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最新テクノロジーで視覚障がいに関わる課題を解決するイノベーティブな事業アイデアを6社が発表

2022.12.20

じつは筆者、数年前に緑内障で失明寸前の祖母を2年間介護していたことがある。片方の目は完全に光を失い、もう片方の目はかろうじて輪郭がわかる程度。それ故、ひとりで外出することができず、常に筆者がアテンドしていた。

手をつなぎ「障害物はないか、段差はないか」と常時、気を張っていたため、外出から帰ると筆者はヘトヘトに。その雰囲気を感じ取り、祖母は申し訳ない気持ちになったらしく、徐々に必要最低限の外出しかしなくなった……。

高齢者でもそうなのだから、活動的な年代の視覚障がいの方だったら「一人で自由に歩きたい。でも人に頼らなければ外出しにくい」というジレンマは相当なものだろう。

2050年までに視覚障がい者の数は全世界で3倍になる!?

ここでひとつ、イギリスの医学誌『ランセット・グローバル・ヘルス』が、2017年8月に掲載した失明者に関する研究結果を紹介したい。

それは「2015年時点での失明者の数は、全世界で約3,600万人。ところが、高齢化や人口の増加を背景に、治療面で大きな改善がなければ、2050年にはおよそ3倍の1億1,500万人にまで増えるだろう」と予測したもの。

これほどの増加が予測されるなら、新たなる治療法はもちろんのこと、テクノロジーを駆使して視覚障がい者が自由に外出できるデバイスをつくることが急務だといえよう。

視覚障がいに関わる新規事業創出支援を目的とした『VISI-ONE アクセラレータープログラム』

そこで紹介したいプログラムがある。参天製薬株式会社(本社:大阪市)、特定非営利活動法人日本ブラインドサッカー協会(東京都新宿区)、一般財団法人インターナショナル・ブラインドフットボール・ファウンデーション(東京都新宿区)の3者は、視覚障がいの有無に関わらず、誰もが当たり前に混ざり合う共生社会の実現を目指し、「“見える”と“見えない”の壁を溶かし、社会を誰もが活躍できる舞台にする」というビジョンを掲げ、2020年にパートナーシップを締結した。

この3者パートナーシップでは「共体験でそれぞれの個性や強みを理解する」、「“見える”に関するイノベーションを創出する」、「視覚障がい者のQOL(Quality of Life)を向上する」という3つのゴールを設定し、2021年4月から様々な活動を『VISI-ONE(ビジワン)プロジェクト』として展開。

そのプロジェクトの一環として、“見える”に関するイノベーションを追求し、視覚障がいに関わる“壁”を溶かす新規事業創出支援を目的とした『VISI-ONE(ビジワン)アクセラレータープログラム』を2022年に初めて企画。本プログラムに採択された企業6社による事業アイデアの実証成果を発表するデモデーを開催した。

視覚障がいがあっても楽しめる体験提供などコンセプト実証の成果を発表

デモデーでは、6社の代表者がIoT(Internet of Things:モノのインターネット)やAI(Artificial Intelligence:人工知能)などのテクノロジーを取り入れ、視覚障がい者が抱える課題の解決につなげる製品・サービス、また、MR(Mixed Reality:複合現実)や器具の振動によって道案内する技術を活用し、視覚障がいがあっても楽しめる体験提供などの事業アイデアについて、コンセプト実証の成果を発表した。その企業の事業アイデアと実証の内容をシェアしていきたい。

●靴に挿入するデバイスで行き先を知らせる歩行ナビゲーションシステム

株式会社Ashirase(栃木県宇都宮市)
代表取締役 CEO 千野歩(ちの・わたる)さん

自動車大手ホンダの新事業創出プログラムから創業したAshirase(アシラセ)は、靴に取り付けた器具(デバイス)を振動させ、視覚障がい者の単独歩行をサポートするシステム『あしらせ』を開発。

同システムは、スマートフォンの専用アプリと器具が連動し、目的地を音声入力すると、GPS(全地球測位システム)などを利用して経路を検索。“音声”ではなく、足への“振動”で道案内してくれるのだ。

例えば、靴に装着したデバイスがスマホから信号を受信し、右折なら右足、左折なら左足、直進なら両足の装置が振動し、曲がり角に近づくとその感覚が短くなる等の仕組み。

本プログラムの実証実験では、『あしらせ』を視覚障がい者に貸し出しし、旅先で振動による道案内を体験してもらった。この成果を活かし、2022年度内に一般消費者向け、企業向けのサービススタートを目指している。

●MR(複合現実)技術を活用し、音声で空間体験をより魅力的に提供

株式会社GATARI(東京都千代田区)
代表取締役 CEO 竹下俊一(たけした・しゅんいち)さん

東京大学発のスタートアップGATARI(ガタリ)は、MR技術を活用したMRプラットフォーム『Auris(オーリス)』を2020年9月にローンチ。現在、博物館やテーマパークで導入されている。

『Auris』は、事前にアプリに取り込まれた施設のデータを活用し、施設内に入りスマートフォンのカメラを空中にかざすと、自身が空間のどの位置にいるのかを高精度で測る。体の向きや対象物からの距離に応じ、あらかじめ空間に配置された音声コンテンツを楽しめるのが最大の特長だ。

GATARIは本プログラムを通じ、都内の複合施設にてMRを活用した空間体験の実証実験を行った。課題抽出とサービス改善を図り、商業施設や文化施設などで、常設的な体験の場を導入することを目指している。

●まるで人が話しているような高品質な合成音声をAIで作成する

クラスリー株式会社(東京都杉並区)
代表取締役 藤澤耕平(ふじさわ・こうへい)さん

ITスタートアップのクラスリーは、AIを活用し、テキスト原稿を人間に近い精度で読み上げるソフト『Alterly(オルタリー)』の開発を進めている。

最大の特長は、音声収録されたプロのナレーターや声優の声を機械学習することで誕生したAIオルターが、人に近い高品質な合成音声を自動で作成する点。

実証では、視覚障がいのある方が音声のないコンテンツにアクセスした際、情報を取得できないという問題を解決すべく、従来のナレーション収録コストを音声合成AIの技術で大幅に削減できる読み上げソフト『Alterly』を企業のウェブサイトに導入し、効果を検証した。

●AIで歩行支援。カメラが右折・左折の場所や障害物を認識し、音声で案内

株式会社コンピュータサイエンス研究所(福岡県北九州市)
左から・代表取締役 林秀美(はやし・ひでみ)さん 
営業企画・企画開発 統括部長 高田将平(たかだ・しょうへい)さん

AIスタートアップのコンピュータサイエンス研究所は、視覚障がい者向けに安全な歩行を支援するアプリの実用化を進めている。

同社が開発したiPhone用アプリ『EyeNavi(アイナビ)』は、歩行者用の経路情報をベースに、GPSを使い、利用者の現在地を把握。右折・左折や交差点の場所、障害物の有無を音声で伝え、カーナビゲーションのように目的地へと音声でガイドする。

利用者はiPhoneを首からぶら下げて使用。iPhoneのカメラが撮影した周囲の画像をAIが解析し、歩行者信号の色や展示ブロック、歩行の妨げとなる障害物の情報をリアルタイムで知らせる仕組み。

今回、社会実装(※)パートナーの支援を受け、同社として初めて屋内での実証実験を実施。GPSの届かない屋内誘導は電波発信器(ビーコン)を活用し、東京駅から丸の内エリアのビルへの移動と施設内での買い物を支援する体験会を行った。

※)研究開発によって得られた「知識」「技術」「製品」「サービス」を実社会で活用すること。

●『忘れ物防止タグ』技術を活かし、飲料の自販機の場所探知&購入をナビゲート

MAMORIO株式会社(東京都千代田区)
代表取締役 増木大己(ますき・だいき)さん

紛失防止デバイスを手掛けるスタートアップ、MAMORIO(マモリオ)は、独自の『スマートトラッカー(忘れ物防止タグ)』で培った技術を有効活用し、視覚障がい者が飲料の自動販売機の場所の探知から購入までをナビゲートするスマホアプリを開発。

電波発信器(ビーコン)を取り付けた自動販売機に近づくと、アプリが連動し「近くに飲料の自動販売機があります」と音声で通知。さらに近づくことで、販売しているものの詳細(例:1番左上が炭酸飲料、隣から順に麦茶、コーヒーです)を読み上げる仕組みだ。

デモデーでは開発段階のアプリの概要を発表した。今後は飲料メーカーの協力を受けながら実証実験を行い、2023年までの商用化を目指している。

●点字ブロックにQRコードを設置し、目的地まで誘導する音声アプリ

リンクス株式会社(東京都港区)
shikAIプロジェクト担当 藤山悠史(ふじやま・ゆうし)さん

ソフトウエア開発のリンクスは、視覚障がい者を“音声”で安全に指定地まで誘導するiPhone用アプリ『shikAI(シカイ)』を開発。

iPhoneのカメラで点字ブロックに貼られたQRコードを読み取り、「右10メートル」、「前方に下り階段です。15段下ります」など、進む方向や距離を音声読み上げ機能で届けるシステムだ。

本プログラムを通じ、異なる鉄道事業者間での行き来までもスムーズにできるようなスキームを構築していく考え。

『shikAI』は、東京メトロが駅構内のホームや出口への経路をナビするため、2021年1月に導入を開始。2022年8月現在で、東京メトロの計9駅(明治神宮前〈原宿〉駅、北参道駅、西早稲田駅、外苑前駅、東池袋駅、護国寺駅、豊洲駅、辰巳駅、新木場駅)の他、豊島区の区役所、図書館でも利用可能。

社会実装への実現性を審査基準に(株)Ashiraseと(株)GATARIの2社が受賞

各社の成果発表をもとに審査が行われ、アイデアの独自性や新規性、短期間での成長性と社会実装への実現性を審査基準とする『Business Innovation Award』に株式会社Ashiraseが選ばれた。

【受賞コメント】「今回の受賞は『社会実装』の可能性を高く評価していただいた結果だと捉えています。『社会福祉』をテーマにした事業は、事業化が困難というイメージがありますが、Ashiraseがその認識を打破するきっかけになればうれしいです」

また、視覚障がいに関する課題への理解、および、中長期的な視点からの共生社会の実現性を審査基準とする『Social Innovation Award』に株式会社GATARIが選出された。

【受賞コメント】「このプログラムを通じ、視覚障がい者の方々と密なコミュニケーションの機会を得て、社会課題解決に向けて新たな取り組みに挑むことができました。今回の挑戦がより社会にインクルーシブな形に進歩、加速させることにつながればと思います」

【筆者の視点】

デモデーに参加し、斬新な事業アイデアの数々に驚いた。視覚障がいの方でも、これらのデバイスを使いこなせば、自由に外出や買い物ができる時代なのだ、と。審査員と発表者の質疑応答では、改善の余地があるモノもあるらしいが、社会的意義のある発想に拍手を送らせていただいた。

ただ、これらを使えるのは活動的な年代の人に限られるだろう。いつの日か、高齢な視覚障がいの方でも使いこなせるデバイスができることを願うばかりだ。

関連情報:https://www.santen.co.jp/ja/accelerator-program/application_5.jsp

取材・文/藤田麻弥(ウェルネス・ジャーナリスト)

雑誌やWebにて美容や健康に関する記事を執筆。美容&医療セミナーの企画・コーディネート、化粧品のマーケティングや開発のアドバイス、広告のコピーも手がける。エビデンス(科学的根拠)のある情報を伝えるべく、医学や美容の学会を頻繁に聴講。著書に『すぐわかる! 今日からできる! 美肌スキンケア』(学研プラス)がある。

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