不動産を使って評価額を下げる相続税対策はよく聞くが、相続税をゼロ円にするような行き過ぎた対策は追徴課税される可能性もあるため、注意が必要だ。
不動産による相続対策
現金預金は相続税の課税価格の計算では、100%で評価される。
一方、現金預金と同額の不動産を持っているとその評価額は購入価格や時価ではなく、宅地の場合は路線価方式といって公示価額の80%程度で評価され、建物の場合は固定資産税評価額といって70%程度で評価される(公示価額は売買の参考とされる価格で時価に近い)。
さらに、マンション等で他人に貸しているときには、建物部分が70%程度に評価される。
そして、その貸している建物が建つ宅地部分が小規模宅地に該当すれば、土地の部分が50%程度で評価される。
そのうえ、そのマンションや土地をローンで購入していたときには、相続財産から債務控除することができる。
2022年4月19日最高裁判決
2022年4月19日最高裁判決で、相続人が敗訴した。国税当局が被相続人がローンで購入したマンションを路線価方式で行った評価で相続税ゼロとしたところ、「時価を反映していない」として再評価し、追徴課税を行ったのに対し、相続人が不当として更正処分、追徴課税の取消を訴えていた。
国税当局の更正処分は、「財産評価基本通達6項(総則6項)」の『この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。』はという通達によって、路線価方式で行われた評価額を国税当局が再評価した。その結果、相続人の申告による評価額約3億3,000万円から国税当局による不動産鑑定額約12億7,300万円となった。そして、相続人の申告では上記評価額からマンション購入のためのローン等の債務控除して課税価格合計約2,826万円、基礎控除後相続税ゼロとしていたが、約3億円の追徴課税、その後相続人は訴えたが認められなかった。
路線価で評価が下がるのは法律に適っているのになぜ敗訴?
不動産が路線価方式で評価が下がるのは、法律で認められていることだが、相続税対策としてそのような法律を最大限に使ってあからさまに節税して相続されたものは、法律で決まっていることでも覆される可能性があるということだ。
4月19日の判決理由は以下のようになっている。
・平成24年6月17日死亡後、相続人は1年以内の平成25年3月7日に第三者に売却
→不動産貸付を引き継ぐものではなく、相続税の節税対策で保有したに過ぎないとみなされる。
・死亡の3年前である平成21年に借入れをして不動産を購入
→もうすぐ相続があることを予想して相続税逃れのために借入れ購入したものを見られる
現にこの借入れがなければ、相続税の課税価格は6億円に上るものだった。
・相続税がゼロ円
→相続税対策しなければ相続資産は6億円あったものと思われるのに、相続税はゼロとなった
このように、あからさまに相続税対策で相続税をゼロにするために、ローンで不動産購入したものは、例え法律に乗っ取ったものでも、画一的に評価されるものではないとのことだ。法律で画一的に評価される方が公平ともいえるが、他の相続税を支払っている納税者や富裕層から税金を納税してもらい経済的平等を目指す観点からすると、6億円もの資産があるのに節税で相続税ゼロになるのは不公平感が否めない。
あからさまな相続税逃れは許されないかも
現金預金を不動産に替えることで確かに評価額を下げることはできるが、資産の評価を下げるためのあからさまな節税策は財産評価基本通達6項(総則6項)で更正処分を受ける可能性がある。死亡する直前、高齢になってからの借入れや不動産購入、相続後賃貸経営を引き継ぐのではなくすぐ売却してしまうのは、相続税対策とみなされるおそれがある。
相続税対策をするなら、高齢になってからではなくなるべく早めに行い、死亡直前に無理に行わないようにする方がよいと考えられる。
(参考)
裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan
第1章 総則|国税庁 (nta.go.jp)
文/大堀貴子