物価は上がるも給料は上がらず、さらに少子高齢化で将来の年金も心配……。今の時代、お金に関する漠然とした不安を抱いている人が、ほとんどではないだろうか?にもかかわらず、長らく日本人は自分の資産を増やすことについて、どこか無頓着だった。一昔前は普通預金にコツコツ貯金をすれば資産もできたが、今は違う。でも投資や資産運用はリスクが怖くて踏み切れない。そんな人は多いのではないか?
実際に欧米各国と比較しても、日本人の金融リテラシーはかなり低いと言われている。そこで政府は日本人のお金に関する関心や知識を向上させるべく、2022年4月より高校での金融教育の義務化を開始した。また親世代でも、子どもの将来のためにお金の知識を身につけさせたい。そんなニーズも増加しているが、子どもにお金の知識を身に着けさせるには、一体何から始めればいいのだろうか?
そこで今回は2017年より子どもの金銭感覚を育むために「キッズマネースクール」を開講。子どもたちが世界で生き抜いていける金融リテラシーを身につけてるために活動を行う、「日本こどもの生き抜く力育成協会」の代表理事・三浦康司さんにお話しを伺った。
マネースクールと保護者、タッグを組んだマネー教育が重要に
キッズマネースクールを開講する前は、ファイナンシャルプランナーとして大人向けの金融セミナーを開講していたという三浦さん。その一方で自身の2人の子どもには、それぞれ3歳と5歳のタイミングで独自のマネー教育をスタート。子どもたちのお小遣いを預かる、金利12%の“パパ銀行”を独自に立ち上げたという。
一般社団法人 日本こどもの生き抜く力育成協会代表理事 三浦康司さん
「これは時間と金利を使うことで、お金が増えることを学んでもらうことが狙いでした。そういったお話を大人向けの金融セミナーで話したところ、『わが子向けにもマネー教育をやってほしい』という声が多かったんです。それがキッズマネースクールを立ち上げたきっかけです」
三浦さんのキッズマネースクールでは、例えば「たくさん売ってお金を増やす」ことをミッションとした、お店屋さんごっこを実施している。3歳から参加することが可能で、売り上げを伸ばすための工夫として、商品に色塗りをしてもらうそうだ。
「色塗りの際は『キレイに塗ってるものと、汚くなく塗っているもの、どちらが売れるかな?』ということを考えてもらいます。あとは商品をキレイに並べて売るのと、ぐちゃぐちゃなのはどっちがいい?『いらっしゃいませ』という掛け声も、元気のあるお店と元気のないお店、どっちが売れる?とか。そういった意味付けをすると3歳の子どもでも頑張るし、とても楽しんでやってくれますよ」
三浦さんがマネースクールで子どもたちに伝えたいのは大きく分けて3つ。一つは「お金はいいものだ」いうポジティブな感情を持ってもらうこと。二つ目は「働くことでそのお金を一生懸命稼いでくれてるお父さんお母さんに、感謝しなきゃいけない」。三つ目が「そうやって稼いでくれたお金だからこそ、大切にしよう」いうことだ。
「僕たちのセミナーは2時間あって、子どもたちはとても楽しんでくれるし、一生懸命話を聞いてくれます。でもその1か月後、子どもたちは一体どのくらいその話を覚えているでしょうか?だからこそ子どもへのマネー教育はスクールだけではなく、お父さんとお母さんの力も絶対に必要になります。保護者とタッグを組んで一緒に子どもたちと教育する。そのためにはお父さんとお母さんもお金に関する知識や意識を高めることが絶対に必要となるのです」
お小遣いは子どもがお金を理解し始める3、4歳から始めていい
三浦さんが開講しているような子ども向けのマネースクールが、子どもの金融リテラシーを高めるためのきっかけになるのは間違いない。だがそれを継続し、身に着けさせるには親の力も必要となるのだ。
そのためには一体何から始めればいいのだろうか?まず三浦さんがオススメするのは「お小遣いをあげること」。始めるタイミングはお金の概念をなんとなく理解し始める3、4歳がいいという。
「僕が親向けのマネースクールでそういう話をすると、『早すぎる』と言われます。確かにこのくらいの子にお小遣いを渡しても、たいてい失敗するんですよ。落としたり、変なものを買ったり、友達にあげちゃったりするかもしれません。だからまずは、失敗しても大人が『まあいいか』と思える金額に設定することがコツですね。お金の知識がないばかりに40歳になって40万円の失敗をするくらいなら、そうならないためにも4歳で40円の失敗をして、お金について学んだほうがいい。そう考えてもらいたいです」
だが徐々に年齢が上がってくると、子どもとはいえ40円では済まなくなるだろう。小中学生になって自分で買い物ができるようになると、つい親としては使い道にも口を出したくなってしまうが……。
「渡した以上は子供のお金なので、使い道に文句を一切言わないのが鉄則です。日本人はお金のことをネガティブに捉える人が多く、無駄遣いをするとすぐに文句を言ってしまいます。でもお金は本来ポジティブなものだし、僕はそれを伝えていきたい」
親が子どものためにできる身近なマネー教育とは?
そのほか三浦さんがオススメする家庭でのマネー教育を教えてもらった。家庭でのマネー教育として、ぜひ参考にしてほしい。
●フリーマーケットに参加する
三浦さんがマネースクールで実施している「お店屋さんごっこ」が実際に体験できる場に。値段設定や陳列、接客などを子どもが積極的に関わることで、売り上げが伸びる方法を学ぶことができる。
●仕事体験テーマパークへ行く
有名なところでは「キッザニア」(東京・豊洲、兵庫・甲子園、福岡・博多)、「カンドゥー―」(千葉・幕張)など。実際に仕事体験をして報酬がもらえることを体感できるほか、独自の銀行口座で報酬を貯金することも可能。
●日経新聞を読む
新聞が読めるようになる小学校高学年以上から有効。三浦さんがオススメするのは、まず自分が好きな商品を作っている会社を知ること。例えばニンテンドースイッチを作っている任天堂や、好きなお菓子を作っているメーカーを知ることからはじめ、さらにその会社の株価をチェックさせる。株価が上がるということは、たくさんの人に応援してもらっている。そういった認識を持つことで、将来株式投資への興味にもつなることが期待できる。
ちなみに、三浦さんが主催するマネースクールの本社は大分にあるが、大分では2か月半先のスクールまでほぼ満員。関東でも開催しているが、こちらもすぐに定員が埋まってしまうそうだ。子どもへの金融リテラシーを高めるために、こういったスクールは確かに有効。だが三浦さんも言うように、スクールに通うだけでは知識は身につかない。子どもだけではなく親も正しいお金の知識を持ち、親子でポジティブに金融リテラシーを高めるための試みが不可欠となりそうだ。
取材・文/高山 惠