私は東京に住んでいるのですが、最近街中でよく見かけるのが電動キックボード。しかもレンタル電動キックボードが多く、システムとしてはまずアプリで会員登録。そして街中にある電動キックボードステーションで車体のQRコードを読み取り、目的地のステーションを設定したらライド開始、ってわけです。レンタサイクルと全く同じシステムですね。
一時期ヘルメット必須なんて話もありましたが、2022年10月現在、小型特殊自動車扱いとなるので普通自動車免許があればOK。ヘルメット着用は任意とのことです。走行は歩道ではなく、ほかの自動車と同じ車道。クルマを運転される方々は道の左端でブイーンと鈍足で走行する電動キックボード勢を見かけたことあるんじゃないでしょうか(そして少しイラッとしたこともあるのでは?)。
この電動キックボード、安全面はどうなんだ! という話で賛否が分かれるところらしいのですが、それが日本らしいなあと眺めております。新しいものが入ってくるとダメな面を指折り数えて、「これがリスクだからダメだ!」と石橋バキバキクラッシュする感じ。それを言ったら自動車だって殺人マシンだし、包丁だって殺傷凶器なわけで。リスクがないものなんてないんじゃないか、と私は思うんですけどね。
風当たりの強さ、偏見の起源は?
で。私、この電動キックボードの流行が遅いなあと正直感じております。というのも2018年頃にパリやLAに行った際、街中に電動キックボードがあふれておりまして、しかも日本と大きく違うところが「ステーションがない」ということ。すなわち街のどこでも乗り捨てOKなんです。
なので、店の前だろうが民家の前だろうが好き勝手に電動キックボードが乗り捨てられていて、アプリを立ち上げると地図上でどこに電動キックボードが乗り捨てられているかが一目瞭然で、あとは日本と同じ手順でレンタルしてブイーンと行って、目的の観光地とかレストランに着いたら適当に乗り捨てます。もちろん車道オンリーなのですがパリの美しい街並みを手軽にスイースイーと乗り回すのはエレガンスざます。
一方、LAの街をチャイナタウンから危険地帯スキッドロウを越えてホテルまで帰っていくのは大変に楽しかったです。歩いて観光していてちょっと疲れたらキックボードつかまえてラクするってのも利便性が高かったです。これからインバウンド需要をがんばらなければいけない日本において大きな武器になると私は見ています。
しかし、電動キックボードへの風当たりの強さ、偏見めいたものってなんだろうと考えた時、2000年あたりのキックボードブームを思い出しました。99年頃に日本に入ってきた折りたたみキックボード。もちろん電動ではないですがこれが大ブームになったんですよね。持ち運びが便利なので鉄道利用の若者が駅までキックボードで行って電車に乗り、駅から降りたら目的地までキックボードで向かうというふうにブームになりました。さらにスケボーはハードルが高いと思っていた人々にとって、気楽に乗れるボードゆえファッションアイテムにすらなりました。
しかし若年層が法律無視で傍若無人に乗り回した結果、事故などが増え、一気にキックボードのイメージが低下。「ガキが乗るもの」として文字どおり子供たちが公園で遊ぶものとして落ち着きました。「大の大人が乗るものじゃない」というイメージがつけられたのではないでしょうか。そもそもスケボーも街でヤンチャな若者が乗るものというイメージが強く、車輪のついたボードへの偏見はもともとあったのかもしれませんね。
かくしておこちゃま用として定着したキックボードが電動になり、普通免許が必要となったことによってフェーズが変わったかのように見えますが、根づいた偏見、そしてコロナ前によく見た外国人による仮装カートの列のようなイメージの悪さ、これらを過去のキックボードの栄枯盛衰からきっちり学んで、今につなげる必要は急務だと思いますがいかがでしょう?
日本のあちこちを平和にスイスイしたいものですね!
文/ヒャダイン
ヒャダイン
音楽クリエイター。1980年大阪府生まれ。本名・前山田健一。3歳でピアノを始め、音楽キャリアをスタート。京都大学卒業後、本格的な作家活動を開始。様々なアーティストへ楽曲提供を行ない、自身もタレントとして活動している。
※本記事は、2022年11月16日に発売された雑誌「DIME」1月号に掲載された記事を転載したものです。