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寝耳に熱湯!社員の配置転換を名古屋高裁が無効と判断した理由

2022.12.16

こんにちは。

弁護士の林 孝匡です。

今回は裁判例のザックリ解説です。

会社が

「このたび新しく倉庫部門を作ったので」
「チミ、来月から倉庫部門ね!」

と配転命令を出しました。

マジですか…。

Xさんは「これは見せしめや嫌がらせだ…」とブチギレて提訴。

配転命令が無効であることを求めました。

名古屋高裁はザックリ「倉庫?はぁ?権利の濫用なので無効ね」と判断しました。
(安藤運輸事件:名古屋高裁 R3. 1.20)

あと「新たに倉庫部門が必要とか、ウソくさいんだよね〜」とも認定しています。

Xさんの経歴や経験を全く考慮しない配転命令であったことが1つの理由です。

これからジョブ型雇用が増えてくると思うので、そこも念頭において解説しました。

では参ります。

バトルの当事者

会社は運送会社です(安藤運輸)。

組織としては、総務部、倉庫部門、9つの配送担当部門から成り立っています。

配送担当部門には、運行管理者が配置されていました。

この運行管理者として採用されたのが、Xさんです。

中途採用されて、運行管理業務や配車業務に従事していました。

運行管理業務の経験を買われて採用に至っています。

配転命令

採用されて、約1年半後・・・寝耳に熱湯!

Xさんは、社長から、倉庫業務に異動するよう打診を受けました。

え、マジで・・・って感じだったと思います。

運行管理業務の経験を買われて入社したのに、肉体労働バッキバキの倉庫業務への配転命令なので。

Xさんは応じなかったのでしょう。その後、社長は配転命令権を行使しました。

以下の就業規則に基づくものです。

会社は,業務の必要により社員の配置転換(職場の転換,職種の変更 等)を行う

あなたの会社にもあるはずです。

でも、配転命令が常に認められるわけではありません

今回の事件で名古屋高裁は「配転命令は権利濫用なので無効だ!」と判断しました。
(地裁でも同じ判断でした)

以下、裁判所の判断を解説します。

裁判所の判断

名古屋高裁は「本件配転命令はXさんに対し、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものなので、権利濫用として無効」と判断しました。

一言で言えば、この配転命令、ムチャやん です。

「倉庫業務に配転させる必要性は低いし、Xさんは運行管理業務として採用されてんじゃん。期待を裏切りすぎ〜」みたいなことです。以下、詳しく解説します。

▼ Xさんの期待に配慮しなきゃダメじゃん

裁判所はコレを結構、強調してますね。

■ Xのさんの経歴

・複数の会社で運行管理者として働いていた(合計19年ほど)
・運行管理者の資格も取得していた

■ Xさんを採用した経緯

・運行管理業務を行える人材を募集していた
・求人票に「入社後,運行管理者の資格を取得していただきます」と記載していた。
 → 裁判所は「Xさんの経験を見込んで採用したことは明らか」と認定

■ Xさんへの説明

 Xさんは、面接で「運行管理業務をしたいです」と伝えていたんです。

 あと、Xさんは、総務課長から前の会社を辞めた理由を尋ねられた際、「前の会社では運行管理業務をしたかったが、夜間点呼業務に異動させられました」と回答したところ、総務課長から「夜間点呼業務に異動させることはない」と説明を受けています。

期待アゲアゲですわな。

裁判所は、このような事実を挙げて「配転する際には、Xさんの期待に相応の配慮をしなければならない」と認定しました。

▼ 配転させる必要性は、高くない

「Xさんを配転させる必要って、別になくない?」ってことです。詳しくいうと、

・Xさんの能力・ 経験が倉庫業務に活きるとは考えにくい
・他に適性のある者がいた
・倉庫の現場作業は基本的に倉庫の従業員が担当している
・倉庫部門の業務内容範囲が不明瞭である
・第2倉庫の新設を踏まえても倉庫業務の業務量はさほどではない

高裁はさらに踏み込んで「新たに倉庫部門が必要とか、ウソくさいんだよね〜」とも認定しています。おキレイな言葉で言うと ↓ 判決そのまま

====

倉庫部門の新設は、実態がないにもかかわらず、本件配転命令の業務上の必要性を作出するために控訴人が訴訟上主張しているにすぎないのではないかとの疑問を抱かざるを得ない

====

ものすごい疑ってますw

なんだかんだ体裁を整えて異動させようとしても、裁判所で粉砕されます。

▼ 結論

以上の事実をミックスして、裁判所は「本件配転命令はXさんに対し、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものなので、権利濫用として無効」と判断しました。

重要ポイント

配転命令では「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益かどうか」が審理されます。

ザックリ言うと、この配転命令、やりすぎじゃね?かどうかです。

今回のような部署異動命令であれ、転勤命令であれ、同じ枠組みで判断されます(東亜ペイント事件:最高裁 S61.7.14)。

裁判所は、Xさんが入社に至った経緯や、Xさんの経験・能力、会社の対応をつぶさに見て判断しています。

今後、ジョブ型雇用(あらかじめ定義した職務内容に基づいて必要な人材を採用する制度)が増えてくると考えられています。

▼ 工夫

特定のスキルを活かして転職を考えている場合には、Xさんのように面接で「別の職務は避けたい、この職務だけをやりたい」などと伝えておくようにしましょう。できればメールやチャットでやりとりをしてスクショしておくこともオススメします。万が一、Xさんのような配転トラブルがあった場合に、証拠として活きまくります。

今回は以上です。

では、また次の記事でお会いしましょう!

取材・文/林 孝匡(弁護士)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
webメディアで皆様に知恵をお届け中。「こんなこと解説してくれや!」があれば、下記URLからポストお願いします。
 https://hayashi-jurist.jp(←プロフィールもコチラ)
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