「ある分野の製品が時間を経る毎に安くなっていく」というのは、昔からある現象だ。
白黒テレビが一番分かりやすいだろう。力道山がプロレスのテレビ中継を始めた頃の白黒テレビは、普通の会社員では1年分の収入を出しても買える代物ではなかった。
それが数年のうちに安くなり、金持ちではない一般家庭にも普及した。
そうしたことが、スケールは異なるとはいえワイヤレスイヤホン内蔵スマートウォッチにも起こっているようだ。
安いことはいいことか?
GREENFUNDINGでページを公開している『Protx X8』は、筐体の中にワイヤレスイヤホンが収納されているスマートウォッチである。
ワイヤレスイヤホンというものは、形状によって例外はあるものの、大抵の場合はバッテリー付きの収納ケースがなければならない。
ならば、スマートウォッチそのものを充電ケースにしてしまおう。
そのようなコンセプトで開発された製品が去年の初め頃から出てくるようになっている。
が、今まで筆者が見てきたものはいずれも1万5,000円を下らなかったはずだ。
ところが、今回の『Protx X8』は一般販売予定価格が1万3,800円、GREENFUNDINGでは8,832円での予約を受け付けている(12月12日時点)。高いか安いかで言えば、やはり安い。
だが、「安いから記事にする」という考えに陥ってはならない。
筆者は今年で38歳だが、この世代の人間はまさに「デフレの子」で、山一証券や北海道拓殖銀行がなくなる様を中学生の頃に見ている。
高校生の頃には、マクドナルドの1個59円のハンバーガーを食べていた。
従って、我々の世代には「値段が安い」ことに安易に飛びついてしまう人が少なくないのだ。
それはさておき、『Protx X8』のパフォーマンスを検証してみよう。
意外な立体音質
『Protx X8』の筐体は、下面からパカッと開くようになっている。その中にはイヤホンが2個。
だいぶ小さいが、連続再生可能時間は約3.5時間。休憩の合間に音楽を聴く目的であれば、十分なスタミナと言える。
なお、イヤホンのフルチャージには最大1.5時間を要する。
いかんせんボディ自体が小さいので、筆者の耳にもすんなり入ってしまう。というのも、筆者の右耳はいわゆる「餃子耳」。
若い頃に格闘技の道場で潰してしまったのだ。
故に、中には筆者の耳にはまったく適合しないイヤホンもあるのだが、『Protx X8』に限ればそういうことはまったくなかった。
音質も意外な立体感だ。モダンジャズを聴いても、ウッドベースの響きがよく伝わってくる。
安いイヤホンではベースもドラムもサックスも全て平板化されて「1枚の紙」のような馬鹿げた音質になりがちだが、『Protx X8』ではそのようなことはまったくない。
3.5時間再生できれば十分?
今の時代、1回の充電で12時間以上持つワイヤレスイヤホンなどというものは珍しくない。
が、見方を変えれば「そんなスタミナが必要なのか?」ということも言えてしまう。
筆者がガジェットライターという仕事をする上で気をつけているのが、「使用者の安全」である。
たとえば、サイクリングの最中に音楽を聴くのに最適な(と、メーカーが謳っている)ワイヤレスイヤホンというものはたくさんある。
しかし、そのような製品をメーカーから借りたとしても、本当に「サイクリング中に音楽を聴く」という内容のレビュー記事は書いたことがない。
たとえ記事配信後にメーカーに指摘されたとしても、そうした実証実験はしないことにしている。
自転車に乗っている時は、運転に全神経を集中させるべきだからだ。
それは街中を歩行している際も同様である。あまり人がいないところをジョギングするのならまだいいが、金曜夜の渋谷駅前をイヤホン着用の状態で歩行……となると、やはり危ない。
つ
まり、それは「恒常的に音楽を聴いているわけではない」ということだから「12時間の連続再生時間」はオーバースペックということにもなってしまう。
逆に、『Protx X8』のイヤホンのような「3.5時間の連続再生」がちょうどいいと思う人も少なくないはずだ。
「ショートカット」の快適さ
もちろん、『Protx X8』をビジネスシーンで活用するのもいいだろう。
Web会議に臨む際、『Protx X8』からイヤホンを取り出して耳にはめるという使い方だ。
そもそもが腕時計だから、「バッグからイヤホンを探して取り出す」という動作すら必要ない。
このあたりのショートカットは、製品の実用性に直結する。
この『Protx X8』をきっかけに、ワイヤレスイヤホン内蔵スマートウォッチがより身近なものになるのではないか。
【参考】
TWSイヤホン一体型のスマートウォッチ「Protx X8」薄型で1.69インチのディスプレイを搭載!-GREENFUNDING
取材・文/澤田真一