昔懐かしいお菓子のおまけ。ミニカーやカードなどはお菓子よりも開けるのが楽しみで、集めるのにも夢中になったものだ。そんな食玩といえば「グリコ」のおまけが思い付く。誰しも幼少期に一度は買ったことがあるのでは? 先日、創立100周年記念として、栄養菓子「グリコ」の特別版「クリエイターズグリコ」が発売され、話題を呼んでいる。その食玩の原型制作を手掛けた海洋堂に、制作秘話や食玩の現状、未来についてインタビューを行った。
10名のクリエイターが手がけた栄養菓子「グリコ」
栄養菓子「グリコ」は100年前の 1922年(大正11 年)に誕生したお菓子で、当時、キャラメルとおもちゃがセットになった商品として売り出された。発売から進化を遂げ、現在までに約3万種類、約55億個ものおもちゃがつくられてきた。
そして同社が100周年を迎えた今年2022年、いまをときめく日本のクリエイター10人によるデザインで「グリコ」のおもちゃが誕生した。
「クリエイターズグリコ」のパッケージ2種 各935円(税込)
2022年11月22日から、おもちゃ1個・キャラメル4粒のセットを税込935円で全国のセブン-イレブン(※販売のない店舗もあります)、グリコダイレクトショップなどのECサイトにて数量限定販売中。
ECサイト予約限定販売品として、クリエイターごとのおもちゃの色違いが3個セットになった「クリエイターズBOX」(税込3,990円)10種、全クリエイターのおもちゃが10種セットになった「コンプリートBOX」(税込14,990円)もある。
クリエイターズグリコ「クリエイターズBOX」(写真は隈研吾氏版)3,990円(税込)
クリエイターズグリコ「コンプリートBOX」14,990円(税込)
同梱のキャラメルは、栄養素グリコーゲンを含む牡蠣エキスに加えて、ローストしたカカオマス、凍結粉砕したアーモンドが練り込まれている。
クリエイターたちは「心の中にあるグリコ」をテーマにデザインし、それを世界的なフィギュアメーカー海洋堂が造形製作した。
10名のクリエイターを選んだ理由
同社の健康事業マーケティング部 江川直氏は本商品の発表会において、次のようにコメントしている。
「100周年を機に、私たちは存在意義であるパーパスを『すこやかな毎日、ゆたかな人生』に定めました。創業者は、心と身体の両方で健やかになるため子どもは食べることと遊ぶことが2大天職であると考え、美味しいキャラメルとおもちゃを一緒にした商品として栄養菓子『グリコ』発売しました。今回は、そのおもちゃを10名のクリエイターにそれぞれのグリコへの想いを乗せて作ってもらいました」
建築家の隈研吾氏や、ゲームデザイナーの堀井雄二氏をはじめとした10名のクリエイターを選んだ理由やアイデアを見た感想として「グリコに共感いただけそうな方々に声をかけた中で、気持ちが一緒になった10名でした。運命的にそろった10名で本当に光栄です。クリエイターのみなさんからのアイデアを見たときには、非常にワクワクしました。試作品ができたときには、アイデアが形になる貴重な場面に立ち会えました」と江川氏は述べた。
10人のクリエイターがデザインしたおもちゃの原型製作を手掛けた海洋堂にインタビュー
今回、10種類のおもちゃの原型製作、つまり実際におもちゃの造形を行った海洋堂は、フィギュアや食玩等の各種模型を製作する会社だ。今回、創業者・宮脇修氏の息子であり、取締役専務の宮脇修一氏に制作秘話を聞いた。
今回の10種類のおもちゃのデザインを手掛けたクリエイターと原型製作者(すべて海洋堂所属)は以下の通り。
1.四駆ゼンマイ探検車
2.木橋ミュージアム
3.絶滅危惧種スタンプ(マレーバク)
デザイン制作:コンセプター 坂井直樹氏
原型制作:松村しのぶ氏
4.さわれるビジュアルプログラミング
デザイン制作:プロクラフター タツナミシュウイチ氏
原型制作:神尾直紀氏
5.リサイクルプラのミリーちゃん
6.はたらくくるま
デザイン制作:クリエイティブコミュニケーター・デザイナー 根津孝太氏
原型制作:谷明氏(本体)、水田帆南氏(LOVOT,女の子)
7.ジュエルエージェント・ベティレイ
デザイン制作:ゲームクリエイター・脚本家 日野晃博氏
原型制作:大嶋優木氏
8.牛若丸と弁慶 五条大橋の戦い
デザイン制作:イラストレーター ヒョーゴノスケ氏
原型制作:榎木ともひで氏
9.ぼうけんのへや
デザイン制作:ゲームデザイナー 堀井雄二氏
原型制作:大津敦哉氏、坂本翔太郎氏、水田帆南氏
10.MYメリーゴーラウンド
デザイン制作:アーティスト 増田セバスチャン氏
原型制作:仲井彩美氏
クリエイターズグリコの原型製作を行った感想について、宮脇氏は次のように述べる。
「グリコさんから依頼を受けたときからコメントしていますが、これだけ多くのすごい才能を集結させたプロジェクトで、そんな方たちとお話をし、どのような造形物をつくるのか打ち合わせを重ねながら、その都度『こんな贅沢な仕事していて良いのかね?』と思いながらお仕事していました。本当に大変光栄なお話でした」
製作した中で、苦労話を尋ねたところ、次のように話す。
「大童さんの『四駆ゼンマイ探検車』というゼンマイカーは苦労しました。これまで海洋堂では動力を使った作品を手掛けたことがなく、また四輪駆動というものはなかなかの難題でした。無事に完成して安心しています」
絶滅の危機!? 食玩の今と未来
海洋堂は1964年に模型店として創業。80年代には宮脇氏が若き造形作家を率いて、小売業から自らものづくりを行うメーカーへと転身させた。その後、アニメや特撮ヒーローのキャラクターに留まらず、動物、生物や昆虫、恐竜など、他が手を出さない分野を開拓することで、同社を国内外で高い評価を受ける造形集団へと育てていった。
その名が広く世間に認識されたのが、2000年頃に造形を手掛けた「日本の動物コレクション」(チョコエッグ)に始まる、社会現象にまでなった食玩ブームだった。
当時はおまけとしか認識されていなかった食玩と、海洋堂の造形力を結びつけることで、宮脇氏は「フィギュア」という言葉を一般層にまで広げることに成功した。
以降も著名なアーティストや国内外の有名ミュージアム、大型展示イベントなどとのコラボレーションを主導。マニアにとどまらない一般層の支持も集めることで、様々なジャンルでヒットフィギュアを発明し続けている。毎年二回、世界最大の造形の祭典「ワンダーフェスティバル」を実行委員長として主催している。
●ビックリマンチョコとエヴァンゲリオンとのコラボも
2020年にはロッテ「ビックリマンチョコ」と映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」公開のタイミングにあった「エヴァンゲリオン」とのコラボ企画において、「エヴァックリマン海洋堂フィギュア付きチョコ」の製作を手掛けた。ラインアップは、エヴァクライスト初号機、スーパーシンジゼウス、碇シンジ、式波・アスカ・ラングレー、綾波レイの5作品。
ビックリマンコラボシリーズとして、シール以外のおまけをつけること自体、初めての試みだったという。
「ロッテさんとの久々のコラボ、しかもビックリマンを絡めての製品化ということで、私より若いビックリマン世代の担当者が異常にやる気を出して取り組んでおりました」(宮脇氏)
そんな食玩のトレンドの立役者である同社が、100年もの歴史あるグリコのおもちゃの原型製作を手掛けたのは納得がいく。
●食玩の未来
しかし、そんな食玩の懐かしさや貴重な日本の文化に浸っていても、現状はそう明るいものではないようだ。宮脇氏は、食玩のリアルな現状について次のように述べる。
「食玩バブルがあった20年前より、進化したことはほとんどないと思います。逆に工場の減少、賃金の高騰、中国本土でのフィギュア市場の拡大の他、諸々の理由による価格の高騰、販売数の減少による製造原価の高騰により、食玩という市場は絶滅の危機に瀕しているといえますね 」
食玩の持続可能性については、これからの課題といえそうだ。今後の展望について、宮脇氏は次のように述べた。
「お菓子のおまけというフィギュアのまったく新しい市場を誕生させて20年以上経ちましたが、まだ思い描いていた『フィギュアが普通に楽しめる時代に』は至っておらず、まだまだ頑張らないといけないと思っております。今のおまけフィギュア市場も含めて、もっともっと新しいことに取り組まないといけないと感じております」
今のタイミングで「クリエイターズグリコ」が作られたことは、まるで食玩の絶滅の危機を示唆するかのようにも思える。ぜひ今後の進化に期待したい。
【取材協力】
宮脇修一氏
1957年生まれ。創始者・宮脇修の実子。愛称「センム」の名で呼ばれる人物。その人生観・生き方は役職を超えて、海洋堂そのものを体現している。
海洋堂は1964年に一坪半の模型店として創業。80年代には、若き造形作家が集う梁山泊となった海洋堂を主導。小売業から自らものづくりを行うメーカーへと転身させることで、日本のガレージキットシーン誕生の仕掛け人にして、その発展における最重要人物の一人となった。還暦を超えてなお模型や造形物への愛は醒めることなく、私人として集めたプラスチックモデルは4万点超という世界一のコレクターでもある。
著書に「造形集団海洋堂の発想」、「好きなことだけで生き抜く力」がある。
取材・文/石原亜香利
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