■連載/あるあるビジネス処方箋
前回と今回は、「ブーメラン社員」について取り上げたい。退職した社員が何らかの事情で再び入社し、復帰する制度は「出戻り制度」として知られていた。最近は、「ブーメラン制度」などと紹介されるようになった。
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本来、退職した人の入社を認めるのは経営する側にとってリスクがあるはずだ。にも関わらず、受け入れる背景には何があるのだろうか。その社員は復帰後、何を感じているのだろうか。前回と今回は、ブーメラン社員と受け入れた会社を経営する社長に取材を試みた。
取材対象は、ヒーターの製造メーカー・スリーハイ(横浜市)の男澤誠 代表取締役社長と営業事務・斎藤恭子さん。スリーハイは、職人の技師がオーダーメイドで産業用、工業用ヒーターを制作・販売する。現在、パート社員などを含め、従業員数は41人。
Q、再入社した時は、どのような思いでしたか?
斎藤:2022年5月に実際に復帰する際には、怖いものがありました。私が2021年2月末に退職した後に入社したパート社員の方が10人程いたり、仕事の進め方が多少変わったり、社内のルールに変更があったりして戸惑うものがあったのです。以前とは違う会社のようでした。会社全体に勢いを感じ、皆についていくことができるかなと思いました。
男澤:DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めていることもあり、確かにルールや仕事の仕方は少しずつ変わってはいるでしょうね。
斎藤:ブランクがあると、いろいろな意味で必死になります。求められる仕事の技能もどんどんと上がり、それをマスターするのも大変で、私なりに懸命にがんばっています。
社長が気をつかってくださったのです。入社して数週間は、自社のホームページに社内で制作した記事を整理して、アップする比較的簡単な作業を与えてくださったのです。リハビリテーションのような意味合いだったのかな、と思います。
男澤:斎藤さんに戻ってきてほしいとラブコールをして、それに応えてくれたことで復帰となったのですが、一時期は確かに社員たちに気を使う一面はあるのかもしれませんね。
斎藤:皆さんには、「よろしくお願いします。いろいろと教えてください」とはじめてこの会社に入ったような雰囲気で接するように努めました。半年近く経った今も、緊張しています。まだ、私としてはリハビリ期間です。皆さんに合わせようと、必死にがんばっています。
男澤:そうですか?楽しそうに話し合っているように見えますよ。
斎藤:違う会社に入ったような思いになっています。
男澤:2010年に斎藤さんが入社した頃は、小さな町工場の雰囲気だったのかもしれませんね。技師や営業、総務、経理と分担はありましたが、忙しい時には全員で対処し、支え合い、残りこえてきました。今は業績が拡大し、取引先が増えています。各部署や個々の社員の担当する仕事の内容や範囲も明確になりつつあります。
斎藤さんからすると、スリーハイが会社らしくなってきたな、といったさみしさのようなものが多少なりともあるのかもしれませんね。
斎藤:その意味でのさみしさはあります。会社が発展するのは、とてもいいことですが。
Q.業績が拡大し、社員数が増えると組織としての一体感や求心力を失い、個々がバラバラに判断し、行動をとる場合があります。その中で、その変化についていくことができない社員も現れ、社員間の意識の面での格差が生じるケースもありえます。スリーハイでは、いかがでしょうか?
男澤:そのような一面は、あるのかもしれません。ここ数年、急激に変わろうとしている中、経営理念やバリュー(大切にする価値観)を全社に浸透させ、求心力を維持する試みを常にしているのですが、斎藤さんはその変化の中で何かを感じとったのかもしれませんね。
退職する前はお子さんの小学校の入学など私生活でも変化があったようですから、一層にいろいろと考え込むようになったのかもしれません。純粋で、責任感が強く、取り組むことにきちんと向かい合いたいと願うタイプですから、何事にも中途半端にはできないんでしょう。
斎藤: 2021年2月に辞める数か月前は、ひとりで勝手に多くのことを抱え込み、精神的につぶれてしまいかねない、と思っていました。2022年5月に復帰以降はそのようにならないように、適度にリラックスしながら仕事をしていきたいと考えています。時には本音トークや愚痴もこぼしながら(笑)。
男澤:それがいいですよ(笑)。よかった、よかった。斎藤さんが戻ってきてくれたので、彼女の上司も喜んでいます。その上司は営業の本部長として海外進出に攻勢をかける原動力となり、急成長しています。斎藤さんのお陰とも言えるでしょうね。
斎藤:辞めて、ここに戻ってくると、社員の皆さんはハートフルで、思いやりがあるなぁとあらためて実感いたします。やはり、スリーハイは人だな、社員だなとつくづく思います。
Q、20~30代の読者にメッセージをお願いします。
斎藤:2年前の私のように疲れてしまい、本意ではないのにその時の勢いで今、辞表を出そうとしているならば、まずは上司や周囲の親しい社員に相談をしてみたほうがいいように思います。ちょっと止まり、よく考えてみましょうよ。とりあえず、深呼吸をしましょう、と言いたいですね。あの頃は、私は過呼吸みたいな状況だったのだと思います。
男澤:クールダウンや深呼吸は、大切ですよ。読者の方が本意ではないのに、衝動的に辞めたいと思うならば、まずは上司や役員、社長などに相談をしてほしい。今、何が起きているのか、何が問題であるのかなども含めて話してみたらいかがでしょうか?
取材・文/吉田典史