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説明できる?余ったプリンの最高に平等な分け方

2022.12.11

早稲田大学政治経済学部の必修講義「ミクロ経済学入門」は、早大生のアンケートに基づいた授業ランキング「面白い」部門で第1位を獲得した人気授業です。

この授業を担当している政治経済学術院教授田中久稔先生の講義が、このほど書籍化されました。『大学の人気講義でよく分かる「ミクロ経済学」超入門』SBクリエイティブ発刊、定価1760円)です。

大学生向けに語っているだけあって、ともかく分かりやすい。ビジネスパーソンにとっても、普段の生活では得られない、多くの気づきや新しい発想を与えてくれます。

特に最近、あまり本を読んでいない人、何を読もうかな?と迷っている人には絶対におすすめ。あの「見えざる手」で有名な経済学者アダム・スミスはボーッとした子で、通りすがりの放浪民に誘拐された、など、経済に関するちょっとしたエピソードがともかく楽しくて、つい誰かに話したくなるでしょう。(ちなみに、今回の原稿のチェックで田中先生から、原書は「見えざる手」で「神の」は付かないという驚きの豆知識をいただきました)

実例が具体的だと経済が身近になる

田中先生は新刊書の冒頭で、「大学で経済学を教えています」と自己紹介すると、決まって相手は「どの株を買うと儲かるの?」と返されると言います。そう言われた田中先生は「それを知っていたら、あなたには教えずに黙って株を買います」と答えるとか。

“2人のあいだに漂う気まずい雰囲気。苦笑いする質問者。これまで何度、同じやり取りが繰り返されてきたことでしょうか。

よい機会ですから、声を大にして言っておきましょう。経済学は「どの株を買うともうかるか」とか、「次に来るヒット商品は何か」とか、「御社を大企業に成長させるための戦略は何か」とか、そういう問題を考える学問ではないのです。そういうお金になりそうな話は、たぶんビジネススクールとかでやってるんじゃないでしょうか。知らんけど。

経済学、特にミクロ経済学が考えている問題は、どうやってお金を儲けるかではなくて、例えば次のような、人々の日常に関わることです。

5年1組のたかし君が風邪でお休みしました。その結果、給食のプリンが1つ余りました。クラスのみんながそのプリンを欲しがっています。このプリンは誰のものにするのが一番良いでしょうか”

プリンは誰もが大好きでクラスのみんなが食べたいおやつ。希少性があります。でも、余ったプリンはたった一つ。これをどう配分するか、希少性の配分問題をどう解決していくかが、ミクロ経済の本質であると田中先生は教えてくれました。

余ったプリンの最高に平等な分け方とは?

実際、たかし君のプリンは誰が食べるのが良いのでしょう。私は真っ先にじゃんけんだ、と思ったのですが、田中先生にバッサリやられてしまいます。

“じゃんけんによる余ったデザートの争奪戦は、日本の多くの小学校で繰り広げられている普遍的な光景です。どうせあなたが考えた案もじゃんけんなんでしょ? いやはや、酷い解決法ですなあ。

だって考えてもみなさいよ、人類の歴史を振り返るに、希少性があるものは、いつもその時代の権力者に配分されてきたのです。権力者の中身は貴族だったり僧侶だったり武士だったりしたわけですが、彼らはたまたま権力者の家に生まれただけで、希少性を好き放題に独占してきたわけですよ。

努力でもなく、才能でもなく、たまたまの運任せ、じゃんけんだって、そうじゃないですか?たまたま「グー」だか「チョキ」だかを出した人がすべてのプリンを独占するんでしょ?

たまたま貴族の家に生まれた馬鹿息子が四頭立ての馬車に乗るのと、だいたい同じじゃありませんか”

そして、田中先生はミクロ経済学からの発想でプリンを正しく配分する方法は、次の2ステップだと言います。

1)オークションを開催して最高入札者がプリンを手に入れる
2)オークションに負けた人たち(学校を休んだたかし君も含む)の間で、オークションの収益を分配する

結果クラスの全員が多少なりとも満足感を得られる、これがミクロ経済の仕組みだと言います。

ミクロ経済学では政府の市場介入も重要に

田中先生の授業はこうした具体例をあげて、身近な問題を経済学の観点から解説していくやり方で進みます。特にシングルマザーが困窮してミルクを買うお金が無く、赤ちゃんを死亡させてしまった事件を挙げて紹介した、政府の市場介入に関する事例は感動的です。

この事件をニュースで知った時、困窮したママさんに同情した私は単純に「ママのためにミルクを10円で売ればいいんじゃないの?」と思いました。しかし、この発想がいかに間違っていたか、ミルクを10円にしたことで、引き起こされると予想される悲劇(メーカーがミルクを作らない)に驚かされたし、安易な発想を反省しました。

ミクロ経済学はこうした人々が生きていく上での大切な「気づき」を与えてくれる学問でもあると、田中先生は気づかせてくれたのです。そう考えると、ミクロ経済学は何と身近で楽しい学問だったのでしょう!

コーヒーにもミクロ経済が

社会の仕組みに対しても、経済学の観点から見れば興味深い点がたくさんあることを田中先生は主張しています。

今、デスクにコーヒーを置いてこの記事を読んでいる人はぜひ、コーヒー豆生産現場の実態について紹介している「第7章そのコーヒーを買ってもいいの?」を読んでください。今すぐ、フェアトレードのコーヒーに切り替えたいと思うでしょう。

経済と人々の生活はこうして密接に結びついていたことを、田中先生は「具体例」と「たとえ話」を中心に説明してくれました。経済学の基本をとてつもなく気軽に楽しめるこの新刊書、ぜひ、田中先生の話術の沼にはまってください。

著者 早稲田大学政治経済学術院准教授 田中久稔 さん
1974年生まれ。ウィスコンシン大学マディソン校博士課程修了(Ph.D.取得)。2008年より早稲田大学政治経済学術院准教授。専門は数理経済学、計量経済学。著書に『経済数学入門の入門』(岩波新書)、『計量経済学のための数学』(日本評論社)などがある。

文/柿川鮎子

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