のルールを完全にコントロールできる。そのルールはブロックチェーン上に記録され正しく運用される。ユーザー側は作品を鑑賞するだけでなく、NFTとして販売することで流通に参加できる。作品はDRMで保護されているため、ユーザー含め、権利者以外が複製や改変をすることが不可能となる。
●「受け手」自身が積極的に作品の流通に関わることを可能に
Roadsteadは、単に作品売買のマーケットプレイスを提供するだけでなく、作品を鑑賞したり、オンライン上映会を開催したり、デジタルサイネージに飾って楽しむなど多様な作品の活用方法を提供する。
正式リリースと同時に配信したコンテンツは株式会社スカイAとの共同制作で、世界的なプロクライマー・安間佐千氏の密着ドキュメンタリー映像3部作の第1弾。
「Roadsteadへの出品や参画を希望される声は、すでに様々な方面から多数いただいております。例えば著名な映画監督、音楽プロデューサー、オリンピックのメダリスト、 ダンスパフォーマー、地方自治体など、多岐のジャンルに渡ります」(ねこじゃらしRoadstead担当者)
●今後の「デジタルコンテンツ流通」のトレンド
今後、デジタルコンテンツの流通に関して、どのようなトレンドが起きていくだろうか。
「誰もが動画を気軽に配信できるようになった昨今、プロの映像作家が、自らのクリエイティブ活動によって収益を得て、生計を立てていくことが容易ではない時代が続いています。その背景には、有料動画配信サービスがサブスクリプションなどの薄利多売を前提にした収益システムになっており、仮に映像作品がヒットしても、収益の大半はプラットフォーマーや版権者によって分配され、クリエーター自身が得られるインセンティブは非常に限られているという、ビジネス構造があります。
一方、Roadstead は、クリエーターが自身のクリエイティブ作品、あるいはパフォーマンス映像を希少性のあるアイテムとして自由な価格設定で販売し、ファンがそれをアート作品のように購入し、二次販売、レンタルすることができます。ファンが映像の流通に関わることで、そのクリエーターを金銭的に支援するという文脈は、アイドルなどに見られる『推し文化』やクラウド・ファンディングにも通じるものがあります。
Web3.0 時代になれば、ユーザーは一消費者ではなく、マーケットやコミュニティを構成するメンバーとして主体的に参加するという、薄利多売型とは別のエコシステムが、トレンドというより、一形態としてノーマルになっていくと考えています」
新しい時代のコンテンツ設計は、さまざまなプラットフォームが環境として整っていくなかで、自由なアイデアでユーザーを惹きつける設計を行っていけそうだ。一方でNFTによるコンテンツは従来とは異なる課題もある。コンテンツ設計を行うビジネスパーソンは、ぜひトレンドを押さえておこう。
【取材協力】
水野 和寛氏
株式会社Minto 代表取締役
2011年に株式会社クオンを設立。インターネット発のキャラクター事業を展開し、世界中のチャットアプリと提携し、スタンプのダウンロード数はおよそ50億件で世界一。中国、タイ、ベトナムに支社を展開中。2018年からブロックチェーン/NFT領域で事業を開始し、CryptoCrystalのNFTは世界的なトレンドに。2021年からThe Sandboxや Decentralandなどのブロックチェーン系メタバースとコンテンツ提携中。2022年1月に国内No.1のSNS漫画事業を手がけるwwwaapと経営統合し、株式会社Minto 代表取締役に。一般社団法人 メタバースジャパン アドバイザー、経産省「Web3.0時代におけるクリエイターエコノミーの創出に係る実証事業」オブザーバー、Licensing International Japan 理事を務める。
川上 陽介氏
株式会社セルシス 株式会社&DC3 取締役会長
1991年、株式会社セルシスを設立。日本初のアニメーション制作ソフト「RETAS!PRO」を提供し、その後、世界初のモバイル端末に向けたコミック配信ソリューション「ComicSurfing」や、世界初のマンガ制作ソフト「ComicStudio」など、設立以来コンテンツ制作・流通・閲覧の分野で、デジタル技術を通じて様々なソリューションを提供し続けており、現在提供しているイラスト・マンガ・Webtoon・アニメーション制作アプリ「CLIP STUDIO PAINT」は、全世界のクリエイター2,500万人に利用されている。
2022年、セルシスの100%子会社として、株式会社&DC3設立。あらゆるデジタルデータを唯一無二の“モノ”として扱うことができるようにするWEB3基盤ソリューション「DC3」を提供。同ソリューションの構想、設計に携わり、現在、同社の会長を務める。
取材・文/石原亜香利